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第137話 嫁のために甲斐性を見せるとき

 冬休みを終えて学校に戻ってきた私は、アリーゼ先生の家を訪ねていた。


「で、相談って何ですか?」

「実は、ユリティウスの教師である先生にお伺いしたいことがありまして」

「ふむ? いいわよ、どうぞ?」


 私の様子から真面目な話だと感じたのか、先生が家でくつろいでいるホワワンとした感じから、授業で見せているキリリとした雰囲気に変わる。

 私の前で素を晒して甘えてくるアリーゼ先生も良いけど、こういう姿の先生もまたヨシである。

 そんな大人のお姉さん然とした姿に改めて見惚れていると、先生が私の目の前で手を振った。


「おーい? アンリエッタさん?」


 さん付けで呼ぶという事は、嫁ではなく完全に教師モードだという事だ。


「失礼しました、凛とした先生があまりに美しくて、つい」

「もうっ。そんな可愛いことを言う子には、後で補修ですからねっ」


 そんなことを言いながら、美人女教師にして私の嫁はパチリとウインクをする。

 美人女教師の家で夜の補習授業……実に蠱惑的な響きだ。相談後が楽しみである。

 でもそれはそうと、相談をしないとね。


「えっとですね、マリアンヌの件なんですけど」

「マリアンヌさん? 何か進展があったんですか? ぜひ聞かせて欲しいんですけど」


 ユリティウスで教師を務めるほど優秀な魔術師である先生は、途端に目を輝かせて手元にメモ帳を引き寄せる。

 幽霊という高次元魔力生命体であるマリアンヌのデータは、研究者として喉から手が出るほどに欲しいんだろう。


「あ、えっとですね、死霊魔術の研究自体はまだまだ全然進展してないんですけど」

「そうですか……」


 そもそも死霊魔術なんて完全に廃れた系統を1から研究しようなんて、そうそう成果の出るものでもないのである。

 なんでここまで人気が無いのかと思うくらいに資料が全く無いのだ。もう正直こっち方面では何年かかるかわからない。

 でもマリアンヌは私の子供を産むことを熱望しており、どうにかその願いは叶えてあげたい。そうして思いついたのが――マリアンヌのホムンクルス化である。

 本当は思いついたのが冬休みに入る直前で、もっと早く実験に移るべきだったんだけど、突如降ってわいた百合子作りの過密スケジュールに忙殺されてしまったのだ。

 ようやっとそのスケジュールにも慣れてきて、余裕も出てきたのでこうやって先生に相談に来たというわけである。

 実際のところ、マリアンヌは百合子作りの第2段階である『百合妊娠』で失敗が確定しているだけで、第1段階の『百合魔力結合』自体には問題ないからスケジュール的には全然大丈夫なのだが。


「ぶっちゃけ、別方向からアプローチしてみようかと思ってまして」

「別方向? それはどんな?」

「その前に確認なんですけど、私の娘でホムンクルスであるナデシコ、あの子は百合子作りできるんですよね?」


 ナデシコはアリーゼ先生から可能だと聞いたらしいけど、私も改めて直に聞いておかないといけない。


「できますよ。このまま成長していけば、10年後くらいにはおおきくなって百合子作りもできるでしょう……え? まさか――」

「そう、そのまさかなんですよ! 実は――」

「――ナデシコちゃんも嫁にする気……?」

「え」

「でもダメよ? 百合子作り自体は問題なくできるけど、あくまでナデシコちゃんは戸籍上あなたの娘。流石に実の娘とは結婚できないわ」


 いやいやいや!? 流石にナデシコを嫁にする気はありませんが!? あの子は可愛い可愛い私の娘です!!


「違いますよ!! あの子と子作りする気さえありません!」

「え? 無いの? そっちは普通にできるんだけど……」


 だからしないって言ってるでしょう。ナデシコから熱烈に求められたら考えなくもないけど。


「そうじゃなくて……ナデシコって、私の魂を複製して、それを核に作り上げたホムンクルスじゃないですか?」


 その人工的に作られた体に生殖能力があることが驚きだけど。魔法マジ凄い。


「厳密にはホムンクルスではなくそれに近い何か、なんですけど。でもそれが何か?」

「で、思ったんですよ。マリアンヌも同じ方法で体を与えてやれば、子供が作れるんじゃないかって!」

「……!?!?!?」


 先生は「そんなこと考えもしなかった」というような感じで、目を大きく見開いた。


「そ、そんな手が……!! 確かに、それなら死霊魔術なんて失われた術式を研究しなくてもいいですね。ホムンクルスの術式は極めて高度ではあるものの、式自体は既に完成されてますし……!」

