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深淵からのお手紙  作者: 冷夏ヒビキ
1章 プロローグ
2/9

この心は情なのか本心なのかそれすらわからない

スマホのほうは線がずれてるかもしれません。

「おい、縺セ縺?諤昴>蜃コ縺輔↑縺??縺九?√b縺?☆縺その時期縺?縺」



「黙れ」



 退院し、学校の帰り道果てしなく続く頭痛と謎の言葉に想太は頭を悩ませていた。それと謎の言葉が少しずつ分かってきたのと同時に何か重要なことを思い出しつつあるような気もした。頭痛と謎の言葉のダブルパンチで想太のストレスは溜まっていき、何か食べて解消しようと思い、行きつけのラーメン屋に想太は入った。



「いらっしゃい」



 ここのラーメン屋の常連となっている想太は顔は覚えられているのか、店のおじちゃん、おばちゃんは愛想よく迎えてくれる。メニューを聞きに来たおばちゃんにラーメンの大盛と焼き飯を頼み、単行本を取り出し読み始める。



 単行本を程なく眺めていると、焼き飯が届き、あとでラーメンも来た。ここのラーメン屋は濃くもなく薄くもないいい塩梅のラーメンで量もあるし、それなりにおいしく、値段も高くはないので学生の財布にも優しい。またそれなりに繁盛しているので客も相当入っている。しばらくラーメンを啜っていると新しい客が来たようでおばちゃんが申し訳なさそうな顔をして「相席でもいい?」と聞いてきたので了承してまたラーメンを啜りだす。



 4人掛けのテーブルで左斜めに座った少年の顔を見てどこかで会ったような気もするが特に思いあたることがなかったのでラーメンをまた啜り始める。



「ねぇ」



 どこか違和感を覚える声だ。高すぎる気がする。そんなことを心の中で思いつつ、明らかに声はこっちに向けられているのでターゲットのチャーシューから離し、少年に目線を向ける。



「今、お金持ってないんだ。払ってくれないお兄さん」



 箸をおいて水に手を伸ばし飲んでる途中でそんなことを言ったもんだから、むせた。盛大に、涙が出るほど。



「は、はぁ」



 想太の頭には困惑しかない、なんで見ず知らずの人間に金を払う必要があるのかと。



「なんで俺が払う必要がある」



「それとも何?何か売ったほうがいい?カラダとか?」



「食事中だ…黙れ」



「それに俺はノンケだ、お前の体なんぞ興味ない」



 すると少年はフリーズしたかのように固まった。数十秒した後に再起動したのか言葉を紡ぎだす。



「……え…もしかして男だと思ってんの」



「…え?」 「え?」



 想太にとってその言葉は予想外すぎた。目の前の少年…いや少女は髪は肩より上でボサボサ、服はパーカーにスポーツ用のズボン、防寒着は誰かからのお古なのかぶかぶかのコートで服装に統一性がなかったため、とても女には見えなかったからだ。




 そうして固まっていると少女の頼んだ並のラーメンが来て、少女はおいしそうにラーメンを食べ始めた。さすがに今更どうすることもできないので想太は仕方なく払ってやることを決めた。



「ねぇ、焼き飯も食べていい」



 いや、考え直そうか迷った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「で、私はどうすればいいの、売ればいいの」



「いい加減黙れ、俺はロリコンじゃないし、貴様のような貧相なカラダで欲情するサルでもない、そもそもナニするのか知っているのか」



「……知らない、こうすれば何とかなるかなと思って」



「じゃあ、黙っておけそうゆうものは取っておいたほうがいい」



 一応飯の料金は払ってやったが、流石にそのまま「さようなら」では済ませられないので家に連れ帰ることにした。



「ただいま」



 帰ってきたらただいまを言うのは習慣だ。少し前までは「おかえり」と返ってきたが、もうこの家に住んでいるのは想太ひとりなので返事は返ってくることはない。



「飲み物は」



「なんでもいい」



「そうか」



 やかんに水を入れ、火をかけ戸棚からコーヒーの粉とコーヒーフィルタをとりセットして、少し待つ。少女は興味深そうに部屋中を眺めている。やがて湯が沸くとゆっくりとコーヒーフィルタ内にお湯を入れていきコーヒーを濾していく。ブラックでいいかと思ったがさすがに良心が傷んだので、牛乳を入れてやり砂糖を持って行ってやった。



