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第二十八話 育成の結果

 決闘の朝を迎えた。明け方には雨が上がっていた。天気は晴天で、太陽が眩しい。


 体操広場では軽食の出店が出ている。菓子を売る店もある。賭け札もある。こんな小さな村に、どこにこんな人がいたんだと思えるくらいの人がいた。


 いつもの体操は時間になると始まった。ポンタの傷はほとんどよくなっていた。戦いに支障はない。体操をしていると、村人の視線を感じる。村人は囁きあっている。


「肌艶がいい」「立ち姿が安定している」「腰が据わっている」「目の輝きが違う」「首に筋肉が付いた」「毛並みがいい」「英気を感じる」「歩き姿が様になっている」と好き勝手に品評会をしている。


 体操が終わった。年配層が賭け札屋に並ぶ。出走前のパドックで馬の仕上がりを見て馬券を買う層の動きだ。ララーがポンタと一緒にやってくる。


「お二人は広場の中央待機でお願いします。開始は賭け札販売締切の後でやります」


 ポンタがララーに質問する。

「参加者も賭け札を買ってもいいんですか?」


 ポンタの顔には闘志は見えない。でも、自分に賭けたいのなら、かなり自信がある。


 苦笑いしてララーは拒否する。


「ダメです。二人で示し合わせて勝敗を決められると困ります。決闘に反則はありません。ですが、八百長は禁止です。もしやった場合は師匠から鉄槌が下ります」


 運営する側として当然の対応だ。ポンタはがっかりしていた。

 そりゃそうだ。師匠から下される鉄槌は死神の一撃と同じだ。


「ユウタ、こっちに来い」とラウ老師に命じられる。ポンタもロロン導師に呼ばれた。


 別れ際にポンタに挨拶をするほど親しくはない。「正々堂々やろうぜ!」という会話はない。ユウタもポンタも熱血系ではない。


 老師は地面に厚い布を敷いていた。「横になれ」と命じられたので素直に従う。ラウ老師はユウタにマッサージを開始する。ラウ老師にマッサージをさせるのは気が引ける。


「大丈夫ですよ」と断ろうとすると、ラウ老師の顔が険しくなる。

「お前のためではない。これはワシの戦いだ。ロロンの奴には負けたくない」


 ユウタとポンタの戦いではない。ラウ老師とロロン導師の育成バトルだと改めて自覚した。良いコンディションで戦ってほしいのではない。良いコンディションで戦わせたいのだ。


 ユウタへのマッサージはラウ老師の勝率を上げるための施策だ。


 育成モンスター扱いなら、トレーナーの指示に従うのが筋だ。着替えて変身後、ユウタはマッサージを受ける。気になるのでえポンタの状況についてラウ老師に尋ねる。


「ポンタは強くなっていますか?」


「ロロンが指導したんじゃ。強くなっているに決まっておる。ポンタは修行の前から基礎的な強さも備えていた。どこかで戦いの基礎をしっかり学んでおる」


 ユウタの戦い方は我流である。ポンタが基礎から学んでいるのなら、ポンタのほうが戦闘に長けている。人間は悪魔より身体能力は低いのが、まだ救いだ。


「ポンタはどういう戦い方をしてくると予想しますか」


「それはわからん。ポンタもユウタの戦い方を知らん。だが、展開は予想できる。長引けばユウタの動きにポンタは対応してくる。長引けば苦戦すると思え」


 長期戦は不利なのか。身体的に有利でも見切られたら攻略される。戦闘経験の差を戦いの最中では埋められない。


「僕はどう戦えばいいでしょう」

「知らん。必要なことは全て教えた」


 正拳突きしか習っていない。ポンタは正拳突きで倒せる相手ではない。

「ワシが教えたのは正拳突きだ。だが、お前が学んだのは正拳突きではない。持てる全てで戦え」


 それらしくカッコイイ言葉だ。だが、まるで参考にならない。できすぎる指導者の教えは馬鹿にはわからないと、ユウタはガッカリした。ユウタの体の向きを変えてのマッサージは続く。


