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第118話 百合の揺りかご

 私達はマリアンヌとの百合子作りによる魔力結合を実験してみるため、アリーゼ先生婦婦の家を訪れていた。


「あれ? アンリエッタ……とマリアンヌさん?」

「夜分にすみません」


 私がドアをノックすると、家の主であるアリーゼ先生がドアから顔を出した。豊かなお胸にエプロン姿が抜群に似合っていて、実に素晴らしい。


「あ、お食事の準備中でしたか?」

「いえいえ、いいんですよ。もう食べ終わって片づけをしていたところです。それよりどうしたんですか?」

「その、ちょっとお願いがありまして」


 家を訪れた理由はもちろん、百合子作りの補助魔道具である『百合の揺りかご』を借りるためだ。すでにミリーがいて、テッサ先生のお腹にももう1人いるってことは多分持っているだろうし。


「立ち話もなんですし、どうぞ中へ」

「すみません」


 私達は先生に招かれて家の中へ入ると、トトトトという元気な足音と共にミリーが駆け寄ってきた。


「アンリエッタママ!! 私に会いに来てくれたの!?」


 ぎゅうっと私に抱きつきながら、私のお腹に頬ずりをするミリー。ううん、可愛い。


「あ、マリアンヌさんも。いらっしゃい」


 横にいるマリアンヌにようやく気が付いたのか、ぺこりと挨拶をする。


「お邪魔しますね、ちょっと先生達にお話があるんですよ」

「ママ達に? え~私に会いに来てくれたんだと思ったのにぃ~」

「そ、それもあるけどね」

「やったぁ!」


 私達は「こっちこっち」とはしゃぐミリーに手を引かれてリビングに通される。


「ずいぶん懐かれてますね、アンリエッタ」

「で、でしょ~? ははは」


 まだ言えない。この子が本気で私の嫁になりたがっているなんて。

 この子が希望するなら私の嫁にしてあげたいけど、まだ公表する勇気は無いのだ。ロリコンって言われそうだし……

 吹っ切れはしたが、それはそれ、これはこれなのだ。


「あれ? アンリエッタとマリアンヌ? どしたの?」

「テッサ先生、お邪魔します」


 リビングではグラスを手にして、これからワインを楽しもうとしているテッサ先生がソファーに座っていた。

 やばい、酔っぱらう前に話をしないといけない。テッサ先生お酒に弱いくせにお酒大好きだからなぁ。でも食事時には飲まないのか、意外だ。


「ちょっとお2人にご相談がありまして」

「お? なになに? 私達に聞きたいこと?」

「聞きたいことと言いますか、ちょっと貸して欲しいものがありまして」

「貸して欲しいものですか?」


 アリーゼ先生もエプロンを脱いで椅子に座ろうとしたので「いえエプロンはそのままでお願いします」とお願いする。

 だってエプロン姿をもっと見てたいし、それを脱いでしまうなんてとんでもない。


「アンリエッタ、エプロン好きですか?」

「好きです。大好きです」

「わかりました、じゃあ脱ぎませんね」


 にっこりと優しく笑うアリーゼ先生。いやぁやっぱりいいなぁこういう大人の女性のエプロン姿って。今度の夜にでもまた着てもらおう。


「それで、借りたいものとは?」

「えっと……その、ちょっとミリーには早い話なんですけど……」


 ミリーはソファーに座った私の横に座って、私の腰に手を回してしっかりと抱き着いている。


「あぁなるほど……ミリー? 私達はこれから大人の話をしますから、ちょっとお部屋に行ってらっしゃい」

「ええええ~? ミリーも聞きたい~。アンリエッタママと一緒にいたい~」

「こらこら、ミリー? ママの言う事は聞かないとだめだぞ?」


 テッサ先生が頭を撫でながらミリーに言うけれど、ミリーが私の腰に回した手は一切離れる気配がない。


「ミリー? あとで遊んであげるから、ね?」

「じゃあ、またデートしてれる?」

「デート?」


 マリアンヌが聞き逃さず私のことをじっと見る。


「ほ、ほら、この前ミリーと一緒にお出かけしたのよ」

「ああなるほど……」

「ねぇアンリエッタママぁ~お願い~」

「わ、わかったわ。またデートしましょ?」

「わぁい!! デート、デート! 約束だからねっ」


 そうしてまんまと私とのデートの約束をせしめたミリーはホクホク顔で部屋からトテテと出ていった。


「我が娘ながら末恐ろしいわ」

「まったくねぇ、ほんと隙があれば見逃さないからねぇ」

「ははは……」


 いやまったくね、ほんとその通りよ。あれで3歳なんだから成長したらどうなることやら。


「じゃあ改めて、何を借りたいの?」


 エプロン姿のアリーゼ先生に思わず見とれそうになるけど、その邪念をひとまず置いといて話を進めることにしよう。


「えっとですね……」

「どしたの? 私達は将来結婚するんだし、遠慮なんてしなくていいんだよ?」

