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第二話 『ベビー・デーモン』(後編)

 広場の北側に大きな黒い城が見えた。広場には《イブリーズ広場》の看板があった。見渡せば、多種多様なモンスターがいる。そう、ここは、そういう世界だとの認識が拡がる。

 広場には屋台があり、美味そうな匂いが漂っていた。だが、金はない。盗みなんかしたら、殺される気がしたので困った。


(腹が減っては、考えもまとまらない。まずは金だな。あとのことは、飯を喰ってから考えよう)

 ユウタはいきなり街の外に出るような真似はしなかった。まずは、冒険者ギルドのような仕事を斡旋してくれそうな施設を捜す。だが、見つからない。


 大理石のカジノの前を通りすぎ、商店街のような場所に来た。空腹に耐えつつ、商店を覗いていると古道具を見つけた。古道具屋の軒先には《有名人グッズ買い取り》のピンクの(のぼり)があった。

「ラーシャさんて、有名人なんだろうか?」


 とりあえず、店に入る。全身に包帯を巻いた木乃伊男がエプロンをして出てきた。

「この、棍棒って、買い取れますか?」

 木乃伊男の店主は棍棒を鑑定して、金額を告げる。

「銀貨二百七十枚ってところかな」


 思わぬ高額査定に、驚いた。

「そんなにするの? これって単なる太い木の棒だよ」

 店主は当然顔で告げる。

「魔王城製でサイン入り。それで、未使用ならしますよ」

「売ります」


 ユウタは財布がなかったので、サービスで布の財布を貰った。 

 古道具屋を出る。

「これで、レベル・アップに必要な銀貨の約半分が手に入った。となると、やることは一つだな」


 ユウタはカジノに行った。カジノは周囲が五百mで四階建てとそれほど大きくはなかった。

『ベビー・デーモン』でも入店を拒否されなかった。カジノの受付で銀貨を全てチップに換える。

 ルールが複雑な賭け事を避けてゲームを捜すと、サイコロでやる賭博を見つけた。


 眺めてルールを理解する。賭け方は色々とあるようだが、偶数、奇数にも賭けられるとわかったので参加する。

 まだ、日が高いので、お客はユウタを入れて三人しかいなかった。

 ユウタは席に着く、他の二人が奇数に張ったので宣言する。

「僕も全額、奇数で」


 デイラーがサイコロを御椀状の機具に投げ入れる。サイコロが音を立てて椀の中で回る。

 心臓が高鳴る。結果は、二と五で奇数だった。

「よっしゃ」ユウタは歓声を上げた。そのまま、チップを貰って、換金所コーナーに行く。


 手数料を引かれて、銀貨五百十三枚が残った。

 換金所で換金すると、換金所にいた骸骨が丁寧に教えてくれる。

「当カジノには、悪魔神殿の出張所がございますが、ご利用になりますか?」

「そんな、便利なサービスがあるの! うん、利用します」


 黒いぴったりとした服を着た兎の姿をした女性の獣人に付き添われて。出張所コーナーに行く。

出張所コーナーは一辺五mほどの四角い空間で、木製の机が一脚に木製の椅子が二脚あるだけの簡単な場所だった。


 空間に入ると獣人の女性が出て行き、厚いカーテンを閉められる。

 正面を見ると、いつのまにか、ラーシャがいた。

「あら、随分と早く銀貨を貯めたのね、銀貨を見せて」


 ユウタが銀貨を机の上に置くと、ラーシャが銀貨に手を翳す。

 銀貨が生き物のように空中に跳ねて消えた。机の上には十三枚の銀貨だけが残っていた。

「確かに必要な銀貨をいただいたわ」


 ユウタの体がサウナにでも入ったのかのように暑くなる。暑さは二十秒ほどで過ぎた。

 背が十㎝ほど伸び、背中がむずむずして、何かが生えてくる感覚があった。


 ラーシャが微笑んで告知する。

「ユウタは、これでレベル二よ」

「全然、強くなった実感がないですよ」


「強くなるのはこれからよ。レベル二になったユウタは進化先を選べるわ。ちなみにレベル三になるには銀貨が千枚必要よ」

「レベルが一つ上がるとすぐ進化なのか。どんな進化があるんですか」


 ラーシャがテーブルに手を翳すと、四枚のカードが現れた。

 四枚のカードには簡単な説明が書いてあった。


『デーモン・メイス』破壊力抜群の呪われた魔法の鎚。自分では動けない。使用者に囁きかけ堕落と破滅を導く悪魔の鎚。

『デーモン・ゴブリン』デーモンと名が付くゴブリン。この進化を選ぶとレベルが四に固定される。ゴブリンの中では下級魔法も使え、武器も扱える強いゴブリン。


『死の奴隷』命の定めある存在は皆、死の奴隷である。死体からモンスターを創造できる。

『金の奴隷』欲く深き者は皆、金の奴隷である。金を稼ぎ易い。


「説明は、これだけ?」と訊くと「そうよ」と素っ気ない返事がある。

(『デーモン・メイス』への進化はないな。武器だと、下手すると破壊されようとしても何もできない)