「最初から全力で行け。あとくれぐれも自分の才能に溺れるな」


 開幕全力攻撃の指示はいいが、才能はどうこうは的外れだ。魔法も二つしか使えず、格闘戦でも目ぼしい技術はない。ユウタは天才ではないと自覚している。


 マッサージが終わった頃にララーが呼びに来た。マッサージのおかげで体が軽くなった。体操広場の中央に行くと、ポンタが待っていた。ポンタには余裕があるのか自然体だった。


 ポンタは鎖鎧を着て剣と丸い盾を持っている。

 ララーから説明がある。


「ロロン導師の結界が張られたら開始です。結界内から外へは勝敗が決まるまで出られません。中から外への攻撃も通らないので、選手は全力で戦ってください」


 ロロン導師の張る結界なら、ポンタにもユウタにも破壊不可能だ。ユウタには広範囲な魔法攻撃はない。ポンタは見かけから、魔法で戦うタイプには見えない。だからといって、魔法を使えないと侮っては危険だ。


 ロロン導師の結界が張られた。結界は縦×横の一辺が十m。高さは五mだ。足元を見ると地面に結界がない。ロロン導師が選手の下方向への移動を失念するとは考えられない。


 結界は立方体と見ていい。地下に潜っても五mが限界だ。

 結界は青い光の壁で内側からは外がよく見ない。音も聞こえない。ラウ老師からのアドバイスはない。


 結界の完成から一秒を置いてユウタから仕掛けた。スチルロンで全身を硬化させて突っ込む。


 ポンタがユウタを迎えうつ。ユウタの突進に合わせてポンタは剣で突く。剣速は速くない。ポンタの剣を潜って、ユウタは拳を放つ。ポンタは体を引いて盾でガードした。


 ポンタには剣がある分、ユウタより攻撃の間合いが広い。ユウタの攻撃が当たる前に、不完全ながらガードは成功させる時間がポンタにあった。


 ユウタの攻撃を防いだポンタだが、体が持ち上がりそうになっていた。体重差が影響している。ポンタは軽い。


「攻撃を防がれてもいい、当て続ければ体勢をポンタは維持できない」


 ユウタはひたすらラッシュで攻める。ポンタが苦し紛れに剣を振った。剣がユウタの体に当たった。ポンタがきちんと踏み込めていないせいか、痛くない。


「このまま押し続ければ勝てる」


 ポンタからの攻撃をもらうのを、構わずユウタは攻撃を続けた。ゴリ押し戦術だ。二分、三分と攻撃すると、ユウタは異変に気付く。


 ポンタのガードが寸前のところで崩れない。鎖鎧の上からとはいえ、ユウタの攻撃が体にヒットしている。なのに、ポンタには弱る気配がない。我慢しているとか、耐えているというレベルではない。


「あまりダメージになっていないのか?」


 ユウタはすっと体を引いてポンタを観察する。ポンタの表情は苦しそうではある。だが、息はあまり上がっておらず、汗も滲んでいる程度だ。ユウタは理解した。


 ポンタは見かけは小さいが、体力とスタミナに秀でている。冒険者でいうところの、タンク・タイプだ。ユウタが引いたところで、ポンタが打って出た。


 やはりポンタの攻撃は速くない。スチルロンで硬化した腕なら剣を弾ける。倒される恐れはない。問題は最初にユウタがあれだけ攻撃したのに、攻撃の速さと精度が変わらない戦況だ。


 依然としてポンタにとって不利な状況かもしれないが、ポンタは負けパターンには嵌っていない。


 ユウタは受けに回りつつ、隙を見て攻撃を出す。防御に回るより、攻撃を続けるほうが疲弊する。三分、四分、五分とポンタの攻撃が続く。勢いは一向に衰えない。


 ロロン導師はポンタを育成するにあたり、体力とスタミナを重点的に上げてきた。ラウ老師の「長引けば苦戦する」の言葉が頭に浮かんだ。


 疲弊させれば、勝てると考えたのは浅はかだった。敵はポンタだけではない。ロロン導師の作戦が功を上げている。戦局を打開できなければ負ける。

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