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第六話 『金の下僕』編(二)

 人間の世界に繋がるゲートは、街の北側の駅と呼ばれる場所にあった。駅は黒い円柱が立ち並ぶ全長百二十mの建造物だった。駅には駅舎があり、黒いコートのような制服を着た、青白い顔の悪魔の駅員がいた。

「人間界に行きたいんだけど、どう行ったらいいんですかね?」


 暇そうな顔をしていた駅員が答える。

「円柱の横に銀貨を入れる場所があるよ。そこに銀貨を入れると三十秒だけ人間界に繋がる扉が現れる。扉を潜れば人間界さ」

「戻ってくる時はどうしたらいんですかね?」


 駅員は澄ました顔で説明する。

「人間界にあるゲート発生装置を使うしかないね。また、誰かに上級魔法で送ってもらうか、だ」

「つまり、人間界に行ったら成功するまでも戻ってこられないのか……」


 駅員も軽い調子で同意する。

「そういうことだな」

「レベル・アップはどうすればいいんですか?」


 駅員が気のよい顔で、すらすらと語る。

「人間の世界にもレベル・アップをしてくれる悪魔を呼び出せ場所があるから、探すんだね。他の悪魔の縄張りだと、手数料を取られることもあるよ」

「ご親切に、どうもありがとうございました」

「いいってことさ。これが仕事だからね」


 駅舎には大陸の看板があった。大陸は今いる場所を中央に挟んで、西と東に大陸があった。

 中央の大陸は丸く、西の大陸が長方形で、東の大陸は逆三角形を二つ連ねた形をしていた。

 駅舎の看板には星印で《難易度》と《儲け易さ》の指標があった。

(最高で難易度は六か。《難易度二》、《儲け易さ三》のお勧め表記がある西大陸の『ショキの街』のからスタートするか)


 ユウタは『ショキの街』と書かれた柱に記載がある円柱の前に移動する。

 円柱には料金が入れる場所があったので、十銀貨を投入する。柱から光る紫の扉がスライドして現れた。

「さらば、イブリーズ」

 光の扉を潜る。


 草原の中を通る、明るい道の真ん中に立っていた。道は舗装されていないが、草が生えていない。なので、それなりに交通量があるのが知れた。

 道は一直線に伸びていたが、人気(ひとけ)はなかった。

「さて、『ショキの街』は、どっちだろう? まだ、明るいから太陽のある方角へ行くか」


 背の低い草原を通る道を歩いていく。

 日差しは温かく、風は心地よい。危険なんてないように思えた。すると、前方の(くさむら)が不自然に揺れた。

(何か、怪しい。『強欲読心』を使ってみるか)


 神様から貰ったギフトは、鳥が飛びかたを知っているように、自然と使いかたがわかった。

 誰かの声が心の声が聞こえた。

「とろくて、弱そうな獲物が掛かったぜ」

(これ、茂みに誰かいるな)


 わかったので、不意打ちされる危険はなかった。足を止めると、若い男が飛び出してきた。

 若い男は赤いモヒカン髪型をして、肩パットがある革鎧を着て、手に剣を持っていた。目つきは悪く、悪人面の言葉がよく似合う。


 男がいやらしい笑みを浮かべて脅迫する。

「おっと、兄ちゃん。この道路は有料だ。大人しく財布を置いていきな」

 後ろを見ると、もう一人、同じような格好をした金髪のモヒカンが退路を塞いだ。


 ユウタは慌てなかった。

(敵は前後に一人ずつ。それほど、強そうには見えない。新兵よりは弱そうだから、変身しなくても、二人なら行けるか)


 後方の金髪が囃し立てる。

「素直に財布を出したほうが身のためだぜ」

 ユウタは杖を構える。二人の男はユウタの周りをじりじりと回り、隙を(うかが)う。


 叢が動いた。三人目の人物がいた。この男の気配にユウタは気付かなかった。

 三人目の男は長髪の金髪の二十代後半の男で、使い込まれた革鎧を着て、(つち)で武装していた。

「何で? 手前は引っ込んでろ!」とモヒカンの男が二人が凄む。だが、男は怯まず、叢から出てくる。


 三人目の男にモヒカン二人が斬り掛かる。だが、三人目の男は軽くモヒカン二人を気絶させた。

 三人目の男が穏やかな顔で声を掛けてくる。

「治安は良くなったとはいえ、子供一の人旅は危険だ。街まで送っていくよ」

(何か、怪しいな。タイミングが良すぎる)


『強欲読心』を使うと、男の心の声が聞こえた。

「のろまそうな子供だな。顔はいいから、高く売れるだろう」

(こいつも、悪人か。さっきの二人も、あっさりやられてたけど、これは三人一組の悪人だな)


 ユウタは騒ぎ立てたりはしない。

 三人目の男は、モヒカン二人組より腕が立つ。また、演技でやられた振りをしているなら、モヒカンの男二人は戦闘の際に立ち上がって参戦してくる。

(さすがに、この男が敵にいて三対一なら、変身しても勝てないかもしれない)


 ユウタは頭を下げて丁寧に礼を述べる。

「危険なところを助けていただき、ありがとうございました。街に着いた際には、是非お礼をさせてください」

「そうか。なら『ショキの街』まで案内してやるよ」


 ユウタと男は歩き出す。男は自然な態度で訊いてくる。

「ところで、兄ちゃんは街に知り合いでもいるのか?」

(おっと、人身売買の事前調査だね)


 ユウタは笑顔で答える。

「いいえ、いませんよ。『ショキの街』の、その先の街に用事があるんです」


 ユウタは売り易さを、それとなくアピールしておく。

 男は意外そうな顔で尋ねる。

「『ショキの街』の先ってえと『ジョウバンの街』か?」

「まあ、そんなとこです。『ジョウバンの街』に働き口があるんです」


 男は心配した顔で忠告する。

「『ジョウバンの街』は止めておいたほうがいいぞ。あそこは薬物汚染が酷いと聞く」

「え、そうなんですか? それは知らなかったな」


 男は身を案じる顔をして勧める。

「もし、働き口が必要なら、俺が『ショキの街』で紹介してやってもいいぞ」

(甘い言葉で、売り飛ばす気だね)


 一応、躊躇(ためら)った態度を採る。

「うーん、でも、紹介してもらった人の顔があるからな」

「なら、どうだ? 条件だけでも聞いていかないか?」


(こう囁いて誘って、売り飛ばすのか。人間って怖いな)

「条件だけ聞いてみようかな。ちなみに、どんな仕事ですか?」


「『ショキの街』には賭博場がある。賭博場といっても、いかがわしい場所じゃない。そこで給仕を募集しているんだ」

「居酒屋で働いていたから、給仕ならできるかな」

 その後も男と適当に話をしながら歩くと、三十分で、石壁に囲まれた街が見えてきた。


 男がにこやかな顔で教えてくれた。

「ほら、見えてきたぞ。あれが『ショキの街』。人口三万の中規模都市だ」

(石壁の高さは八mか。戦争を見越したにしては、低いから、獣避けかな?)

 門の前まで来るが、門は頑丈そうではなく、石壁の厚さも一m未満だった。


 街の入口には衛兵が立っていたので声を掛ける。

「衛兵さん、こんにちは、このおじさんは人を騙して売買をしています」

 ユウタの言葉に衛兵が顔を歪める。


「おい、何を言っているんだ」と男は慌てた。

「違うの? じゃあ、さようなら」

 ユウタは全力で大通りを駆け抜けた。男は追ってこなかった。

(さて、人間の街に着いたけど、どうやって稼ごうか?)


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