第二十三話 昔の話
占い師はユウタのツッコミを無視して続ける。
「この先には危険があります。引き返しても危険があります。道を無視して道から外れても危険があります」
「貴女は占い師ではなく、告知師ですか? 僕を襲う気ですか?」
「いいえ、違います。回復が必要ならします。料金は十銀貨三枚です」
ボス戦の前に回復してくれる人的な存在なのか? ボス戦の前ならタダでいい気もする。だが、不景気だと愚痴っていたので、前は無料だったのかもしれない。
ライスお代わり無料の店がある。次に行ったら大盛無料に変わっていても不思議ではない。
「時代の流れか。でも今は回復は必要ないかな」
口に出してユウタはおや? っと思う。自分が考えて口に出した言葉が、なんでそんな言葉が出て来たからわからない。ボス戦前の回復? ライスお代わり無料? これはいつの記憶だ。
ユウタが考えこむと、占い師が会話を続ける。
「先に進めていいですか? こちらにも都合があるんですけど」
「悪い。とりあえず、回復なしでいいです。どうせまた会うんでしょうからその時に考えます」
「それは貴方の占いですか?」
「占いじゃないですよ。貴女のも占いじゃないでしょう」
占い師は機嫌を悪くしたのかプイと横を向いた。
先に進むと敵が待ち構えている予定だ。敵は目の前の占い師が置いたと思われる。ここで占い師に襲い掛かってはいけない。設置する敵より占い師のほうが弱いとは思えない。
占い師がこのパターンで人でも悪魔でも襲っているのなら、何か意図があるはず。
ユウタは席を立った。霧の中を先に進む。振り返ると占い師が見えない位置だった。更に進む。道の真ん中が丸く開けている。中央には象のように大きな茶色の岩がある。
「これか」と納得した。岩が変形するなり、地面から下半分が出てくると予想できた。すぐに襲って来ないので、開けた場所の地面を確認する。
罠はありそうになかった。戦闘中に動き回って罠を踏む可能性はない。
「どうせ戦わないと、先には進めないんだろうな」
服を破かないように袋にしまう。悪魔の姿に変身して戦いの準備をした。
ユウタは覚悟を決めて近づいた。岩に近付くと岩が動く。岩の下半分からカメレオンに似た体が現れる。
「やっぱりな」がユウタの感想だった。
カメレオンの体は石ではないが、皮膚は厚く硬そうだった。『ロック・カメレオン』っといったところだ。
スチルロンで拳を硬化させて殴る。攻撃がヒットすると、ロック・カメレオンの顔が歪む。スチルロンで硬化した攻撃は有効だが、いかんせん敵の体が大きい。
五十回くらい攻撃が当たったところで倒せそうにない気がする。長期戦の予感がした。
ロック・カメレオンが手でユウタを振り払う。ロック・カメレオンは体が大きく、背中に岩を乗せているので、動きが鈍い。スチルロンで硬化状態で動きに制約があっても回避可能だ。
ロック・カメレオンに接近して回り込んで戦う。
ユウタの攻撃は当たるが、ロック・カメレオンからの攻撃は当たらない。レベル的にロック・カメレオンはグレー・オーガより上かも知れない。
ユウタにとってはロック・カメレオンのほうが戦いやすい。亀が甲羅に隠れるように、ロック・カメレオンは岩の下に隠れた。
嫌な予感がしたので全身を硬化させる。ロック・カメレオンの上部の岩が一部弾ける。岩が礫となり全方向に飛んだ。ユウタの体にも岩礫が十以上当たった。
全身硬化状態のユウタの体のほうが岩より硬い。ユウタは無傷だった。
ロック・カメレオンが岩から再び体を出した。すかさずユウタは殴りに行く。ロック・カメレオンは体を振り回してユウタを攻撃するが当たらない。
ロック・カメレオンは苛々し出した。こうなると、ロック・カメレオンの攻撃は精細を欠く。ユウタにすればやり易い。ロック・カメレオンの隙を突いて殴り続ける。
「サンド・バッグを殴っているようだ。終わりが見えない」
五十発以上は殴っている。ユウタの攻撃は確実にヒットしていた。なのにロック・カメレオンは倒れる気配がない。
懸念した通りの長期戦になりつつあった。哲学デーモンの魔力量は多い。スチルロンを継続しながらでも、まだ戦える。レベル六の悪魔の体なので息切れもしない。
魔力もスタミナも無制限ではないので、永久には戦えない。
ロック・カメレオンが体を丸めた。警戒してユウタは上空に退避した。ロック・カメレオンが勢いを付けて転がり出した。轢かれたら大ダメージだが、空にいれば関係ない。
「ロック・カメレオンは格上の敵だが、僕と戦うには相性が悪すぎる」
時間は掛かるが倒せる相手だった。体を丸めた状態ではロック・カメレオンの視界は制限される。ユウタが既に上空にいる状況に気付いていない。ちょいと待つと、体を丸めた状態が解除された。
ユウタは下りてまたロック・カメレオンを殴り始める。ロック・カメレオンはユウタを倒せないと悟ったのか、体を岩の下に入れて守る。岩を殴ると、岩は削れる。当然の如く、岩の部分は体の部分より硬い。
「これは参ったな。防御が堅すぎる。ハンマーで大きな岩をコツコツと叩くようだ」
ロック・カメレオンが防御状態で倒すには二日くらい掛かるかもしれない。さすがにそこまでは魔力が続かない。休憩を挟むことになると、倒すまでの時間がさらに伸びる。
そうなる『ロック・カメレオン』の傷は当然に回復する。
「下手したら一週間くらいかかるな。なんとか、ロック・カメレオンの体を出させる方法はないか?」
岩の部分を殴りながら考えるが、名案はない。ロック・カメレオンとて生存率を減らす戦い方はしない。困っていると、後ろから怒られた。
「止めなさい。亀を虐めてはいけません」
驚いてユウタは振り返る。釣り竿を持った漁師がいた。漁師は若い人間の男だ。なんで森の中で漁師がいるのかわからないが、漁師は怒っている。漁師は悪魔の姿をしているユウタに驚かない。
漁師は怒っているが、襲ってきそうにはなかった。
ユウタは弁解した。
「でもこいつを倒さないと先に進めないでしょう」
苦い顔をした漁師は財布から大きな銀貨を取り出した。
「ここに十銀貨ある。これで亀を譲りなさい」
漁師に怒られると悪いことをしている気がしてきた。どの道、このまま戦ってもいつ終わるかわからない。十銀貨で手を打ってもいい気がした。
ユウタが答えない、と漁師は銀貨をユウタに投げる。思わずユウタはキャッチした。
漁師はロック・カメレオンに優しく振れる。ロック・カメレオンがそっと顔を出した。
「怖かったろう。もう大丈夫だ。安全なところにいこう」
漁師が声を掛けると、ロック・カメレオンはゆっくりと歩き出した。漁師とロック・カメレオンが霧の中に消えていく。ユウタは気付いた。
「あいつ亀じゃなくてカメレオンだよな? 同じ爬虫類ではあるんだけど」
なんかスッキリしないと思っていると、足音が背後から近づいてくる。足音は複数だった。霧の中からシルエットの三人が浮かびあがる。ユウタは警戒して構えをとる。相手は同じ姿をした三人の占い師だった。
霧の中をループして同じ占い師に遭遇しているわけではなかった。道は直線に進んでおり、同じ格好の三人と遭遇していた。紛らわしいと、苦く思ったが、占い師には罪はない。
三人の占い師は悪魔の姿のユウタを無視して先に進んでいく。何か異常な事態が起きている。何が起きているかはわからなかった。説明も付かなかった。




