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第117話 マリアンヌの嫉妬

「んっふっふ~」

「どうしたんです? 何かご機嫌ですね」


 私は放課後、マリアンヌの部屋に遊びに来ていた。ちなみに幽霊ながら実体を持って、この学園の用務員さんをしているマリアンヌに用意された部屋は、なかなか立派な部屋である。


「そう見える?」

「見えます。こう、何か吹っ切れたような感じと言いますか」


 鋭い……流石幽霊なだけあって霊感が働くんだろうか。


「いや、実は最近悩んでいたんだけど、とあるシスターに話を聞いてもらってスッキリしたのよね」

「悩んでたんですか? なら私達に相談してくれれば良かったのに」


 ちょっと不満げなマリアンヌだけど、それは仕方ないのだ。まさか『自分が3歳児にドキドキしてしまうようなロリコンかもしれない』とは言い出しにくかったからね。


 でもまぁシスターに話を聞いてもらって、『小さい子が好きなんじゃない、好きになったことがたまたま小さかったんだ』って思えるようになったし、それでずいぶん気が楽になったのだ。

 私から手を出す気はないけど、ミリーが私を好きだと言うなら待ってあげようと思う。恐らくあの子は私の嫁になるだろう。そんな予感がする。


「でもまぁ、シスターなら悩み相談は専門家ですからね、いい判断だとは思いますが」

「でしょ?」

「――でも百合神のシスターに相談って言う事は、恋愛絡みですよね?」


 ぎくぅっ!! いや、何も後ろめたい事は無いんだけど、ずばりと当てられてドキリとする。

 いや、やましくないよ? ホントだよ?


「ど、どうして百合神だと思うの?」

「だってこの辺り一帯、百合神の教会しかありませんし」


 そっか~、そういうオチかぁ~。みんな恋愛絡みで悩んでいるんだなぁ。


「ん、ま、まぁ色々あるのよ、私にも悩みがね」

「まぁ、アンリエッタ、モテますからね。悩みの1つや2つありますよね」


 そうそう、私も悩みくらいあるのだよ。

 これとは違うけど、クラリッサとマリアンヌの相性がすこぶる悪いのも悩みと言えば悩みだ。

 決して双方とも相手のことが嫌いというわけでなく、むしろマリアンヌ的には魔力の高いクラリッサにかなり好意的なんだけど、クラリッサは凄い怖がりなので未だに幽霊であるマリアンヌに苦手意識があるらしい。

 そのせいで夜も2人を一緒にした事は無いのである。この辺もそのうち改善したいなぁと考えている。シスターノーラに後で相談してみようかな。すっかり頼ってしまっているなぁ私。


「そう言えば、シスターノーラって知ってる?」

「はい、最近来たあの小柄なシスターですよね。とてもいい人ですよ」


 小柄、というのもかなり控えめな表現だ。実際はどう見ても小学生程度にしか見えない合法ロリシスターなのだから。あれで実年齢23歳とか詐欺だろうほんとうに。だがそれがいいんだが。


「そのシスターに相談に乗ってもらったんだ」

「それはそれは、いい助言をしてくれたんじゃないですか?」

「うん、おかげですっかり吹っ切れたよ。それでね、」


 私は1つコホンと咳ばらいをする。


「あの子に私のハーレムに入って欲しいなって思ってるんだ」


 唐突なハーレム追加宣言に、マリアンヌが目を丸くすると、顎に手を当てて何やら考え込む仕草をする。


「なるほど……確かに今のメンバーにはいないタイプですもんね」


「そう? 優しくて気遣いのできる子はマリアンヌも含めて大勢いるけど?」

「いえ、そうではなくて」

「ん?」

「あそこまでのロリっ子はいなかったなぁと、そういう意味でして」


 そっちかーい。いや確かに厳密なロリはいなかったけどさぁ。ハーレムに入れたいと思ったの、容姿だけじゃないんだよ?

 ……まぁミリーの一件で、ロリもいいなぁと思ってるのも事実だけど。


「シンシアさんはだいぶロリではありますけど、一部が全くロリではありませんので」


 マリアンヌはややむくれながら自分の慎まやかな胸をさする。

 確かにシンシアはロリっ子だが、あのたわわは全くもってロリではない。その点、今回のシスターノーラはガチの合法ロリっ子だ。


「でも……アンリエッタ……小さい子もいけるんですねぇ」

「言われると思ったわ。でもあのシスターは23だから、セーフセーフ」


 ミリーはアウトだけどな!


