第12話 世界が百合で満ちる
メイド服のデザインを考えていたせいでやや寝不足だけど、今日もエメリアに起こしてもらってなんとか遅刻は回避した。
当のエメリアは朝からハイテンションである。でも無理もない。今日は待ちに待った魔法生命学の初授業なのだから。
「そんなに楽しみなの?」
「それはもう! 期待で胸がはちきれそうですっ」
これ以上そのお胸に詰まったら私の理性がはちきれるから勘弁してほしいんだけど。
しかしエメリアは本当に嬉しそうだ。
「それにしても、まさかユリティウスで魔法生命学を学べるなんて……いまでも夢のようです」
「そんなに凄いことなんだ」
「それはもう! ユリティウスで魔法生命学専攻してたなんて言ったらもう引く手あまたで、王立研究所からお呼びがかかるほどなんですよ?」
どうも大人気の科目らしい。周りの生徒たちもそわそわとしているみたいだ。
――そうこうしているうちにチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
「はい、みなさんおはようございます。これからよろしくお願いいたしますね。では早速ですが授業を開始します」
落ち着いた雰囲気を持つ初老の女教師はトントンと出席簿で机をたたき、良く通る声で話し始める。
「え~魔法生命学とは、魔力で他の生命体……植物や動物、人間に対して影響を与えるための魔法を研究する分野です。
例えば怪我を直したり、植物の成長を早めたりといった事ができます。この辺は魔法薬学と密接に絡んでいますね。他には人間が持ってる魔力そのものに対する研究も行ってます」
こほんと咳払いをしてややタメを作り、
「そして、魔法生命学における最大最高の成果と言われているのが、そう、皆さんご存じ、女同士での子作りを可能にする術式――その名もずばり、百合子作りの術式です」
百合子作り。
パワーワード過ぎるわ。というかこの世界でも女の子同士の恋愛は百合でいいのね。それとも私の中で翻訳してそう聞こえるだけなのかしら。
「400年ほど前、偉大なるリリー・レジスによって、この百合子作りの術式は考案されました。当時付き合っていた彼女との子供が欲しいと願ったリリーが、その才の全てをかけてこの術を編み出したと言われています。まさに愛のなせる奇跡というわけですね」
愛か……でも女の子同士で子供が作れるとは、まさに奇跡である。
「この術式の完成により、世界は大きく変わりました――世界が百合で満ちることになったのです」
百合で満ちた世界……なんて素晴らしいんだろう。この世界に来て良かった。
「この魔法は当初、優れた魔力を持つ魔術師だけが使える極めて難しい術式でした。しかしそれから研究を重ね、魔法薬学と魔法工学で補助をすることが考案されました」
最初は限られた女性しか使えなかったのね。ふむふむ。
「そして、それら先人の研究のおかげで、今では誰でも女性同士で子供が作れるようになりました。まさに人類の英知を結集させたからこその成果ですね」
生徒たちは感嘆のため息を漏らしていて、隣のエメリアなんて感動してむせび泣いている。そんなにか。そんなに感動したのか。
まぁ私――アンリエッタのことが本当に好きみたいだしね、無理もないか。
「えー、しかしながら、この術は決して安易に使ってはいけませんよ? 理由は言わなくてもわかりますね?」
「はーい」と返事をする生徒たち。まぁそりゃ当然よね。ポンポコ使ってたらそれこそ大変なことになるし。
「この学園に入学できるほどの魔力を持った皆さんですから、それはもうモテてきたでしょうけど、だからこそきちんと節度あるお付き合いが大事ですからね?」
ん?魔力とモテるのに何が関係あるの?どういうこと?
「恋愛大いに結構。私も若い頃はモテにモテましたからねぇ~」
「はい! 先生! どれくらいモテたんですかっ!?」
そうだよね。こういう時に突っ込むのはルカの役目だよね。いい仕事よ。
先生はにっこりと笑い、
「そうですねぇ……私には妻が6人います。こう言えばわかりますか?」
「キャーッ!」「すっごーい!」と黄色い声が上がる。6人!? それはなかなか。
ん? あれ? でもつまり?
「魔力が強い人は、女性を惹きつけます。これは未だに理由はわかっていませんが、事実としてそうなのです。魔法生命学でも永遠のテーマになっていますね」
へぇ~と生徒達から反応があがる。いまだにわかって不思議ね。
「まぁやはり魔力が強い人の子供が産みたいと思う本能に訴えるのだ、という説が有力ではありますが……それも確定ではありません」
「はーい、せんせー! 魔力が高いとお金持ちになりやすいから、とかそういうんじゃないんですか?」
うーん、と先生は腕組みをする。
「そういう説も無くはないですが……それだとお金とかそういうことがまだ分からない、幼女までをも惹きつける説明が付かないんです」
「なるほど~」
んんん?? つまりあれなの? 魔力が高いと女の子にモテるの? そういうこと?
「えっと……」
「ああ、アンリエッタさんは特にそうでしょうね。あなたほどの魔力量なら、それこそ飢えた狼達の中でお肉ぶら下げて歩いているようなものでしょうから」
そんなに!? そんなになの!? 嬉しいような複雑なような……うう~~ん。
モテるのはいいんだけどあくまで自分から口説きたい派なんだけどなぁ。
「あ~それわかるかも。私もアンリエッタ初めて見たとき『うわ~美味しそうだな~』って直感的に思ったし」
おいこらルカ。いきなりそういう目で見ていたんかい。まぁ私も人のこと言えないけどさ。
でもなんか周りも頷いてるし! おいおい。
「わ、わたくしは全然、そんなことありませんわよ!? ええちっとも! 魔力が高ければ魅了に対抗することもできますしっ……! で、ですからこれはそういうあれじゃないんですわっ!」
「私は、その、えっと……魔力とかそういうことじゃなくて……その……お嬢様だから……」
なんか教室全体がピンクの空気に!?
「私もあと20年若ければね~」
先生まで何言ってるの!?
ハーレムは作るつもりだったけどここまで好条件でいいの!? 幸運が怖いんですけど!?
「まぁそういうわけだから、アンリエッタさん、頑張ってね……でもちゃんと節度を守るんですよ?」
頑張りますよ!! 頑張りますけどね!!




