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第10話 百合ハーレム主義だから!!

 魔法の要素が全くない魔法スポーツの授業が終わり、ランニングからようやっと解放された。

 いわゆる現代知識の広がりについても気になるけど、今気にしてもわかることじゃないし、ひとまず置いておいて後で調べることにしよう。


 しかしそれにしてもかなりの距離を走らされたから、わき腹が痛い。


「ふぅ……ふぅ……これじゃただの体育よね。魔法関係無いんだけど?」

「ですね……つ、疲れました……」


 エメリアはまだ肩で息をしている。そりゃあんな重いもの2つもぶら下げて走ったら疲れるだろう。凄い揺れてたし。いいもの見れたおかげで走ること自体は全く苦にはならずにすんだけど。


「まぁ仕方ありませんわ、まずは魔力で体の一部でも覆えるくらいになりませんと」

「そうだねぇ、最低限それができないと何もできないしね」


 そう言って話しかけてきたクラリッサとルカは、結構鍛えてあるのかケロッとしている。ルカはともかくクラリッサは意外だ。いかにもお嬢様って感じなのに。


「クラリッサ、運動得意なの?」

「そういうわけではありませんわ。ただ魔術師候補のたしなみとして鍛錬は怠っていないということですのよ。

 あなたも魔力容量に胡坐をかいてないで、もうちょっと体力をつけたほうがいいのではなくて?」

「うーん、そうね。ちょっと運動不足かも」


 どうもこの体はあまり運動をしてこなかったようで、前世の体よりだいぶキレが悪い感じがする。

 これはよくない、もう少し鍛えるかと考えていたときだった。


「ま、まぁ、もしよろしければ、このわたくしが鍛錬に付き合ってあげてもよろしくてよ?」

「いやいや、ここは私の出番でしょ。トレーニングなら付き合うよ?」

「いえ! お嬢様の健康管理はメイドである私の務め! ここは私が!」


 3人からお誘いを受けた。これは迷う。ツンデレお嬢様か、快活スポーツ少女か、はたまた幼馴染メイドさんか。


「お嬢様は私がお世話するんですっ」

「あらあら、愛しのお嬢様とはいつも一緒に居たいってことですの? けっこう焼きもち焼きなのねぇ」

「そっ……! それはっ……!! 私はメイドとして……!! そ、そういうクラリッサ様こそ……!」


「ちっ、違いますわ! えっと……そう! わたくしはただ、どうせ鍛錬するなら2人でやったほうが効率がいいというだけで……! 全然そういうんじゃありませんわ!」

「効率って言うならスポーツずっとやってきた私でしょ~。トレーニングもがむしゃらにやればいいってもんじゃないしね。というわけでどう?」

「こらっ! 抜け駆けはだめですわ!!」


 3人がかしましく私を取り合っている。いやぁ困っちゃうなぁ。

 誰と一緒に汗を流すか……もう三人全員とすればいいんじゃないかな。そう考えながら皆と校舎の方へ歩いていると、ベンチに見覚えのある人が座っているのが見えた。


「あ、アリーゼ先生だ」


 先生は何か考え事をしているようで、グラウンドの方をたまに眺めてはため息をついている。


「先生、どうかなさったんですの?」

「い、いえ、別に何にも……皆さんはもう授業は終わったんですか?」

「はい、さっき終わりました。散々走らされましたよ~」

「最初は仕方ないですね、魔術師も基本は体力勝負ですから」


 何か元気なさげな先生とそんな世間話をしていると、唐突にルカがぶっこんできた。


「ところで先生、テッサ先生と喧嘩でもしたんですか?」


 ひぇぇ、怖いもの知らず過ぎない? この子。


「えっ!? い、いやそんな!! な、なんでですか!?」

「いやだって、テッサ先生、アリーゼ先生のこと気にしてましたよ? 何かあったんですか?」

「そ、そうですか……気にしてましたか……」


 なんか嬉しそうだ。これはやっぱりルカの予想が当たったのか?


「なんかしばらく会えてないみたいな感じでしたけど……ひょっとして」

「うっ……ま、まぁそのうちわかるでしょうし、いいんですけど……彼女……テッサは私の嫁です……」

「えええっ!?」

「その、ちょっと喧嘩しちゃって、家を出てるんですよね……ははは」


 よ、嫁!? てっきり恋人くらいかと思っていた。嫁かぁ~

 あれ? でもさっき先生、彼女はいないって言ってなかった? どういうこと??


「えー、でも先生さっき彼女いないって言ってましたよね?」


 ルカ攻めすぎぃ! でも気になってたからよし。


「か、彼女はいませんよ……! 今お付き合いしている女性はいませんし、テッサとはもう結婚してますから」

「あ~まぁ確かに、うーん、それなら間違ってはないのか……嫁なわけだし」


 え? よくわからない。むしろ更にわからなくなったから、隣のクラリッサに耳打ちしてこっそり聞いてみる。


「ね、ねえ、つまりどういうこと?」

「え? アリーゼ先生はテッサ先生と結婚されてますけど、他に交際してる方はいないということですわよ? どうかしまして?」

「んんん????」

「いえ、ですから、嫁はいるけど彼女はいないってことですわ」


 ……なんじゃそれ!? 嫁いても他の女の子と付き合うのが普通なの!?


「まだ2人目の妻を探す気はないってことかしら。ユリティウスで教師をなさるほどの魔術師なら既に何人も妻がいても全然おかしくありませんし、奥手なのかもしれませんわね。

 歴史に名を刻んだ大魔術師なんて何十人も妻がいたそうですし……まぁお互いそのことを了承しているのが大前提ですけど」


 魔術師ならハーレムが当たり前とか、凄い世界ね。最高すぎない?

 そんな降って湧いた幸福に言葉を失っていると、困惑していると勘違いしたのかクラリッサが怪訝な顔をしてのぞき込んでくる。


「あら? もしかしてアンリエッタ……あなた……」

「えっ!? い、いや、その……」


「……い、一嫁(いちよめ)主義ですの? いけませんわよ。貴族がそれでは」

「へっ?」

「貴族たるもの、複数の妻を(めと)ってお(いえ)のことをちゃんと考えませんと……」


 いや!? いやいや!? 一嫁主義なんてとんでもない! 私は百合ハーレム主義だから!!

 一嫁主義から一番遠いとこにいるから!


「違うわよ!? そんなこと全くないから!!」

「そ、そうですの? ならいいんですけど……わ、わたくしも勿論気にしませんからね!? 5人でも10人でも嫁にして結構ですわ! ……わたくしが1人目なのは譲りませんけどっ」

「えっ」


 大きな声を出していた私達に、皆が注目していた。

 勢い余って出た自分の言葉に、クラリッサの顔がみるみる赤くなっていく。


「ち、違うんですのぉ~~~~~~!!」


 叫びながら全力で走り去っていった。鍛えているだけあって速い速い。みるみる小さくなっていく。

 視線を感じたので振り返ると、先生が愉快そうに微笑んでいた。


「あ~えっと……アンリエッタさん?」

「はい」

「体、鍛えましょうね? 大勢の女の子との恋も体力勝負……らしいわよ?」


 はい、よーくわかっております。前世で。


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