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第131話 瓢箪から駒

「ママっ!!」


 冬休みに帰省するための荷造りをしていると、後ろから誰かに抱きつかれた。

 とは言っても私をママと呼ぶのは2人しかおらず、そのうちこの大きさの子は1人しかいない。


「ミリーか、どうしたの?」

「私もいるよ~」


 私に抱きついているミリーの肩には、同じく私の娘でもあるナデシコがくっついていた。

 私の分身のようなものであるナデシコと、私の嫁になる予定であるアリーゼ先生婦婦の娘であるミリーは間接的に姉妹のようなものであり、2人はとても仲良しなのだ。


「今日も2人一緒なのね」

「だって、私、お姉ちゃんだもん!」


 そう言いながら胸を張るミリーにナデシコが頬ずりをすると、ミリーはくすぐったそうに目を細める。


「ね~お姉ちゃんっ」

「よしよし、ナデシコは可愛いねぇ」


 ミリーがお返しにナデシコの喉を撫でてやり、それにゴロゴロとまるで猫のような声を出してナデシコは甘えるのだった。


「ホント仲がいいね」


 なかなかにキマシタワーである。朝からいいものを見させてもらったとホクホクしていると――


「――だって、私、ナデシコがおっきくなったらお嫁に貰うんだもん」

「もう、お姉ちゃんったらっ」


 ……ん? 今なんて言ったの?


「えっ?」

「何? ママ?」

「今、何て言ったの? 聞き間違い?」

「え? ナデシコがおっきくなったら、私のお嫁に貰うってこと?」


 聞き間違いじゃなかった!?


「ええええ!? も、もうそんな約束をしてるの!?」


 いやいや、でもまぁ子供の頃に結婚の約束をするなんて、子供にはよくあることだしね。うんうん、きっとそうだ。


「えっと……私がおっきくなったら、お姉ちゃんのお嫁さんになりたいなって思ってるんだけど……ダメ?」

「いや、ダメなんて事は無いけどさ」


 子供同士の微笑ましいやり取り、そう見えなくもないけれど……ミリーはこの年にして私との結婚を本気で考えているくらいなのだ。もしかしたらこっちも本気なのでは? という疑問がぬぐえない。

 いや、ミリーはいい子だし、私の娘を嫁に出すのもやぶさかではないんだけど……


「えっと、でもナデシコはその……」

「ほむんくるす、なんでしょ? それママに聞いたら「問題ないでしょ」だって」


 問題ないの!? いやホムンクルスだという事は悪いことだとは欠片も思ってなかったけれど、普通に結婚とかできるとは思いもよらなかった。

 でもよくよく考えたら正式に戸籍も貰ってるし、そういうものなのかもしれない。


「そういえばナデシコ、少しおっきくなってきてるよね?」

「でしょ~? 日々成長してるんだから」


 私からの魔力を指から吸っているナデシコの身長は、生まれたての頃より確実に大きくなってきていた。最初は片手に乗るサイズだったのに、今では両手で持たないといけないくらいの大きさなのである。


「私もナデシコにご飯あげてるんだよ!」

「お姉ちゃんの魔力、凄く美味しいの! ママには勝てないけど……」


 このユリティウスで教師を務めるほどの魔術師であるアリーゼ婦婦の娘であるミリーは、当然ながら親譲りの強力な魔力を持って生まれて来ていた。

 それならば私と結婚してもなお魔力容量には余裕がたっぷりあるだろう。それこそナデシコを嫁にできるくらいに。


「アンリエッタママに比べたら誰だってそうよ。だってアリーゼママが言ってたもん。『あの子は歴代の魔術師の中でも別格だ』って」

「色んなママ達からご飯貰ってるけど、一番ママのが美味しいと思う」


 ナデシコは私の娘なので、当然私の嫁達にとっても娘だ。なのでナデシコはみんなからとても可愛がられていて、めいめいナデシコに指を吸わせているのである。


「あれ? でも指に魔力を集めるって結構難しいよね? ミリーそんなことできるの?」


 魔力を制御するすべは魔法学園に行かないと習うことは出来ない。当然ミリーにそんな技術があるわけもないんだけど……


「だから、ちゅーであげてるの」

「ちゅー!?」

「「ね~っ」」


 そう言いながら向かい合ってニコニコと笑う2人。

 確かに唾液を介してなら魔力を与えるのは凄く簡単になる。それならばミリーでもナデシコにご飯を上げることができるだろう。


「はぁ~……。最近の若い子は進んでるのねぇ」


 若いと言っても0歳と3歳なのだが。


「なんか最近ナデシコの成長が早いなぁと思ってたら、そう言う事だったのね? 間食していたんだ」

「だって私、育ち盛りだもん!」


 私だって十二分に魔力はあげてるんだけど、それでも魔力というのはいくらでも欲しいものらしい。


「それで? 2人共結婚したいの?」

「「うん!」」


 2人は仲良く声をそろえた。これもまた姉妹百合というのだろうか。

 娘を嫁に出す母親ってこんな気分なんだろうかと、私は若干の感傷に浸っていると、そこで更なる爆弾が投下された。


「それでね、ナデシコがおっきくなったら、私の子供を産んでもらって、その子をアンリエッタママのお嫁さんにしてあげたいねって話してたの」

「ぶーーーーーっ!!」


 なんてこと考えてるんだこの2人!? まだ0歳と3歳だぞ!? いや、子供だからこその発想なのか!?

 でもその子が大きくなるころ私何歳なの!?


「え、いや、そもそもなんだけどさ、ナデシコって百合子作りできるの?」

「え? おっきくなれば出来るよ?」


 ナデシコはさも当たり前かのように答えた。


「出来るんだ……」


 凄い話である。人工的に作り出した生命であるホムンクルス、そういうものは大抵生殖能力が無いものなんだけど、こちらではそうではないらしい。

 魂情報から複製してあるので完全に人工というわけではないんだけど。


 ……ん? ちょっと待って? そうなるとだよ?


「……そう考えると幽霊であるマリアンヌも、この手段を使えば何とかなるのかな……?」


 私の彼女で幽霊であるマリアンヌは、その肉体を持たないゆえに百合子作りができない。

 しかし魂の情報を複製して、それを核にすることで生まれるのがホムンクルスであるのなら、幽霊も同じ方法で体を製錬してやればいいのでは?

 だって幽霊は魂を霊的な力場で包んだような存在なのだ。魂に干渉するのは生身よりよっぽど楽かもしれないのだ。

 これは盲点だったかも……。


「ママ?」


 黙り込んで考えている私に、2人が不思議そうに声をかけてくる。


「いや、ありがとう、これでいけるかも」

「何が?」

「これで長い間苦労してきた問題が解決しそうだなって、2人のおかげだよ」


 瓢箪(ひょうたん)から駒とはこのことだ。まさか娘たちの百合子作りからヒントが得られるとは思ってもみなかったけれど。


お読みいただき、ありがとうございますっ!!

これにて第8章――2年後期、完結になります!

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