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第二十一話 哲学デーモン

 陽が昇って明るくなった。ペペが起きて畑を見に来た。ゴブリンの死体を見てペペは驚いた。

「やはりアガペの花はゴブリンを呼ぶのか!」


 ペペの様子を物陰から見ていたユウタは演技に出た。今しがた帰ってかのように飛び出す。


「大変だペペさん。昨晩、ゴブリンが二体やってきました。どうにか一体を倒したのですが、もう一体に逃げられました」


 気が動転してペペが狼狽える。

「やはり花を早く処分しないと危険だ」


 緊迫感を出し、早口に告げる。


「ゴブリンを追うと大きな木に偽装されたアジトを発見しました。アジトには旅の商人と思われる人間が荷物と一緒に連行されるところでした。早く助けないと危ない」


『荷物』があったとユウタは強調しておく。

「なんだって、どうしたらいい?」


「村にはまだ十人以上の冒険者がいます。彼らに救助を要請しましょう。僕はアジトの近くでゴブリンを見張ります」


 ペペはユウタを引き留めた。

「止めたほうがいい。危険だよ」


 ペペはいい感じで動揺している。ユウタは芝居を続ける。

「これは人命に関わることです。もし、私がゴブリンに発見されて死んだならそれはその時です」


 ユウタはアジトの位置を教える。

「私は行きます。冒険者の派遣を要請してください」


「お、おい」と止めるぺペに構わず走り出す。他人目に付かないところで隠れた。ユウタは村の入口を見張った。冒険者は必ず助けに行く。


 しばらく待つと思った通りになった。村から冒険者の一団が出てきた。青い記章も白い羽の冒険者も一緒だ。報酬は低いかもしれないが、村にいた冒険者は受けた。


「旅の商人なら金を持っている。商人が死んでいても、荷物を回収できれば誰かが謝礼を持って来るからな」


 ルルとメルルが見送りで、同行しない。アジトにメルルが向かわないのなら、冒険者たちでもどうにかなる。仮に冒険者が全滅するとしてもゴブリンの数は相当減らせる。


 そうなるとメルルが村を制圧して金を集めようとしても簡単には集められない。

 念のために魔法屋に行きアンナに会う。ユウタは頭を下げて頼んだ。


「申し訳ない。急に金が要り用になりました。魔法の返品をお願いできませんか?」


 苦い顔でアンナは拒否した。

「セール品の返品はできません」


「このような身勝手なお願いをするのは恐縮なのですが、金貨二十枚を貸してもらえないでしょうか」

「無理です。金貨は魔法の卸屋さんが昨日、来たので支払に使いました。もう手元にありません」


 金貨二十枚が村にないことを確認できた。数枚違いでメルルに進化されたら意味がない。

「無理を頼んですいませんでした。他を当たります」


 魔法屋を出ると近所の人を摑まえる。魔法屋の卸屋が昨日来ていたか尋ねた。


 近所の人は不思議そうな顔をしたが教えてくれた。

「そういえば来ていたね。月末には魔法屋さんへの配送を兼ねて集金がくるね」


「卸屋の人はいまどこにいますか? アンナさんから魔法の卸屋さんが落としていった物のを配達を頼まれました」


 近所の人はユウタを憐れんだ。

「あんた運が悪いね。集金人は魔法の箒で飛ぶからね。魔法の箒は速いよ。今から追いかけても間に合わない。届けるなら街まで行くんだね」


 メルルが今から追いかけても、金貨二十枚は手に入らない。メルルが計画を完遂させる確率が落ちた。また、集金人が他の業者の集金も兼ねていたら、ラッキーだ。


 古着屋で服を買い直した。顔を少し変えてユウタは別人に化ける。メルルを探すのは難しくない。ルルーが粉を振りまく奇行をしている。目立つことこの上ない。


「悪魔じゃ、悪魔がおる」と叫ぶ。高齢なルルーは体力がないのか休憩を頻繁に取る。ルルーは休憩の時に飲み物を買った。支払いはメルルがする。メルルの財布の膨らみは小さい。