「ないな」と思うと『デーモン・メイス』のカードが消えた。次に、『デーモン・ゴブリン』のカードに目が行く。

(これも、ないな。レベルが一気に四になる利点があるけど、先がないと、すぐに行き詰る。それに、ずっとゴブリンとして暮らす生活は気が滅入る)


『デーモン・ゴブリン』のカードも消える。

「残った進化先は『死の奴隷』か『金の奴隷』か。この先って、どうなっているんですか」

「それは、わからないわ。ユウタがどう生きるかによって、出現する派生先も違うもの」


(なんか、『死の奴隷』の先には凄い悪魔がいる気がするけど、あといくつレベルを上げれば凄く強い悪魔に到達するんだろう?)


 ラーシャがユウタの心を読んだように発言する。

「死んだ人間を人間として蘇生できる悪魔は、最低でもレベル九よ。でも、しっかりとした能力が欲しいなら、十は必要よ」

「死者をも蘇らせるとなるとかなり先だな」


 ラーシャがやる気のない顔で、淡々と説明する。

「そうね、十にまで達する悪魔は、珍しいわよ。レベル五、六までは行っても、そこから先で(つまづ)くのが、ほとんどよ。人間に狩られたりもするわ」

「『金の奴隷』ってお金が貯まり易いんですかね?」


 レベルを金で買う方式なので、金が貯まりやすい大きなメリットに思えた。

 ラーシャはやる気のない顔で、おざなりに意見する。

「『死の奴隷』よりは儲け易いとは思うわ、けど、金儲けばかりは才覚も絡むから」

「わかりました。『金の奴隷』に進化します」


 ユウタの体が一瞬、金色に輝く。

 ラーシャが冷めた顔で教えてくれた。

「おめでとう、進化を完了したわ。進化したユウタには、悪魔の神様からギフトが一つ貰えるわ」

(レベル・アップ=進化で特殊な能力も貰えるのか、まあ、レベル二だから、期待はできないが)


「どんな能力を貰えるんですか?」

「一つは『銭撃ち』指で、銀貨か金貨を弾いて相手にダメージを与える能力よ」

(なんか、格好いいな。両手に二十枚ずつ持てば、二丁拳銃のよう使える。いや、ないか。所詮はレベル二の能力だ。大したダメージは、出ないだろう。そうすると、金がもったいない)


 ラーシャがやんわりとした顔で、あっさりと告げる。

「もう一つは、『強欲感知』。強欲な人間を見つけることができるわ」

(これも微妙な能力だな)

「下手したら、人間全員が引っ掛かって役に立たないでしょう」


 ラーシャがむっとした顔で苛立ちに気に述べる。

「そんなことはわからないわよ。使った経験がないもの」

(レベル二ならそんなものか)

「わかりました。なら、貰える『ギフト』は強欲感知でお願いします」


 ラーシャは重要な情報をさらりと告げる。

「あと、奴隷シーリズは人間に変身できるようになる特典が付くわよ」

「人間形態になれるんですか」

「でも、戦闘能力は悪魔形態のほうが強いわよ。レベル二だと戦闘能力は悪魔形態の半分程度よ」


 じっと手を見ながら人間の姿を念じてみる。

 手に生えていた毛が引っ込み、すべすべの肌になった。犬のような口が引っ込むのがわかる。

 部屋に鏡があったので鏡を見る。白い半袖の服に、ベストを着て、だぶだぶのズボンを穿いて、靴を身に付けた十六ぐらいの男の姿があった。


 ユウタは鏡に近づいて覗き込む。ユウタの顔は丸顔で、目鼻はパッチリしており、口は小さい。髪も瞳も黒かった。

「これが、僕の人間状態の姿」

 返事がないので、ラーシャのいた席を見ると、ラーシャの姿は、そこになかった。


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