第102話 早くない!?
「ただいま帰りました。お母さま」
私達は我が家の応接間で、嫁達と揃って両親――両方とも母親である――に会っていた。帰省時は必ずこうして対面するのが我が家の習わしなのだ。
「お帰りなさい。アンリエッタ。元気そうで何よりだわ。それはそうと……いつ百合子作りしたの?」
「えっ?」
「いや、あなたの抱えてるその子よ。誰との子供なの? さしずめエメリアかしら?」
「いやいやいや!?」
お母さんは私になついて離れず、今も膝の上で抱えている先生達の娘、ミリーのことを指しているらしい。
「ち、違いますよっ、奥様っ!! 私達はまだ百合子作りはしていません!! で、でも、お嬢様さえお望みでしたら私的にはいつでもしたいと思ってるんですけど……!!」
「あらあらそうなの? 孫の顔が見れる日も近そうねぇ」
「いやいや、エメリアも乗らないでよ!? お母さま、この子どう見てもエメリアの子供にしてはおっきすぎるでしょ!? こちらの先生方のお子さんよ!?」
慌てて弁解する私に、母達はコロコロと笑う。
「やぁねぇ、分かってるってば。ちょっとした冗談よ」
「んもう……じゃあ紹介するね、こちら、私達の学園の先生でアリーゼ先生とテッサ先生よ」
「初めまして、アリーゼです。学園では基礎魔法学を教えております。この子は娘のミリーです」
「テッサです。魔法スポーツを教えています」
「これはこれはご丁寧に。アンリエッタの母です。こちらは私の妻です」
お母さんの隣に控えているメイド姿のお母さんがペコリとお辞儀をする。
私を産んだお母さんは、母の専属メイドなのだ。私のメイド好きはどうも遺伝らしい。いや、前世からメイドは大好きだったけど。
「家庭訪問……というわけでもなさそうですね」
「はい。私達は、アンリエッタさんと結婚を前提としてお付き合いさせて頂くことになりましたので、こうしてご挨拶に伺わせて頂いた次第です」
「まぁまぁ、ユリティウスの教師をなさるほどの魔術師の方を妻に迎えられるなんて、なんて素晴らしいんでしょう。それで、アリーゼ先生とテッサ先生はご婦婦なんですよね?」
「はい、そうです」
そう。先生達は人妻同士なのだ。その人妻を、結婚したまま私の嫁にすると言う。改めて考えてみるともの凄いことをしている。
私も前世では様々な女の子をハーレムに加えてきたけれど、人妻はその中にはいなかった。百合カップルの子2人を同時に彼女にしたことはあったけれどね。
「やるじゃない、アンリエッタ。で、どういった馴れ初めなのかしら?」
「え、あ、それはその――」
「私から『アンリエッタさんの赤ちゃんが欲しい』ってお願いして、結婚の約束をして貰ったんです」
言い方ぁ!! 確かに結果から見ればその通りなんだけど、アリーゼ先生いろいろとはしょりすぎぃ!!
