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第136話 愛を知ったシスター

「さて、ノーラにはどんなのが似合いますかねぇ」

「あ、私はアンリエッタが選んでくれたのなら何でもいいですよっ」


 私は正式に彼女になったノーラと、実家から近くにある大きな街にデートで来ていた。近くとは言っても馬車を使わないといけないような距離にあり、街の規模はキマーシュに勝るとも劣らない。

 今回のデートの目的は当然、ノーラに贈る首輪を買いに来たのだ。本当なら付き合ってすぐに買ってあげようとしたんだけど、ちょっと百合子作りやらなんやらでごたごたしていて結局1週間後になってしまった。

 ノーラは「お忙しかったみたいですし、私は気にしていませんよ」と優しく言ってくれたけれど、私が気にするのだ。

 今日は何としても、ノーラに似合うのを買ってあげよう。そう固く決意して、私達は馬車から降り立った。


「大きい街ですね~」

「でしょ? うちの領地の中では一番大きいんですよ。当然百合神の教会もありますので、私と結婚したらこっちに務めるといいと思いますよ」

「はい、それはいいんですけど……」

「どうかしましたか?」


 言葉を濁したシスターの顔を覗き込むと、少しだけ頬を膨らませていた。何か失礼なことを言っただろうか?


「えっと……私達、お付き合いして1週間じゃないですか」

「そうですね」

「ですから、その……」


 ノーラは私の手をその小さな手で包むと、その小さな体をグッと背伸びさせてこちらを見つめてきた。


「け、敬語は止めてくれると嬉しいです……」

「え、でもノーラは私より年上で、しかも百合神の司祭様なんですよ? タメ口というわけにも」

「そうなんですけど、でもっ……」


 握られた手に力がこもる。


「その前に、アンリエッタの彼女として、ただ1人の女として見て欲しいんですっ」


 あまりの可愛さにクラっとした。こんなん反則でしょ……


「わ、わかった。じゃあこれからはタメ口にするよ? いい?」

「はいっ、お願いしますっ」

「あ、ノーラは敬語なんだ……」

「私はこのままがいいんですっ。そこはほら、彼女のワガママということで1つよろしくお願いします」


 可愛くぺこりと頭を下げられたら、それはもううんと頷くしかない。多分無意識なんだろうけど、自分の魅力をフルに使ってくるあたりがずるいよなぁと思う。


「はいはい、わかったよ」

「えへへ~」


 自分の望みが通ったことにシスターは笑みを浮かべ、私の手を取って歩き出す。

 その姿は、はたから見たら仲の良い姉妹に見えるだろうと言うくらい背丈が違う。まさか周りの人も私達が恋人同士だとは思わないだろう、と確信するに足る身長差である。

 こんな小さな子と――実際は成人女性なんだが――百合子作りをしていると言う事実に背徳感を感じてゾクゾクしてしまう。

 やはり私はロリコンの気もあるようだ。


「あ~えっと、ノーラ、体は大丈夫?」

「何がですか?」


 元気そうに振り向く姿からは、疲れなどみじんも感じさせない力強さがあった。

 新しく彼女になったという事で、かなり多めにローテーションに入っていると言うのに元気いっぱいだ。

 私なんて疲労回復の魔法をアリーゼ先生からかけてもらい、クラリッサからは疲労に効く魔法薬を処方してもらってようやっと、日々の愛の営みに勤しんでいるというのに。


「えっと、ほら、その、何と言うか……ほら、ノーラまだ経験浅いじゃない?」

「あっ……」


 そこで私の質問の意図に気が付いたのか、ノーラが頬を染める。


「ええ、なんかもう信じられないくらい体の調子がいいんです。こんなに調子がいいなんて、若いころを思い出しますよ」


 コロコロと笑う見た目はその若いころと変わらないだろうに、それでも違いはあるらしい。


「多分これはアレですね、愛を知ったことによる無敵感、というやつなんですかね。相談に乗った子達が言っていた意味がようやっと我が身でも実感できました。百聞は一見に如かずというやつですね」


 そこの言葉通り、元気にずんずんと進んでいくノーラだったけれど、ふと急に足を止めた。


「というわけでして……」

「ん?」


 そのままきゅっと私を上目遣いで見上げてくる。


「――もっともっと愛してくださいね。わたし、もっとあなたの愛を知りたいので」

「う、うんっ、任せてよ!」


 私は握られているその小さな手をぎゅっと握り返して、首輪屋に仲良く歩いて行った。



「ここですか~」


 私達が到着した首輪屋は、クロエール家が懇意にしている首輪屋さんで、店主から「ウチから伺いますから!! お屋敷でお待ちください!!」というお願いを代々断り続けているらしい。