「そうなんですけど……」


 いや、百合子作りをするための魔道具『百合の揺りかご』を借りに来たわけなんだけど、いざ話すとなるとかなりこっぱずかしいモノがある。

 だってそれの用途は、つまりそう言う事だからで、しかも婦婦で使っている物を借りようというのだ。恥ずかしくても当たり前である。


 ちなみに『百合の揺りかご』はベッドの下に敷く絨毯みたいな形状をしており、決して、全くいかがわしい道具ではない。

 だが魔道具としては第2級に分類されているのでそうおいそれと手に入るものでもないのだ。


「実は……」

「うんうん」

「…………『百合の揺りかご』をお貸しいただきたく……」


 かなり恥ずかしいが、それでもここまで来たら言うしかない。私は恥ずかしさをこらえながら先生方にそのことを告げると――


「……へぇぇぇ~~」

「……まぁ」


 目を丸くしていた。当然と言えば当然だけど。


「そっか、ついに百合子作りする気になったんだぁ! いやぁ~めでたい!」

「ううん……アンリエッタの彼女としては賛成なんですけど、教師としてはあまり賛成できませんね……やはり学生は学業が優先ですし」


 やっぱりそう言う反応になるよねぇ! でも違うんで――


「いやいや! アンリエッタ学外にも彼女いたでしょ? それにマリアンヌと一緒に来たってことはそういうことなんじゃない?」

「まぁ学生じゃないなら、そうなんですけど……でもこう言ったら失礼ですけど、意外ですね。私はてっきり最初の百合子作りはエメリアさんとするものだとばっかり思ってましたから」


 いや、だから誤解なんだって!! だけど盛り上がっている先生達には言葉を挟む隙も無い。


「えへへ……アンリエッタと百合子作り……」


 マリアンヌはマリアンヌでなんかうっとりしてるし! 違うからね? 子作りのためにするわけじゃないから!

 いや最終目標はそうだけど今はその段階じゃないから!!


「ほれほれ、賭けは私の勝ちだよ。あとで何でも言うこと聞いてもらうからね~」

「ううう……エメリアさんだと思ってたんですけどねぇ……」


 この婦婦、私が誰と最初に百合子作りするか賭けてたな? あとで夜におしおきしちゃる。


「違うんですよ!! 百合子作りはするけど、それは子作りのためじゃないんです!」

「はい? 百合子作りなんだから子作りのために決まってるでしょ?」


 テッサ先生がそう思うのも当然なんだけど、でも違うんです!! 私が説明しようとすると、アリーゼ先生が何か気付いたのか手をポンと叩いた。


「……あ、幽霊(ゴースト)で百合子作りのできないマリアンヌさんと一緒に来たという事は、そう言う事ですか?」

「そういうことなんです!」


 さすが基礎魔法学教師!! 話が早い!! 魔法生命学ほど百合子作りには精通してないけれど魔力関係なら専門家なだけのことはある。


「魔力結合絡みですね? 魂情報を調べるにはそれが一番ですから」

「大当たり!!」


 アリーゼ先生って私のことを調べるために百合子作りに誘ってきてたしね、そう言えば。


「死霊魔術の資料があまりにもなさ過ぎて手詰まりだったんですけど、ここでいったん基本に立ち返ってみようと思いまして。まずは幽霊であるマリアンヌを徹底的に調べることから始めようかなと」

「確かに、高次魔法生命体である幽霊は研究サンプルそのものがほとんどありませんからね、確かに、百合子作りでまず徹底的に精査するのは有効でしょう。いや、盲点でした」

「先生もそう思いますか?」

「はい、基礎魔法学教師としてもいいと思います」


 先生から太鼓判を貰ったのなら心強い。


「なるほどね~そういうことだったんだ~」


 テッサ先生は話が長くなったからなのか、既にグラスを開けていた。この人はホントに……


「じゃあ私達のをお貸ししますね」

「ありがとうございます! すみません」

「いえいえ、いいんですよ。だって私達はしばらく使う予定もありませんでしたし」


 そういうとアリーゼ先生はテッサ先生のお腹を優しくなでる。ご馳走様である。なおお酒を飲んでいるけどアリーゼ先生が厳重な保護魔法をかけているからその点は全く問題ないとのこと。魔法ってすごい。

 二日酔いだけはどうにもならないらしいけど。なぜだ。


「でも……学校にも備品、ありますよ?」


 は?


「え!? 学校に備品!? それはつまり、学校が推奨してるってことですか!?」


 百合子作りを!? 学生のうちに!? マジで!?


「いえいえ、授業用ですよ。前に魔法工学の授業で見せてもらったでしょう?」

「で、ですよね~」


 ああびっくりした。まさかそんな――


「生徒からの貸し出し申請があれば普通に貸し出しますけど」

「おいぃ!?」


 やっぱ推奨してるんじゃないか!?

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