第100話 大人な女性
「あ、アンリエッタさん、ちょっといいかしら」
私は廊下を歩いていたら、担任のアリーゼ先生に呼び止められた。
「はい、なんでしょうか」
「話があるんだけど……ここじゃアレだから、ちょっと来てもらっていい?」
「わかりました」
先生の後をついていくと、連れてこられた先は進路指導室だった。何の話だろうと思いながらドアを開けるとそこには、先生の妻であり魔法スポーツの先生でもあるテッサ先生が椅子に座って待っていた。
「テッサ先生? ……ということは、もしかして話って」
「そうよ。あの話、そろそろ考えてくれないかなって」
「アレのこと、ですよね」
「そ、――私達をあなたのハーレムに入れて欲しいってこと。もうすぐ前期も終わっちゃうしね」
2年生になってから、実は結構先生からのアプローチを受けていたのだ。日に日に魔法力を強めていく私を見て、研究者である先生的に私が物凄く魅力的に見えるらしい。
私としても、今のハーレムメンバーにはいないタイプである、いわゆる大人のお姉さんタイプであるアリーゼ先生と、ルカに近いながらも更にボーイッシュですらっとしたこれまた大人な女性であるテッサ先生はとても魅力的な存在だった。
でも、私が二の足を踏んでいたのは、アリーゼ先生が本当に私を女の子として好きなのか? という点なのだ。
「う、ううーん、それは勿論私も先生は好きですけど……先生、本当に私のこと女の子として好きなんですか? 魔導研究者としての好きなんじゃ……」
「正直言えばそれももちろんあるわ。だって研究者として、あなたほどの魔力を持った子、直にその魔力を感じてみたいと思うのは当然だし。あなたの子供が欲しいと思うのだってそういう側面があるのも否定できないわ」
私の子供が欲しい。ストレートに言われてドキリとする。
以前私は先生から魔力を調べるには魔力を結合させる百合子作りが一番だからと、そういうお誘いを受けたことがあるのだ。その時は色々あってその場を脱出したけれど、今考えたら物凄い惜しいことをしたかもしれない。
「でも、それ以上に私、1年半あなたの担任として過ごしてあなた個人にも興味があるのよ」
「それは本当だよ。だってアリーゼが私以外の女の子について話すなんてほとんどないことなんだから。それなのに、正直妬けちゃうくらいアンリエッタの話が出るんだよね~我が家ではさ」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ。だって私達の娘ももうアンリエッタの名前もばっちり覚えているくらいだし」
娘かぁ。実際に女同士で子供が作れると知った時には物凄い驚いたものだ。
「テッサ先生はどう思ってるんですか?」
「私? 前にも言ったと思うけど、アリーゼ位魔力を持った子の妻が私だけってのはやっぱり勿体ないんだよね。妻の私が言うのもなんだけど、アリーゼって天下のユリティウスで教鞭を振るうくらいの魔術師なんだよ? それこそ妻の3、4人はいても全くおかしくないんだから」
「そういうテッサ先生もユリティウスの教師じゃないですか」
「いやぁ、私は魔術師としては並なんだ。ただ魔法スポーツにおける技術的な面を評価されての採用だから」
そう言うとテッサ先生はポリポリと頭をかいた。
「まぁそういうわけだからさ、アリーゼが嫁に行くとしたらアンリエッタくらいしか考えられないんだよね。だってこの子、散々モテたくせに私以外の子に全く興味を示さなかったんだから」
「え~だってしょうがないじゃない。私にとってはテッサが初恋の人で、あなただけがいればそれでよかったんだもん」
「ちょ、こ、こらっ……アンリエッタが見てるでしょ……あっ……」
私の目の前で、婦婦でいちゃつきだす2人。実にキマシタワーである。最近学生同士のイチャイチャしかしていなかったけれど、こういう大人のラブラブな感じもまたいいものだ。
