第107話 成長薬
「はい、ママ、あ~んっ」
「あ、あ~んっ」
「美味しい?」
「う、うん美味しいよっ」
「よかったぁ~、私、頑張って作ったんだから! もっと食べて食べて!」
私の膝の上に乗りながら、ミリーは手作りらしいケーキを私の口に運んでくれている。なお味は本当に美味しい。子供らしくちょっと不格好なところが、頑張って作ってくれたのが伺えてまたたまらない。
「おかわりもあるからねっ!」
「そんな食べたらママ太っちゃうよ~」
先生たちの娘ということで、学園内に自由に入る許可を得ているミリーは私の部屋にほぼ毎日と言っていいほど遊びに来ていた。そのたびに私にグイグイとアプローチをしてきて、これでまだ3歳なのかと末恐ろしく感じるほどである。
「はい、ミリーちゃん、お茶ですよ~」
「ありがとう! エメリアママ!!」
「え、エメリアママ……!! やっぱりいいですねぇ~」
ママと呼ばれたエメリアはにへ~っと表情を崩しているが、この子どうも狙ってやっている節があるのよね……したたかというかなんというか。
ちなみに14までにミリーが他の子を彼女にせず私を愛し続けた場合、私と結婚するという誓約は私と先生達そしてミリーだけが知っている。こういう誓約は当事者同士だけでするものらしい。
「ねぇママ、今日は午前中で授業はもう終わったんでしょ?」
「そうだよ」
「じゃあじゃあ! 私とデートしよ!? ねっ」
ミリーは膝の上に乗りながら、私にぎゅっとしがみ付いて3歳とは思えないほど可愛らしい上目遣いでおねだりをしてくる。いや、この子、マジで末恐ろしい……
「ママとデートしたいなんて、なかなかませてるねぇ、ミリー?」
そう言いながら私の足を揉んでくれているのは首輪メイド姿のルカだ。魔法スポーツを専攻しているだけあって、ルカのマッサージは実に気持ちいい。普段の疲れがスーッと抜けていくようだ。
「でも、まだまだミリーには早いぞっ」
「ええ~、そんなことないもん! 私おとなだもん!」
「はっはっは、ミリーは可愛いなぁ」
でもね、ルカ、ませてるとかじゃないの。この子私と結婚したいと思ってるみたいなの……。いや、子供時代の錯覚だと思うんだけどね? でもなんかマジなんじゃないかって最近では思い始めてもいる。
「そうは言ってもミリー小さいし、危ないでしょ? それにアリーゼとテッサの許可も取らないと……」
3歳と言えばそこまで小さくはないけど、それでも人様の娘さん――まぁ私の娘にもなるわけだけど――を勝手につれ回すのもいかがなものかと思うのだ。
だがそう言われたミリーはなにやらポケットをゴソゴソ探すと、鮮やかな桃色をした液体が入った小瓶を取り出した。
「ママ達はいいって言ったよ! それにこれも貰ったの! これがあれば大丈夫!」
「これ何?」
詳細は分からないが、物凄い魔力を感じるんですけど。さっきから感じていた魔力の正体はこれか。
「成長薬! これがあれば大人になれるの!」
「ぶっ……!!」
薬の正体を聞いたクラリッサが珍しく吹き出した。ちなみにクラリッサも首輪メイドの格好でご奉仕中である。
「せ、成長薬って……!! あれかなり高価な薬ですのよ!?」
「ママにおねだりしたらくれたの」
「流石ユリティウスの教師ですわね……太っ腹ですわ……」
そんなに高価なのか。そんな薬をポンと娘に渡して私とデートさせようとしてくるなんて、あの婦婦、マジで私と娘をくっつける気なのでは? それともただ娘に甘いだけだろうか? 疑念は深まるばかりである。
「これで大人になれば、ママともデートできるでしょ?」
「それはまぁ、確かに」
「だよね、じゃあ――」
「え、あ、ちょ――」
ミリーはぱっと顔をほころばせると、私の制止も間に合わず瓶のふたを開けると勢いよく中身を飲み干してしまった。
「うええっ……まずいぃぃ……」
「ああああ……!? そ、その薬は当然体だけ大きくなるんですのよ!? そんな子供の服なんか着た状態でそれを飲んだら!!」
――だが魔法薬の効果はすぐに表れミリーの体が光に包まれると、時を一気に進めるように体はみるみると成長をしていった。まるでカメラの早回しのようだ。改めて魔法ってほんと凄い。
「こ、これは……!?」
「う、うぅぅっ……お、お胸……き、きついっ……」
私の膝の上であっという間に14~5歳ほどの年齢へと大きくなったミリーは――両親の美貌を十二分に引き継いだ、これ以上ないほどの美少女だった。
アリーゼ先生譲りのふわふわでブラウンの巻き毛に、柔らかい印象を感じさせる瞳、それにテッサ先生譲りの健康的な小麦色の肌が一層その美しさを引き立てていた。
ぶっちゃけハーレムメンバーとも引けを取らない美しさである。こ、これはまずい……!! 可愛すぎる……!!
「ま、まあっ……なんてことですの……こ、こんなことって……!!」
クラリッサが驚愕しているのは、幼女から美少女へと姿を変えたミリーのそのお胸だ。
さっきまで着ていた子供用のワンピースはすっかり小さくなり、もうほとんどキャミソールみたいになっているが、そのお胸部分はアリーゼ先生の娘であることがはっきりとわかるほどたわわに膨らんでいた。とても14~5歳とは思えない。
その膨らみが小さなワンピースを内側から押し上げているんだから、苦しいのも無理はないだろう。
「これはこれは……抜群のプロポーションですね~。この辺はテッサ先生由来ですかね~」
シンシアもまじまじと成長したミリーを観察している。何気に写し絵――動画撮影用魔道具――をさっきから回していたらしく、この辺も負けず劣らず抜け目のない子である。
だが確かにその言葉通り、成長したミリーは抜群に……いい体をしていた。いや、変な意味ではなく、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいると言う、女性的ながらも実に引き締まっていて、手足もスラリと長い、まさにモデルのような体形だったのである。