第128話 ギャップ萌えっていいなぁ
小さなシスターの手を引いて、私はキマーシュの街に来ていた。そう言えば最近街でデートしてばっかりだから、どこにどういう店があるのかかなりわかってきている。
今回は彼女をどこに連れて行ってあげようかなと後ろを振り返ると、シスターはまるで子供のように目をキラキラさせていた。
「デート……これがデートなんですね~なんて楽しいんでしょう……」
「いやいや、シスターノーラ? まだ街に着いただけですよ?」
「そうは言いますけど、こんな感じで2人っきりで馬車に乗ってお出かけするのだって、私初めてなんですよ?」
えええ? そ、それは何と言うか……友達はいないのだろうか?
「あ、何か失礼なこと考えてません? 一応言っておきますけど、友達たちと買い物に来たことくらいはあるんですよ?」
なぜそこまで正確にわかるし。彼女達からも考えてることを読まれまくりだし、どうも私は顔に出やすい方なんだろうか?
「でも、私はこんなちんちくりんですからね……妹として見てくれる子はいっぱいいたんですけど、女として見てくれる子はいなかったんですよ」
「えええ、なんて勿体ない……シスター可愛いのに」
「それは、子供として可愛いってことでしょう? それはいつも言われてるんですよ……」
そういうとシスターはしゅんとしてしまう。そうじゃないんだけどなぁ。
いや、でもよくよく考えたらおかしくない? いくらシスターがロリロリだとは言え、こんな可愛い子なんだし妹以上の感情を抱く子がいてもまったく不思議じゃないんだけど?
私は首を傾げながらも、シスターにどこに行きたいか聞いてみる。
「それで、どこか行きたいとこはありますか? なんなりとお供しますよ?」
「い、いいんですか?」
「だってせっかくの初デートですし、好きなとこを言ってくださいよ」
「え、えっと、それじゃあお言葉に甘えて……」
どこに行きたいのかな? 服屋さんか、ご飯か、それともお芝居ってのもあるよね。確か今話題作が上演されてるはずで――
「下着を買いに行きたいです」
「えっ」
「どうですか? 似合いますか?」
「え、あ……うん、似合いますよ~」
私はシスターに請われるままに、モニカの経営する大きな服屋に来ていた。
そこの試着室で、シスターが選んだ下着を私に似合うか、と聞いてきているのが今の状況というわけである。
女の子同士で下着を買いに来る、実に素晴らしいイベントだ、しかし、しかしだ。
この子……どうしてこんな体形なのに、凄い大人っぽいのばかり選ぶの!?
完全に目の毒なんですけど!! なにこれ!? 私誘われてるの!? それともやっぱり天然なの!?
「で、でも、も、もうちょっと大人しいデザインの方がシスターには似合うかな~と思うんですけど」
「ええ~そうですか? 私こんな体形ですし、ちょっとでも大人っぽい方がいいかなって思うんですよ」
「そ、そうですかね」
「まぁもっとも、見せる相手もいないんですけどね……」
ここで自虐ジョークである。反応しにくいわ。
「あ、ほらここ、可愛いと思いません? 紐になってるんですよ」
「あ、ああっ。そんなに引っ張ったら……」
今シスターが身につけている下着は、いわゆる紐パンってやつだ。それが上下揃いの紐デザインで、しかも大人な黒!! それがこのロリロリ体形を包み込んでいるんだからその危険なアンバランスさは筆舌に尽くしがたい。
「大丈夫ですよ? こういうのはデザインなので、引っ張っても取れないようになっているんです」
「それはもちろんわかってるんですけど、こう、見た目的に危ないと言いますか」
クスクスと無邪気に笑いながらくいくい紐を引っ張るシスター。やめんかぁぁぁ! 理性がもたんわい!
「私、このメーカー大好きなんですよね~。最近急成長したメーカーなんですけど、こう、見たこともないようなデザインの服や下着をバンバン発表してくるんですよ」
それはそうよね。だって私がデザインした異世界デザインだもん。今このロリシスターが身につけているのも私がデザインしたものだ。
でもこんなロリっ子が身につけるなんて想定外だったけど。
「えっと、下着、お好きなんですか?」
「好き、というと語弊があるんですけど……」
そう言うとシスターはやや恥じらいながら、少し寂し気に口元に手を当てる。
「だって、私達って年中シスター服じゃないですか、仕事柄。なのでおしゃれできるところって言えば下着くらいしかないんですよね」
なにげに悲しい話だった。おしゃれとかもしたい年頃だろうに。シスター服も女性の魅力を存分に引き立ててはいるけど、それだけというのもわびしいものがある。
「休日とかは私服って着ないんですか?」
「ううん……休日用のシスター服がありまして……義務ではないんですけどそれを着るのを推奨されているんですよね……」
「なるほど……」
でも義務ではないという事は、着てもいいということだ。
「じゃあ、これを買い終わったら私服を買いに行きましょう」
「え? でも……」
「義務じゃないんですよね? 私、シスター服のノーラも可愛いと思いますけど、ぜひ私服のノーラも見てみたいです。あ、今日はシスター服のままで結構ですけど」
そう、これは追加のデートのお誘いだ。ここで自然に名前呼びしておくのも忘れない。
「そ、それはつまり、その、また私と……?」
「はい、またデートしたいです」
まだデートも始まったばかりだけど、次のデートの予約も入れておきたい。
だって私、この子のこと嫁にしたいし、ここは押せ押せだ。
「――で、でもでも、私、こんなちんちくりんですよ?」
それは見ればわかる。どっからどう見ても幼児体形である。100人に聞いても1000人に聞いてもこのシスターが23歳だとは思わないだろう。
「ご覧の通り、脱げば凄いってオチでもないんですよ? もうぺったんたんのすっとんとんですよ?」
「女の子の魅力はそこだけじゃありませんよ? それに、ノーラは十分可愛いです」
「そ、それは……子供としてでしょう?」
「違いますよ。女の子として可愛いです」
「っ……!!」
さらに押してやると、ノーラは顔を赤くして言葉を詰まらせる。それからじっと私を見つめ、ゆっくりと反撃を開始してきた。
「…………流石に3歳の女の子からキスされてドキドキしたロリコンさんですね……」
「それは言わないでください」
確かにドキドキしたけど、それは見た目が完全に少女のそれだったしね。ロリというならシスターの方がよっぽどロリなのである。
「こ、こんなロリコンさんは、私がじっくりと監視をしないといけませんねっ」
「じゃあ?」
「わかりました。またデート……じゃなくて、監視をしてあげましょう」
もちろん監視というのは方便だが、これもシスターなりの照れ隠しなのだろう。
こうして無事次のデートの約束も早々に取り付けることができた私達は、服を購入して店を後にした。
ちなみにシスターはやっぱり大人なデザインばかり選んでいて、ギャップ萌えっていいなぁと改めて思うのだった。