「で何があったんだ」



「…まず、助けてくれてありがとう」



「は?…何の感謝だ」



 急な感謝の言葉に想太は困惑する。



「ラーメン奢ってくれたのと…」



「ああ、それはど「それと交差点で助けてくれたこと」



「やっぱりお前だったか」



 脳裏に謎の言葉と共に張り付いていた違和感の正体に気づき、つっかかっていたものが取れ、想太は少し頭がすっきりした。



「気づいてたの」



「いや、顔はほとんど見てなかったがどこか違和感は感じてた、ただそれだけだ」



「じゃあ、まず自己紹介からするか、想太だ。名字は小林」



「友奈。北野友奈」



「で…こんな夜にどうして一人歩いてたんだ」



「……………」



「…答えられないのか?」



「…うん」



「ならいい、せめて風呂くらい入っていけ、流石に今のお前はひどすぎる」



 風呂場を洗いつつ初対面のやつを家に連れ込んで風呂まで入らせるのはいかがなものかと思ったが、話し相手が欲しく、常日頃から寂しく思っている自分の心に嘘はつけないと思い、自分に呆れつつ口元を想太は緩ませていた。



「ほら、これ使えでシャンプーはこれ、石鹸はここ、一応これがリンス」



「わかった」



「じゃあごゆっくり」



「待って…ここにいて」



 ずいぶんしおらしい表情もするもんだなと感心した。



「なんだ、一人で風呂に入れないのか」



「…ここにいて」



「わかったよ」



 横の浴室からシャワーの音を聞きつつ、洗面台から歯ブラシを取り歯を磨こうと手を伸ばすと



「ねぇ…想太には家族はいないの…」



 なかなかの古傷を抉ってくるような質問が飛んできた。彼女は体を洗い終えたようで聞こえてくるのは水が滴る音だけである。



「…最近までは祖母と暮らしてた、急に逝っちまった。今は一人だ、一応親戚はいるが地方に散らばってる」




「どうして、そっちに行かなかったの」



「単純に高校を転校するのがめんどくさかったのと、友達はここにしかいないからな、まあ親戚はそのことを承諾してくれてこの地に残っている」



 叔母や母方の祖父母たちには本当に感謝している。条件として長期休暇の時には顔を必ず出すようにと言われてはいるが、それだけで毎月仕送りをしてくれていることには感謝しかない。



 しばらく黙って歯を磨き、磨き終わるとちょうど浴槽から上がったのか、バシャバシャと水音がしたので、「部屋にいる」と声をかけしばらく待つことにした。



「このドライヤーも寿命だな」



 男の一人暮らしにドライヤーというものは不必要だ。ただ祖母が使っていたドライヤーは残していたようで、棚をあさるとずいぶん年季の入ったドライヤーが出てきた。



「ねぇ、なんでそんな髪乾かすの上手いの、彼女でもいるの」



「いとこの髪を乾かしてたら覚えた、それだけだ。第一こんな生きる気力がないような顔をしているような人間誰も好かん」



 最近は特にひどくなったと思う、もちろん原因は例の頭痛と言葉、そこからくる寝不足だ。



「…私が一緒に寝てあげようか」



「何ここで寝ようとしてる。もう10時だ、帰ってもらうぞ」




 彼女は特にこれといった反応は示さず、ただ首を小さく縦に振るだけだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 家の場所を聞くとなんと3駅離れており余計な出費が嵩んで想太は頭痛がさらに増した。しかし夜に金だけ渡して、少女一人帰らせるのは何かあったとき後味が悪くなるので、送り届けることにした。



 道中、これといった会話はなくただ二人とも黙っているだけだ。想太はこれまでの彼女の仕草や服装から彼女の状態を考察する。あまり相当使い古された服、ボサボサであまりにも短い髪、極めつけは想太が頭をかこうと手を挙げたときに何故か少し身構える体勢を取ったこと、彼女が家もしくは学校でどんな扱いを受けているかはおおよそわかった、しかし自分は頼まれてもいないことに首を突っ込むほどのお節介ではない。だからと言って何も言わないのはそれまた後味が非常に悪い。だから家の手前で少女に言葉をかけておく。



「俺にとって貴様は顔見知り程度の他人だ、お前が何をされてようが知ったこっちゃない。ただ限界になったらまた来たらいい。何かしらはしてやる」



 すると少女は目を見開て、大きくうなずき家に静かに入っていった。



「この言葉は気まぐれなのか、あるいは自分の本心なのかもしれないな」



 想太は少女と一緒にいた時には感じなかった頭痛を再び感じ始めながら、少し自虐気味に含み笑いをしながら、駅に向かって歩き出した。

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