第二十五話 レベル六の強さ
「始め!」の合図で陶器ゴーレムの目がユウタを捉えた。後手に回らないように、ユウタから仕掛けた。スチルロンで硬化させた拳を陶器ゴーレムの腹に叩き込む。
陶器ゴーレムの表面が割れるが、一撃では破壊できなかった。
陶器ゴーレムが一歩下がって、拳を振り下ろす。
ユウタは腕でゴーレムの拳を弾いた。陶器ゴーレムの一撃は速くないが、重さは有る。陶器ゴーレムの姿勢を崩そうと、ユウタは試みた。陶器ゴーレムの脚にローキックが決まった。
手応えは充分だが、陶器ゴーレムの姿勢は崩れない。
陶器ゴーレムは重さが有り、見かけはバランスが悪い。その割に重心が安定している。陶器ゴーレムの拳を躱しながら、ユウタはローキックを続けて放つ。三度、当たったが陶器ゴーレムの姿勢は崩れない。
無機物である陶器ゴーレムが相手なので、締め技は無効。関節技は効果あるかもしれないが、関節の可動域がわからない。幸い陶器ゴーレムは動きが遅い。打撃を続けても破壊できそうだ。
倒すのに時間は掛かるかもしれない。だが、ロック・カメレオンよりは耐久力はずっと低い。ロック・カメレオンよりずっと楽な相手だ。勝利の筋道が見えた時に陶器ゴーレムに変化が起きた。
「ピーーー」の音の後に陶器ゴーレムは背中から蒸気を噴き出した。陶器ゴーレムの動きが速くなった。スチルロンで硬化したユウタの攻撃を当てるには柔軟性が足りない。
単調になるユウタの攻撃は加速した陶器ゴーレムに回避される。
陶器ゴーレムのパンチ力も上がっていた。しっかりガードしないと、ガードを崩されそうになる。陶器ゴーレムは息があがらない。形勢が逆転した。一方的にユウタが攻撃される。
ユウタは足の硬化を部分的にゆっくり解除した。硬化していない足なら素早い蹴りが出せる。ユウタの速い蹴りでも、陶器ゴーレムに当たらなくなった。
陶器ゴーレムの動きが良くなっている。逆にユウタの膝を陶器ゴーレムに狙われた。姿勢を低くして再び足を硬化させる。陶器ゴーレムの蹴りが太腿に命中する。威力が上っており、強い衝撃を感じる。
スチルロンで硬化させても響くのだから、生身で陶器ゴーレムの攻撃は受けられない。ユウタは一方的に攻撃され続ける。
見かねたのかドドンパが声を掛けてくる。
「もう止めるか? いつでも止められるぞ。無理はするな」
「まだいけます」
命懸けの戦いなら逃げ出した。現状は安全な雇用試験の一環である。ならばそう簡単に投げ出せない。『天才力』を使用した。頭が冴え渡り、相手の攻撃が見える。相手の攻撃を捌いて、反撃に出た。
陶器ゴーレムの顎、胸、股間にユウタの拳が三連続でヒットする。人間相手なら大きく動きを止めることができた。ゴーレムには痛覚がないので怯まない。人体と急所が違うので、動きも悪くならない。
戦闘開始時から打撃を入れているので、陶器ゴーレムの表面はボロボロだった。内部にある柔らかい部分も崩れている。だが、どこまで壊せば倒せるか、先が見えない。
「プシュー」と音がして陶器ゴーレムの蒸気が止まった。途端に陶器ゴーレムの動きが遅くなった。ダメージを受けすぎたのか、強化時間が終わったのか、わからないがチャンスがきた。
流れによって攻撃を続けようとしたが、危険を感じた。さっと距離を空けると陶器ゴーレムの体から電気が放たれる。今までにないほど強い傷みが体を駆けた。
体も硬直した。スチルロンでの硬化時には、電気よる攻撃が弱点だと知った。
陶器ゴーレムから放電が止んだ。陶器ゴーレムも魔力で動く以上限界がある。
放電攻撃を続けるほどの魔力は残っていない。フラフラになったユウタだが構えを取った。
「陶器ゴーレムだって限界が近いはず。ここが踏ん張り時だ」
陶器ゴーレムの目が輝いた。危ないと思いユウタはアスオクで地中に体を半分埋めた。陶器ゴーレムの目からレーザーが出た。ユウタの上半身が有った場所をレーザーが通り抜ける。