「ですよね? いけますよね?」

「いけます、理論上はいけるはずです。ただ……」


 そこで先生は、その大きな胸を抱きしめるようにぎゅっと抱える。これは先生が考え込むときにする癖で、これが出るたびに教室は水を打ったように静まり返って先生を凝視したものである。


「何点か問題が――あ、でもそうでもないのかな……?」

「と、言いますと?」


 先生は無意識なのか、抱きかかえる腕にさらに力を込めたことで、そのたわわはつぶれて逃げ場を失い上に持ちあがる。実にけしからん、話に集中できないじゃないか。


「まず本来ホムンクルスの術式は、自らの魂を複製するものだ、という点です。これはさっきも言いましたが恐ろしく難易度の高い術なのでマリアンヌさんには行使不可能です。しかも魂の複製ならともかく、自分で自分を丸ごとホムンクルスに生まれ変わらせるなんてできません」


 相当な優等生だったマリアンヌでも、ホムンクルスの術を使うには到底修練が足りないようだ。

 しかも自身をホムンクルスにできるわけがないと言うのは、魂を体から抜き出した時点で式の制御が不可能になるのだから当たり前である。


「そこで次の手段として考えられるのが、他の人が対象の魂を複製すること、ただこちらは更に難しいです。なぜなら魂というのは非常に複雑かつデリケートな情報の塊なので、他人はおいそれと手を出せないのです、が」

「幽霊であるマリアンヌは魂がほぼむき出しみたいなものなので、その問題は無い、と」


 実際私はマリアンヌの魂情報をかなり深いところまで把握している。それは『百合魔力結合』をすることによって更に進んでいた。


「そうです。奇しくもマリアンヌさんが幽霊であったことで、一番困難と言いますか、ほぼほぼ不可能と言える魂問題はこれでクリアーですね」

「そうですね、他に問題はありますか?」

「そもそもとして生者にホムンクルスの魔法を使うのは法で禁止されているんですが、マリアンヌさんは――」


 死人(しびと)である。生者ではないのでその法に当てはまらない。まさに脱法ホムンクルスである。


「後は素体の費用ですね。ホムンクルスの素体を作るためにはレア素材が山ほど必要になるんですが」

「それはお金で何とかなります?」

「なりますね」


 こういう時ほど、自分が大貴族の家に転生してよかったと思う事は無い。ツテも使い放題だ。

 さっきの法関連だってもしかしたら揉めるかもしれないが、そこも何とか家の力を使ってでもゴリ押すことにしよう。


「相当かかりますけど、嫁のためですからね、ここは甲斐性を見せるところですよ」

「当然です。家の財産を切り崩してでも揃えてやりますよ」

「うんうん、頼もしいですね。流石は私の嫁です」


 先生からいい子いい子と頭を撫でられる。なんかこっぱずかしいが悪い気はしない。


「うん、行けそうですね、後は実験をしていけば――」


 だけど先生はそう言ったまま、胸をぎゅぎゅぎゅうっと締め付ける形で固まってしまう。おおおおお、つぶれてるぅぅ。


「あ、一番大事なことが抜けていました――」

「え」

「これはちょっと難問ですよ、どうしますかねぇ……」

「何が問題なんですか!?」


 せっかく光明が見えたというのに、まだ問題があるなんて。

 私は先生の肩を掴んで続きを促すと、先生は渋い顔をして口を開いた。


「――戸籍です」

「は?」

「ですから、戸籍が問題になるんですよ」


 戸籍、それが何の問題があると言うのか。ホムンクルスにはきちんと届け出をすればその製造者の娘としての戸籍が与えられて――


「あああああああ!?」

「そうなんですよ。その方法で体を作ったとしましょう。そうなると戸籍上は当然――」

「――私の娘になる」


 何という事だ。それじゃあ百合子作りは出来ても結婚が出来ない。もちろん私の子供を産むのが1番の望みだとマリアンヌは言っていたけど、それでも1人だけ結婚できないなんて不憫すぎる。


「何か手はないんですか!?」

「――ないこともない、けど……」


「どんな手段ですか!?」と聞く私に先生が返してきた答えは、それはもうかなりぶっ飛んだものだった――



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