 なんでも「店に買いに行くのが楽しいのです」と歴代の当主は言うらしく、その都度店主は実に困った顔をするらしい。


「さぁ入ろっか、ノーラ」

「はいっ」


 店に入るとすぐに店主が出迎えてくれた。


「まぁまぁアンリエッタ様。ようこそお越しくださいました。ささ、どうぞこちらへ」


 やや年配の女性である店主は、洗練された所作で私達を奥の部屋まで案内してくれようとするけど、それを丁重にお断りして店の中を見せてもらうことにする。


「ふわ~。可愛いですね~」

「そうだね」


 私もだいぶなじんできたのか、首輪に全く抵抗感を感じなくなっていた。それはまぁ毎日毎日首輪を付けた彼女を前にしてたら慣れもするよね。


「あ、これ、私が相談に乗った子達が付けてたのと似てますね」

「ここのお店は国中に支店があって、ここの本店で修業した職人さんがいるらしいから、その人達が作ったやつかもね」


「あ、これ可愛いっ、ああっこっちもいいなぁ~」


 色々目移りしているらしく、棚に恭しく陳列された首輪を食い入るように見ている。

 しかしノーラが興味を示しているのが、可愛い可愛いとはいいつつも実にアダルティーなデザインなのはどうしたわけか。

 黒を基調とした重々しいデザインや、シックな茶色を基調とした伝統的なデザインのばかりを手に取っているのである。

 隣の棚にある、いかにも可愛らしいリボンのついたやつなんかは眼中にないらしい。


「やっぱそういうのがいいんだ?」

「え? やっぱり?」


 だってノーラって、前にデートした時に行った下着屋さんでもかなりアダルトなやつばっかり購入していたからね。

 今ではその趣味に感謝しているけど。だってこんなロリっ子がそんなの付けてるんだよ? それはもうたまらんですよ。


「何かコレ! ってのはあった?」

「うう~ん、どれも可愛くて、迷っちゃいますね」


 私の基準ではノーラの手に持っている奴はどう考えても「可愛い」には当てはまらないんだけど、それが趣味なら仕方ない。


「あの」

「はいはいなんでしょう」


 奥に控えながら私達のやり取りを微笑ましげに見ていた店主さんが近寄ってくる。

 この店主さん、こんなに小さなノーラに首輪を渡そうとしていることに一切ツッコミが無いのはさすがにプロである。


「この子に似合うような、その、大人っぽい首輪を探しているんですが」

「――はい、大人っぽい首輪ですね、でしたらとっておきのがございます。少々お待ちを」


 ほんの一瞬、「えっ、大人っぽい? 可愛いのじゃなくて? いい趣味してるなぁ」って表情が浮かんだけど、それを刹那でかき消し、にこりと笑った店主はすぐさま店の奥に引っ込んでいった。


「こちらなどいかがでしょう? 当店で1番の職人が3ヶ月かけた逸品でございます」


 そう言いながら重厚な黒い箱を持ちながら戻ってきた店主が、これまた恭しい手つきでゆっくりとふたを開ける。


「わぁっ、綺麗……!!」

「これは……!!」


 現れたのは、一目で極上品だとわかる気品に溢れた美しい首輪だった。その磨き抜かれた革は吸い込まれそうなほどに美しい黒、留め金には緻密な細工が施されていて、いかにこれを作るのに職人が丹精を込めたかが伺える。


「どう? ノーラ」

「これがいいですっ、いいですか?」

「もちろん。じゃあこれ、お願いします」

「はいかしこまりました。こちらで付けていかれますか?」

「はい、あと……」


 大事なものを忘れるとこだった。これを忘れては話にならない。


「――リードもつけてくれますか?」

「勿論ですとも。こちらこの首輪に一番似合うリードをご用意しております。それはもう似合う事、職人の折り紙付きですよ」

「アンリエッタ……!!」

「首輪デート、したがってたもんね」


 目をキラキラと輝かせながら頷くノーラに首輪を付けてあげると、そのままリードを引きながら、私達は首輪デートを満喫したのだった。



お読みいただき、ありがとうございますっ!!

これにて第9章――2年冬休み、完結になります!

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