前世で先生を何人も彼女にしていた時を思い出すなぁ。
「も、もうっ……」
なんとか妻を引きはがしたテッサ先生が、オホンとごまかすように咳ばらいをして話を続ける。
それでもアリーゼ先生の手はテッサ先生の膝を優しく撫でまわしていたんだけれども。
「で、どうかな? 私達を彼女にしてくれない? もちろん結婚を前提で」
「いえ、私は勿論構わないんですけど……テッサ先生もいいんですか?」
「それは勿論構わないよ。だってアリーゼが好きになった子だよ? それに私もアンリエッタは好きだしね。そもそもアリーゼを嫁にするなら私も当然貰ってもらわないと困るし」
「そ、そうですよね……そういう決まりですもんね」
カップル、もしくは婦婦の一方を嫁にする場合もう片方も同時に嫁にすると言う、なんて素晴らしい決まりなんだろうかと改めて思う。
「片方だけ嫁にいったら不和のもとだからね。私のこともいっぱい可愛がってもらわないとイヤだよ?」
「え、あ、はい、それはもちろん」
「この子、こんな見た目だけど中身はものすご~く乙女だからね。たっぷり可愛がってあげないと拗ねちゃうから、気を付けてね~」
「も、もうっ、アリーゼってばぁ」
またしてもイチャつきだす2人。なんともキマシタワーである。
いかんいかん、このまま2人がイチャついていると話しが進まない。ちょっと強引だけどこのまま話を進めてしまおう。
「オホン……では、2人共私の嫁になるってことでいいですか?」
「いいわよ」「いいよ~」
即答だった。
「これからはプライベートでは私のことをアリーゼって呼んでいいわよ。私もアンリエッタって呼ぶから。だって私はあなたの嫁になるんだし。あ、もちろんそういう雰囲気を楽しみたいって時は先生呼びでいいからね? その時は私もアンリエッタさんって呼ぶから」
流石先生、話が分かる人である。こう、先生と生徒って言うのも王道中のお王道だからね。
「ところでアンリエッタ、アンリエッタってこれで彼女何人になったの?」
「先生達入れて8人ですね」
「8人!! これはまた凄いね……ちゃんと平等に愛するんだよ?」
「大丈夫です。ちゃんと私のメイドがローテーション組んでくれていますので」
私の嫁にして有能なメイドのエメリアが立てたスケジュールは、決して自分を優遇したりすることのない完璧なものなのである。
「う~ん、でもどうしようかなぁ~。そうなると1つ問題があるのよね」
「何がですか? アリーゼ」
「いや、ほら、私ってこの子しか好きにならなかったじゃない?」
先生が隣に座った嫁を抱きしめながら言う。再度再度のキマシタワーである。
「はぁ、それが何の問題が?」
「いや、だってね、私って女の子を『可愛がる』経験しかないのよ。だってこの子完全な『可愛がられる』方だから」
「あ、ああ……な、なるほど……そいつは大問題ですね」
「でしょ? だからどうしようかなって~」
アリーゼ先生は、小首を傾げながらチラと私に意味深な目線を送ってくる。
「そ、その辺の主導権争いは……まぁ臨機応変にその場の雰囲気で対処しましょう……!!」
「そうね、それがいいわね」
アリーゼ先生はお茶をコクリと一口飲むと、ああそうだ、と切り出した。
「私はいいんだけど、百合子作りはこの子はしばらく待ってあげてね」
「いえ、学生の間は、少なくとも卒業が見えてくるまで百合子作りをするつもりはありませんけど――でもなんで――」
そう言いかけてテッサ先生の方を向くと、その顔で察しがついた。
「ああ、なるほど。おめでとうございますっ!」
「ありがとねっ」
テッサ先生はてへへと笑いながら、お腹を優しくさすったのだった。
お読みいただき、ありがとうございますっ!!
これにて第6章――2年後期編、完結になります!
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