第104話 あ・な・た
「お嬢様っ、朝ですよ。起きてくださ~い」
「んっ、んうぅぅ……」
朝の穏やかな眠りは、いつものエメリアの声と勢い良く開かれたカーテンから漏れてくる朝日によって終わりを告げた。
「先生方も、ほら、起きてください。今日は街に首輪を買いに行くんですよね?」
「んんぅ……あと1時間……」
「あっ……がっ……ああああっ……あ、頭が割れるっ……」
更なる眠りを要求してるのが私の右隣りで寝ているアリーゼ先生、昨晩の蛮行の報いである二日酔いに襲われ、左隣りで悶えているのがテッサ先生だ。
新たに嫁になった2人と一晩を過ごしたわけだけど……色っぽいことは一切、何もなかった。なぜかと言うと、
「……んうぅ~ママぁ~」
寝ぼけながら私にしっかと抱きついてくるミリー、この子のためである。
昨晩はこの子を3人で寝かしつけ、そのまま寝てしまったのだ。いや、だってそりゃそうなるよね。うん、仕方ないのだ。
「ほらほらっ! 起きてっ! 起きてくださいっ!!」
焼きもちを焼いているのか、やや強引なエメリアによってたたき起こされた私達は促されるままに朝食を取り、身支度を整え、そして街へと向かったのだった。
「うわぁ~~おっきぃ~~」
家の馬車で領内最大の街であるユリノハナに到着すると、その大きさにミリーが歓声をあげた。確かに大きい。学園の近くにあるキマーシュといい勝負の大きさのようだ。当然この町には老舗の首輪屋もあるということで、今回はそこが目的地である。
「ね~ナデシコ! おっきぃねぇ!」
「おっきぃねぇお姉ちゃん!」
ミリーは『私の妹だから!』と一緒に連れて来ていたナデシコとその辺をトテテと走り回っている。子供は元気でいいなぁ。
「あああああ……頭に響く……」
「もう、テッサったら仕方ないわねぇ」
アリーゼ先生に支えられているテッサ先生は今もなお二日酔いに苦しめられていた。弱いと言うのにあれだけ飲めば当然である。母体に酒はいいのかとも聞いたが、それもアリーゼ先生のかけた鉄壁の保護呪文があれば問題ないらしい。
それだけ魔法で何でもできるなら二日酔いもどうにかできるのではと聞いてみたけど、それだけはどこをどうやっても出来ないらしく、それを成し遂げた魔術師には『偉大なるリリー・レジス賞』を与えられること間違いなしと言われているとのこと。完全な風邪薬を開発したらノーベル賞、みたいな話だ。
具合悪いなら家で寝てればとも提案したけど、どうしても行きたい、這ってでも行くと主張したから、こうして私達に両脇を支えられてこの場にいるというわけである。
「だってぇ……アリーゼとアンリエッタが首輪くれるっていうんだもん……自分で選びたいじゃん?」
「だったら明日にするとかあったのでは?」
「やだぁ~楽しみにしてたんだもん……」
弱っているからなのか、妙に駄々っ子なテッサ先生だった。『そこが可愛いのよね~』とキラキラしていたのは妻のアリーゼ先生。全くご馳走様である。
「ミリー、あんまり遠くへ行っちゃだめだよ~。そろそろ移動するからね~」
「はぁ~い!」
「はぁ~~い」
2人仲良く返事をしながら仲良く帰ってきた。もうすっかり仲良しである。
「それで、その首輪屋さんっていうのはどこにあるんでしたっけ」
「ああ、あっちです、前に首輪を買った時母から教えてもらったので」
なんでもお母さんが若いころ自分の彼女達に首輪を買うときは必ずそこを使った老舗で、懇意にしているらしい。しれっと彼女”達”と出てくるあたり我が母ながらやるものである。
「えっと、あっちですね、じゃあ行きますか」
「ええ、楽しみですね」
「た、楽しみぃ~うぷっ……」
そうして私達が訪れた首輪屋は、なるほど老舗と思わせるだけの歴史を感じさせる風格ある建物だった。ここに来るのはモニカ達の首輪を買った時以来2回目だ。
「以前来てますし、今回もとっておきを出してくれるはずですよ」
「あらあら、とっておきの首輪か~。それを付けてもらって、私達はアンリエッタのものになるってわけね?」
「アンリエッタのもの……ふふふ……」
「そ、それは何と言うか……」
「いいのよ。私達がそれを望んでるんだし。私達のこと、逃がさないでね?」
そっと腕を絡めながら、そのふくよかなものをむにゅりと押し付けてくる。くっ、またしてもペースを握られている……!!