「まぁまぁ、それじゃあもう百合子作りしたのかしら?」
「してないよ!? まだ何もしてないから!!」
帰省間際に彼女になってもらったので、ドタバタしてまだ何もしていないと言うのはほぼ事実なのだ。……まぁキスはしたけど。
「私としても、早いところこの子に妹をもう1人つくってあげたいんですけど……あ、もう1人っていうのは、今妻のお腹に私の赤ちゃんがいまして」
「そうなんです」
テッサ先生がお腹を優しくなでる。
「あらあら、それはおめでとうございます。えっと、ミリーちゃん、何歳かな?」
お母さんは優しく微笑みながら、私の膝の上にいるミリーに話しかけた。
「3歳です!」
指で3を作って元気いっぱいに返事をするミリー。可愛すぎか。先生達もお母さん達もその可愛さにメロメロである。
「なるほど、一足早くアンリエッタに娘が……それももうすぐ2人目もできるのね。いいことだわ」
「まだ結婚はしてないので、正式にはまだ娘じゃないんですけどね」
「ええ~? 私、アンリママの娘でいいんでしょ? ねぇママぁ!」
ミリーが生みの親である母親達に尋ねると、2人共首を縦に振った。まぁ確かにこの辺は単純に手続きの問題だし、もう私的にも娘だと思っているからもう些細なことだろう。
「そうよ。私達はアンリエッタと結婚するんだから、もう娘でいいわよね?」
「はい、私は勿論それで構いません。あ、それと、私にはもう娘がいまして――」
「私! 私です!! 私がママの娘です!! そしてミリーお姉ちゃんの妹です!」
私の肩にとまっていたいたナデシコがふわりと舞い上がって自己主張をしてくる。
「あら、あなたがナデシコちゃん? 話は聞いているわ。正式にアンリエッタの娘になったのよね?」
「そうです」
ナデシコは空中でえへんと胸をはった。
私の守護ペットとして生まれるはずだったナデシコは、私が強引に魔力で法則を捻じ曲げた結果、極めてホムンクルスに近い存在として生を受け、法手続きを経て私の娘になったのである。
私の魂の情報を複製培養して与えられているらしいので、ある意味娘より私に近い存在らしいけど。
「いやぁ~この半年で娘が2人も増えましたよ。もうすぐ3人ですけど」
「凄いわねぇ~。我が娘ながらなかなかのものよ。在学中に嫁が8人に娘が3人、歴代のユリティウスでもここまでのハーレムを作った子もそういなんじゃないかしら」
「流石は奥様の娘ですねっ」
「あら、あなたの娘でもあるのよ? 若いころを思い出すわねぇ」
「奥様もおモテになりましたもんね~」
「やだもう、娘の前でっ」
娘の前でいちゃつきだす母親達、周りは笑っているけど娘的には少々きついぞ?
「それでアンリエッタ、もう首輪は贈ったのかしら?」
「いえ、まだです。先生方は首輪を贈り合ってはいなかったらしいんですけど……」
「最近首輪も再注目されてることですし、私達婦婦も首輪を贈ろうかって話してまして。それで、アンリエッタさんからも首輪を贈ってもらうことになりました」
「あらあら、それはいいことね。首輪も伝統的なとてもいい風習だもの。また人気になってくれたら何よりよ」
その人気の火付け役になったのが、ここにいるモニカなんだけどね。モニカがスポンサーになっている劇団のやったお芝居で首輪を出して、それが大ヒット。そのおかげで首輪ブームが来ているというわけなのである。
そもそもそこまで下火ってわけでもなかったけどね、首輪の風習。首輪専門店はいつもにぎわってはいたし、そこそこの人気は保っていたようなのだ。
「今度アンリエッタさんと街に行って、その時に買って贈っていただく予定なんです」
「あらあら、いいわねぇ。私も若いころは彼女達に首輪を贈ってあげたものだわ」
「私が夜付けてる首輪、奥様から若い時に贈ってもらったものですものね」
「そうね~懐かしいわ~」
「首輪を贈ってもらって『私をあなたのものにしてください』、素敵な風習ですよね」
周りの皆もうっとりとしている。そうかな? そうかもしれない。
しかし、人妻2人に首輪を贈って、私のものにする……字面だけだと相当アレである。いや、もうだいぶ慣れてるんだけどね、この世界の首輪文化にもさ。
「ママぁ~私も首輪欲しい~」
膝の上のミリーが、お母さんが首輪を貰えると知って私も欲しいとオネダリしてくる。
うんうん、私にも覚えがあるよ~。お母さんのやってるお化粧とか私もして見たかったもんね。でもまだ流石に早いよね。彼女が出来たらその子に贈るなり贈られるなりしてもらおうね。
「ミリーちゃんは、あと10年は待とうね~」
「ええ~。でも保育園のお友達も彼女から貰ってたよ~?」
「えっ」
早っ!! 早くない!?
私、初めて付き合ったのは小学3年生の時に、近所の高校生のお姉さんとだったんだけど!? それでもめっちゃ早かったのに!!
ちなみにその高校生の彼女、そのままずっと付き合ってて私の学校の先生になったんだけどね。
しかし3歳にして既に彼女持ち、しかも首輪を贈られる子もいるのか……
魔法世界……奥が深い……!!