「財布の中に金貨を入れて携帯しているのではない」


 メルルと離れてから村人に別人として話す。

「この村に高名な聖職者であるルルー様がいらっしゃると聞きました。逗留先はわかりますか」


 村人はルルーと関わり合いになりたくないのか、ぶっきらぼうに一軒の建物を指差す。建物は宿屋ではなく煉瓦造りの一軒家だった。


 宿泊先での盗難を警戒してメルルは平屋を借りていた。家のドアを確認するが施錠されている。当然といえば、当然である。アスオクは煉瓦をすり抜けられる。


 試しにやってみると、引っかかる感覚はあるが壁から侵入できた。


 建物にはリビングの他に三部屋があった。ざっと確認する。冒険者用の部屋。ルルーとメルルの部屋。謎の粉の調合部屋があった。三部屋を探すが金貨は見つからない。


「冒険者の部屋にはない。下手に大金を隠すと持ち逃げされる。ルルーとメルルの部屋にもない。ルルーはおかしいので、隠し場所を吹聴する危険がある。となると、調合部屋が怪しいんだけどな」


 もう一回、調合部屋を調べるがやはりない。


「慎重なメルルのことだ。無人になる場所に金貨を隠さないか。かといって、メルル自身は金貨を所持している様子がない」


 メルルの隠し金が見つからない中、陽は昼を過ぎた。家を出てルルーを追うとすぐに見つかる。ルルーの後ろを、メルルがしおらしく従いてきている。ユウタはハッとした。


「金はルルーが持っているのか! だから、メルルはルルーと一緒にいるんだ」

 見当は付いたがここからは賭けである。ユウタはルルーがトイレに行く時を待った。


「小便」と口にしてルルーが動きトイレに入る。ユウタは地面から近づき、ルルーが外のトイレから出る時に襲った。地中から現れたユウタは悪魔の姿でルルーを抱きかかえる。


「ヒャー、悪魔じゃ、助けてくれ!」とルルーが叫ぶ。ユウタはルルーを抱えてルルーの家に目掛けて飛んだ。ドアの鍵を力で壊して中に入る。ユウタはルルーの服の上から金貨を探る。


 ルルーの被っている帽子がやけに重い。帽子の紐を千切る。帽子を取り上げて、生地を破った。中から大金貨が十枚、零れ落ちる。やはりルルーが持っていた。


叫び続けるルルーの声を聞いた村の人間が集まってくる。ユウタは村人に悪魔の姿を見せて叫ぶ。

「近寄るな。近寄れば婆を殺すぞ!」


 悪魔の姿での声に村人は驚いた。ルルーは煩いので、布を口に噛ませて静かにさせる。逃げられても困るのでシーツで作った紐で縛った。


 人が家から遠巻きに集まる。メルルもいた。メルルは険しい形相でユウタを見つめている。


 ここで逃げても無駄だ。金を奪還しに、メルルは何がなんでも追ってくる。一対一ならレベルが上のメルルが有利だ。ユウタは人が近づきそうになる度に叫んで威嚇する。


 ユウタの目的は時間稼ぎだった。新月を過ぎればメルルの計画は潰せる。メルルは焦らず、動かない。


 アジトの戦いでゴブリンたちが全滅したとする。手下がいない場合は村人を脅して金を集める必要が出る。この場で正体を現せば村人は逃げる。メルルだけでは村中に散っている金を新月までに集められない。


 明るい内に本性を出したとする。メルルは村を単独で落とせるかもしれない。集金に使える時間も増える。だが、誰かが街に馬を走らせる危険がある。


 そうなれば、レベルアップの前に強い冒険者が到着する危険がある。レベルアップ後でもアガペの花は村に残っている。


 そうこうしている内に冒険者が全員無事に帰ってきた。出て行った全員が帰ってきたのは嬉しい誤算だ。メルルが一気に不利になった。ここでユウタはメルルを揺さぶりに出た。


 ユウタは外に向けて怒鳴る。

「食い物と酒を持ってこい。持ってくれば明日の朝に婆を解放する」


 ユウタの要求に村人が困惑する。メルルだけが非常に悔しそうな顔をしていた。ユウタのやろうとしていることをメルルは理解した。メルルは正体を現さないが、勝負を諦めた顔ではない。ここからは駆引きだった。

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