「もう、仕方の無い人ですねぇ~」


 若干あきれ顔で笑っていたマリアンヌだったけど、不思議なことにその表情は徐々に曇っていった。


「どうしたの?」

「いえなんでも……」


 何でもないって顔じゃないんだけど。そんな反応されたら逆に気になるじゃないか。


「言ってみてよ。私、あなたの恋人でしょ?」

「はい……えっと……多分嫉妬してるんです……」

「嫉妬? でも、私みんなのことは平等に愛してるし、メンバーが増えてもそれは変わらないよ?」

「いえ、嫉妬しているのはそこでは無くて……」


 マリアンヌはそう言うと、私に音もなく近づいてきて横にちょこんと体育座りで座り、そのまま黙り込んでしまう。


「………………」

「黙ってちゃわからないよ。言ってよ、マリアンヌ」


 肩を手で抱いて続きを促すと、ポツリポツリと言った感じで話し始める。


「………………そのシスターも、直ぐにアンリエッタのことを好きになると思います。だってアンリエッタ凄く可愛いですから」

「ありがとっ」


 そうストレートに言われると、その、なんだ、照れる。


「でも、そうなると……」

「そうなると?」


 マリアンヌは顔を膝に埋めて、振り絞るように声を出した。


「――みんなママになれるんだなって……それが羨ましいんです……」

「あっ」


 そうか、ハーレムメンバーの中でただ一人生身を持たないマリアンヌは百合子作りをすることができない。今のマリアンヌは、私の魔力契約でできたかりそめの肉体しか持たないのだ。

 私も彼女に本当の肉体を与えるべく死霊魔術の研究を続けているが、なかなか進捗は芳しくない。


「アリーゼ先生達がミリーちゃんを連れてきたじゃないですか。……それで、やっぱり赤ちゃんっていいなって思いまして……」

「マリアンヌ……」

「ごめんなさい、アンリエッタ、いっぱい頑張ってくれてるのに……でも私、どうしてもアンリエッタの赤ちゃんが産める体が欲しいんです……」


 色々と健気にため込んできたのか、感情は目から溢れてマリアンヌの頬を伝う涙になる。


「新しい子が増えるたびに、羨ましいって思っちゃって……そんな自分が嫌で嫌で……」

「いいんだよ、マリアンヌ」


 私はすすり泣くマリアンヌをぎゅっと抱きしめてあげる。血の通わないその体はひんやりとしていたけど、それでもマリアンヌの魂は暖かいと感じられた。


「泣き止んで、マリアンヌ……。実は1つ試したいことがあってね」

「試したいこと、ですか?」


 私はポロポロと零れる雫をそっと拭ってあげる。その潤んだ瞳は私をじっと見つめてきてドキドキした。


「うん。ほら、私って百合子作りをするためにマリアンヌに本当の体を与えようとしているじゃない?」

「そうですね」

「逆なんじゃないかなって」

「逆?」


 そう、逆なのだ。あくまでもまだ思い付きだけど。


「ほら、私ってマリアンヌの魂の情報を知るために、その、ほら、色々してるじゃない?」

「は、はい、そうですね……色々されてます……」


 その色々を思い出したのか、私の腕の中でモジモジと耳まで赤くして恥じらうマリアンヌ。


「……」


 やばい、超かわいい、押し倒したい。……いやいや、待て待て、今はまだ真面目な話をしているんだ。もうちょっと耐えろ私。


「でね、思ったんだけど、魔力の結合を最も強くできるのは、やっぱり百合子作りなんじゃないかなって」

「そ、それはそうですけど、私は生身がないのでそれができないんじゃ……」

「イヤイヤそうでもないのよ。百合子作りは2段階に分かれているんだ」


 第1段階は、いわゆる愛の営みによって双方の魔力回路をしっかりと結び合わせること。魔力結合自体は他の手段でも出来なくはないがその強度の強さは桁が違う。

 そして第2段階として、魔力が完全に結びついた状態で魔力を込めた魔力カプセルを相手に飲んでもらうことで百合子作りは完成する。


「つまりね、生身を持たないマリアンヌにできないのはあくまで第2段階で、魂があれば第1段階は出来ると思うのよ」

「つまり……?」

「百合子作りをすれば――正確には百合子作り第1段階をすれば、子供はまだできなくてもマリアンヌの魂情報を完全に近い形で取得できるんじゃないかって、そうすれば研究も大幅に進むはずなのよね」


 だってそもそも幽霊の魂情報が未解明過ぎて手も足も出ていないのが現状なのだ。ならば逆転の発想で、知るための百合子作り! というわけである。


「確証はないけど、それでもやる価値はあると思う」

「アンリエッタ……」

「私を信じて。必ずマリアンヌに体を与えてあげるから。そして、絶対に私の子供を産んでもらうから」

「はいっ……!! 私待ってます!! アンリエッタの赤ちゃんを産める日を、信じて待ってます!!」


 マリアンヌは目を涙でいっぱいにすると、私に抱きついてきた。


「ああっ……アンリエッタ……愛してますっ……!!」

「私もだよ」


 私はマリアンヌの頭を撫でてやりながら、百合子作りのための魔道具――百合の揺りかご――を先生あたりから借りてこようと思うのだった。先生なら絶対に持っているだろう。



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