陶器ゴーレムの首は一回転した。横に逃げていたら躱せなかった。
陶器ゴーレムの目が強く光った。ユウタは咄嗟に地中に逃げた。ドンという大きな音と共に、地中に振動が伝わる。陶器ゴーレムが爆発した。衝撃が収まってから地上に顔を出した。陶器ゴーレムは粉々だった。
上からドドンパが青い顔で覗いていた。ドドンパはユウタを見て安堵した。
「良かった、生きている」
ユウタが地上に飛んで戻ると、ララーは顔をキラキラさせて賞賛した。
「凄いです。ユウタさん。私はもう死んだかと思いました」
「経験の差ですかね。いままでも色々ありましたからね」
強がりだった。正直に言えば最後の爆発は危なかった。巻き込まれていたら死んでいたかもしれない。ここまで戦えないと勤められない職場なら、断りたい。
ドドンパは頭を下げて詫びた。
「申し訳ない。陶器ゴーレムの設定が狂っていた。当初の予定では陶器ゴーレムは肉弾戦しかできないはずだった」
殺人マシンに殺されるところだった。ちょっとこれはいただけない。抗議しようとすると、ドドンパがサッとポケットから金貨取り出す。ドドンパは金貨をユウタの手に握らせる。
「これは報酬と詫び代だ。取っておいてくれ」
一試合で一金貨とは豪勢だが、口止料込みの金額だ。もう少し粘ればもっと出るかなと欲が出る。ララーがすかさず口を挟む。
「ドドンパさん、雇用の件は考えておいてください。さあ、行きましょうユウタさん」
勘のいい娘だなと舌を巻いた。ここは大家さんの顔を立てよう。陶器工房を後にする。
移動しながらララーが提案した。
「あそこまでユウタさんが動けるとは思いませんでした。陶器ゴーレムはオーバー・チャージ・モードになると強さは実質レベル六ですからね」
ララーの言葉に驚いたが、顔には出さないように努力する。ユウタも同じ六レベル。今回の戦いは危ない戦いだった。とすると、同格同士の戦いではユウタは死にそうになる。
陶器ゴーレムは頭が良くなかった。もし、陶器ゴーレムが人間並みに頭が良かったらユウタは勝てなかった。『ドイナカ村』でレベル七のメルルとまともに戦っていたら、戦闘経験の差がなくても負けていた。
今さらながら冷や汗が出そうだった。自分は調子に乗り過ぎていると自戒した。緊張の糸が切れると疲れが出た。今日は戦い過ぎた。
ララーがどこかに連れて行こうとするのでお願いした。
「今日は疲れたよ。仕事の紹介は明日でもいいかな?」
「でしたら今日の夕食はサービスしますよ」
ドドンパを責めなかったので追加の報酬だ。気が回るのか、あざといのか、わからないがララーは気が利く奴ではある。
「夕食は肉中心でお願いしたいね。量もあるといい」
「ちょっと良いお肉があるんで、入居祝いに出しますね」
良い肉は嬉しいな。肉は喰いたいが、貧しいので喰えなかった。ララーに手綱を握られている気もするが、食べたいもの食べたい。
ユウタが気を良くしているとララーから提案がある。
「明日ですが朝は早くていいですか。広場で皆で体操をします。参加するのなら、お爺ちゃんからの仕事を斡旋できます。ユウタさんがあれほど動けるのならこちらのほうが稼げますよ」
体操はお年寄りの健康増進の試みか? 上手く行けば健康づくり教室のインストラクターの仕事でもあるのかもしれない。ならば問題ない。さすがに今日のように死に掛けるような事もない。
「体を動かすのは気持ちがいいからやるよ」
ユウタは機嫌よく了承した。夕食は部屋にアヒルも丸焼きが一羽、ドンと届いた。味付けも好みで量も充分あった。それなりに高い料理だったのて、ドドンパの件は忘れることにした。
シャワーを浴びてぐっすり眠る。
朝に準備をしてララーと出掛けた。小さな村の広場に朝の体操をするための村人がいた。村人の中には、明らかに猛者のオーラを出している老人が二人いた。二人の老人が醸し出す空気は険悪だった。




