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第七話 『金の下僕』編(三)

 まだ明るいので街を歩く。

 街を歩いてみたが、街にはモヒカンの髪型をした男性が多かった。また、肩に金属パットを着けた服装をよく見た。

(何だ、これ? モヒカンに肩パッドが、この街のファッションのトレンドなのか)


 ユウタは大通りから少し外れた路地に入った。

「待ちな、坊主、慰謝料を置いていけよ」

「そんな、僕、お金ないです」


 声のした方向を見る。柄の悪い若い男が、十歳くらいの金髪のぼっちゃん刈りの子供を脅していた。子供は高価そうなクリーム色のベストに刺繍のある青いズボンを穿いていた。靴も綺麗な布靴を履いていた。


 辺りを確認するが、柄の悪い男は一人だった。

(これは、いいところに出くわしたね。ここで子供を助けると、お金持ちと知り合いになれるね。お金のある家には儲け話も転がっているだろう)


「おい、おっさん。子供相手に格好が悪いぜ」

「何だ、てめえは?」と男が肩を怒らせて近づいてきたので、腹に正拳突きを喰らわせた。

「おぶ」と男が声を上げて、(うずくま)った。子供の手を取って、大通りまで逃げた。

 男は追ってこなかった。


 子供は礼儀正しく礼を述べた。

「危ないところを、どうもありがとうございました」

「いいってことだよ。あまり危険な場所に入っちゃ駄目だよ」


 子供は小さいながらも、健気(けなげ)に申し出た。

「よろしかったら、家に来ていただけませんか。お礼をさせてください」

(よし、作戦は成功だ)

「お礼なんて、いいよ。でも、また、危ない目に遭ったら困るから、()いていくよ」


 子供が歩き出したので、従いていく。子供は、街の北側にある高級住宅街に行く。子供は四百㎡の庭付き二階建てで十五LDKありそうな大きな白い家にユウタを案内した。

(これいいね。完全に金のある家だ。ここに出入りできればすぐにレベル・アップできそうだ)


 子供が元気よく声を上げる。

「お母様、ただいま戻りました」


 ユウタが玄関のドアを閉める。黒いワンピースを着た、女性四十代くらいの金髪のショート・ヘアーの女性が出てくる。

 女性はきつい視線を向けると、子供をいきなり平手でぶった。

「この役立たずが!」


 ユウタは思わず抗議した。

「ちょっと、何するんですか。酷いでしょう」

 女性は子供の頭を乱暴に掴むとユウタに向ける。

「あれは人間じゃない。悪魔よ。悪魔を家に呼び込んだら、駄目でしょう」


 正体がいきなりばれたユウタは、どぎまぎした。

「違いますよ。悪魔じゃないですよ」

 女性は腰に手を当てて、不機嫌な顔をする。

「隠さなくてもいいのよ。私も悪魔だからね。私の名はパサイモン」


「同族ですか?」

 パサイモンは怒った顔で内情を明かした。

「そうよ。私はこの子を使って、善人を釣っていたのよ」


 子供を見ると、子供が悲しそうな顔でユウタを見ていた。

「なら、さっきのモヒカン男は?」

「使用人よ」とパサイモンはむっとした顔で告げた。

(そうかー、危険度が少なくて儲け易いのなら当然、ライバルがいるんだ)


「あれ、でも、僕は気付かなかったから、騙せばよかったのでは?」

「私は同族から仕掛けられない限りは、仕掛けたりしない主義なのよ。平和主義ってやつよ」

(平和主義者の悪魔か。悪魔にも色々いるんだな)


「さあ、わかったら出て行ってちょうだい」と、パサイモンは不機嫌な顔で扉を指差す。

 ユウタは、すごすごとパサイモンの家を出た。

(さて、どうしたものかなあ)


 行く当てがないので、ぶらぶらしていると、裏通りに入った。

 老いた白髪交じりの物乞いがいた。

 物乞いが情けない顔で、哀れみを誘うように声を出す。

「旦那、少しでいいんでさあ、何かお恵みを」


 今度は用心のために、『強欲読心』を試す。

 物乞いの心の声が聞こえる

「金を持っていそうな兄ちゃんだ。俺はこんなところで終わらない。全てを奪ってやる」

(もう、この街の住人って、善人いないのかなあ)


 ユウタが財布を取り出す振りをする。

 男は背後に隠し持っていた鉈を振り下ろした。

 ユウタはひょいと避けて、顎に掌底を入れると男は一発でのびた。


 パチパチと拍手をする音がする。

 音のするほうを見ると、立派な髭を生やした小太りの丸顔の四十代の男がいた。男はぼろい灰色の服を着ていたが、どことなく気品があった。


 男は笑顔でユウタを褒めた。

「見事な反射神経です。どうです? その腕を使って一儲けしませんか?」

「あんたは、誰?」


 男は(うやうや)しい態度で自己紹介をする。

「私はトニー。スカウトマンのトニーといいます」

「その、スカウトマンが何の用?」


「私は賭博場で戦う選手を探していたのです。よろしければ、一緒に儲けましょう」

『強欲読心』を試みると、トニーの心の声が聞こえる。

「噛ませ犬にはちょうどいい。適当に勝たせて、選手契約を結んで、ボロ雑巾のようになるまで使ってやれ」


 うんざりするが、思い直す。

(待てよ。こいつ、適当に勝たせてやれって思っているな。てっことは、イカサマがある賭博だ。だったら、このイカサマを利用すれば儲けられるな)

 ユウタは真意を隠して告げる。

「僕の名はユウタ。選手には興味がないよ。でも、賭けるほうには、興味がある。客として入りたい」


「いいでしょう。従いてきなさい」

(トニーの奴、どうせ、イカサマで有り金を巻き上げて、借金漬けにすれば、選手に落ちると思っているな。悪いが、そうはいかないよ)


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