未熟者
甚だ不快である。またあの夢を見て起きた。時刻は午前4時より2分前を指していた。
「さて、このまま起きようか。」
少々悩んだ挙句、布団を蹴り上げた。その弾みで、机に置いていたポットが床に落ちた。
「最悪。ついてねーな。」
まあこんなことは良くある。幸いポットのお湯は熱くなかった。
「どうせなら、もっと熱かったらよかったのに。」
「今日は憂鬱だな。もうダメかな。ふっ。」
常にマイナス思考の俺はまた、いつものように溜息を吐いた。溜息が部屋に充満し切った時に、俺はやっと重い腰をあげた。今日は高2の1学期中間テスト初日だ。
「どうせ健人は、とっくの昔に定期考査の勉強を終えているだろうなぁ。」
また溜息が出そうになったのを意識的に止めた。まああの夢のおかげで寝坊せずには済んだ。携帯のアラームなんか頼りにならないからな。薄暗い部屋の中で、カーテンから差し込む外灯を頼りに電気のスイッチを探った。切れかけの蛍光灯が、最後の力を振り絞るかのように、光を放っていた。椅子の上にかかっていたバスタオルを取って、床に投げつけ、足を使って床を拭いた。水はポットの下のプリントの山にも及んでいた。その中の一枚を取ってまた溜息が意図せず出てしまった。第46回前期生徒会長選挙のビラだった。その中の俺の顔は水で認識ができないほど滲んでいた。
「チッ。神様は健人の味方ばっかりする。」
もう妬みが止まらない。
「あいつは俺の邪魔ばっかりする。一度や二度じゃない。また俺はお前に負けなきゃいけねえのかよ。もううんざりだ。」
勢いよくプリントを破り捨てた。切れかけの電気の光を反射する訳でもない濡れたプリントは、幻想的な空間を作り出すこともなく、鈍い音をたてて地面へ落下した。
夜は、まだ明けていなかった。
これは未熟者の話である。