「そ、それは勿論……!! 絶対に逃がしません、アリーゼもテッサも私の嫁なんですから」
「ヨメぇ~!」
「よめ~~」
ミリーとナデシコが声を合わせる。いや、2人ともまだ意味わかってないんだろうけど。
「さて、どれにしますかね……」
店に入った私達は店主から快く迎えられて奥に通され、そこでとっておきだという首輪を見せてもらった。
「いやぁ、どれも素晴らしい品ですね。あまり首輪に詳しくない私でも手の込んだ一品だって分かりますよ」
「そ、そうだね……うぷっ……」
「きれ~」
「ね~」
いまだ二日酔いのテッサ先生以外は、目を輝かせて首輪を見ている。ミリー的にもこれは綺麗なモノなのか。やはり文化の違いなのかなぁ。
「で、どうです? アリーゼ、テッサ、気に入ったのはありますか?」
「そうですねぇ……ここはやっぱり、アンリエッタに決めて欲しいですね」
「私も~」
やっぱりそうなのか。どうも首輪を付けてもらう子は、贈る側から選んで欲しいモノらしい。このへん結婚指輪とかと違うのかなぁとか思ったけどそもそも結婚したことのない私にはわからないことだった。
前世で女の子以外と結婚する気なんて一ミリも無かったけど。
「じゃあ、私が選んでもいいんですね?」
「ええ、私達に似合うと思う首輪を頂戴」
「私も……それでいいよ……」
テッサ先生、ようやく少し回復して来たらしい。顔色が戻ってきている。
「そうですね、それでは……」
私が選んだのは、アリーゼ先生にはやや大きめの黒い革製の首輪、テッサ先生には逆に可愛らしいピンク色の細い首輪だった。
「あらあら。このチョイスは……」
アリーゼ先生には常にペースを握られっぱなしなので、ここらでひとつ意思表示をしておかないとと思ったのだ。テッサ先生のは単純に先生の好みがこういうのだろうというものである。
「ふふふっ、なら仕方ありませんねぇ。年上としてからかうのも楽しいんですけどね~」
「か、可愛い首輪だね……私こう言うの好きかも……」
そして、「では奥の祭壇へどうぞ」と通された先で、先生2人は私の前に膝立ちになって私から首輪を贈られるのを待つ。
こうやって首輪を付けてあげるのもこれで計8人かぁ、なかなか感慨深いものがあるなぁ。
「さ、首輪を付けてください、あ・な・た」
「な、なんかドキドキするね……」
アリーゼ先生は余裕たっぷりに髪を両手でかき分け、その首をあらわにする。なんて細くて美しい首なんだろう。今からこの人を私のものにするのか……なんて素晴らしいんだ。
テッサ先生はショートカットなので、そのままギュッと目をつむっている。いや、なんか大人の女性なのに少女みたいにプルプル震えているのがギャップ萌えで堪らない。
「では……付けますね?」
「はい、どうぞっ」
「う、うんっ……」
促され、私は2人の首に首輪を回す。8人目だけどもやっぱりこの瞬間はドキドキする。
付け終わった2人は、じっと私のことを見ながら、お約束の言葉を待っている。これを言って、初めてこの儀式は終わるのだ。
「えっと……これであなた達は私のものよ?」
それを聞いた2人はにこっと微笑むと、こくりと頷いた。
「ふふっ、私、アンリエッタのものになっちゃいました」
「わ、私も……これでアンリエッタのものだよね」
「そうなりますね。お2人は私のものです」
人妻2人を同時に私のものにしたと言う事実に、物凄いドキドキしている。なんて背徳感漂うんだろうか。
「じゃあ、私達2人共、これからいっぱい『可愛がって下さい』ね」
アリーゼ先生は上目遣いで優しく微笑んできた。これはすなわち、先生の投了という事なのだろうか? え、いいの? こんなあっさり?
「え、いいんですか?」
「だって、それがアンリエッタの望みでしょ? まぁいいですよ。そちらは未経験ですけど、それはそれで楽しみですし――いっぱい愛してもらいましょうね、テッサっ」
「わ、私はいつも通りだけどね……」
こうして正式に、私のハーレムに7人目と8人目が加わったのだった。