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第十六話 戦い方を知る

 窓を閉めて、アンナは辛そうな顔で相談する。


「この村に聖職者がやってきました。聖職者は村に悪魔がいると騒いで探しています。聖職者は悪魔祓いと言って謎の粉を村中に振り撒くのです」


 室内のカレーの臭いの正体はわかった。聖職者は怪しい。匂いを感じるが、ユウタは痛くも苦しくもない。


「そいつは聖職者ではなく、詐欺師ですね。そいつを追っ払えばいいのですか?」


 詐欺師だから弱いと限らない。話を聞く限りでは詐欺師は強そうに思えない。取り巻きに四、五人の冒険者がいても分断できればどうにかなる。


 いけそうだなとユウタは思ったが、アンナの話には続きがあった。

「悪魔が村にいるのは確かなんです。一週間前に冒険者が村の外周をうろつく悪魔を確認しています」


 簡単な話ではなくなった。もし、本当に悪魔がいるならバッティングだ。悪知恵の働く悪魔なら厄介だ。前からいた悪魔がユウタを冒険者に殺させ身代りにするかもしれない。


 冒険者に悪魔の姿のユウタを見つかっただけでも危ない。冒険者はもう一人悪魔がいると考えないかもしれない。


 状況はわかってきた。アンナの相談の中身の本筋は悪魔退治ではない。


 悪魔を倒したいなら、冒険者に迷惑しているとは言わない。村の中にいる悪魔を倒してくれと、頼めばいい。悪魔が死ねば聖職者もいる意味がなくなる。


 匂いの問題も片付く。冒険者も仕事を終えたとして帰る。

 アンナは何に困っているのか? アンナの訴えは続く。


「村には別々の仕事を請け負った三パーティの冒険者がいます。冒険者は自分の仕事を邪魔している黒幕が他の冒険者ではないかと疑っています。このままだと悲劇が起きるので解決してください」


 冒険者は悪魔が他の冒険者の中にいる。ないしは、悪魔に操られていることを警戒している。冒険者同士の衝突を止めるのがアンナの望みだ。なんとも面倒な依頼ではあるが、報酬の価値も見合うものである。


「努力します。でも手に余るなら退きますがいいですか?」

「お願いします」とアンナはお辞儀をして頼んだ。


 契約が成立した。アンナは棚から木箱を二つ出す。木箱の中には『特売セール』の札が張ってあった。木箱は埃を被っていないが、かなり日焼けしている。随分と前に仕入れたが、売れていない証拠だ。


 木箱の中には直径十五㎝ほどの丸い玉が入っていた。玉にはスチルロンと書いてあった。

「玉を両手で持って、額に付けてください。修得可能なら修得できます」


 言われたとおりにすると、魔法の力がユウタの中に流れ込んできた。魔法が修得できた。


 もう一つの木箱をアンナが開けようとするのでユウタは確認した。

「仕事をまだ終えていないのに、もう一つも渡すのですか?」


 アンナはニコっとする。

「魔法が二つあったほうが仕事はやり易いでしょう。お客様は報酬を持ち逃げする人ではないと信じています」


 信頼には信頼で答えたい。途中で逃げ出すにしても、ギリギリの線までは粘りたい。同じようにアスオクの魔法も修得する。軽い乗り物酔いのように気分が悪くなった。


「お客様大丈夫ですか? 一度に大量の魔法を記憶されると気分が悪くなる方がいます」


 気分は悪いが、立てないほどではない。

「心配ないよ、ちょっと座っていればよくなる」


 魔法屋ではよくある状況なのか、アンナはハーブティを出してくれた。

「村の名産のハーブティです。飲むと気分がよくなります」


 飲むと気分が落ち着いたので魔法屋を出る。アンナは金貨しか受け取らなかったので、少量の銀貨がユウタの手には残った。


 明日には死ぬかもしれない状況なので、銀貨を少量残しても仕方ない。ユウタは宿屋に泊まってぐっすりと眠った。


 問題は解決するつもりだが、焦りはしない。まずは修得した魔法を使って使用感を確かめる。


 村の中で魔法を使っている姿を冒険者には見られたくない。冒険者とは敵対する可能性が高い。手の内を知られると後々に危険になる。


 地中移動魔法のアスオクは使っていて楽しい魔法だった。装備している物も一緒に沈むので裸にならなくてもいい。地中に持っていった物を離すと危険だった。暗い土の中に物が置き去りになる。


 アスオク発動中は暗い海の中を泳ぐのに似ている。違うのは地中なので浮力で体が上に引かれない。黙っているとゆっくり下に沈んでいく。


 地表に近付くと温かく、潜ると冷たくなるので上下の区別は付く。水中と違い息が苦しくならない。時間と共に魔力が体からゆっくり抜けていく感じはある。


「アスオクは地中で魔力が切れると動けなくなる。そのまま呼吸ができず死亡する危険があるな。魔法を地中で解除されても、魔力が残っていれば再使用できそうだ」


 スチルロンを使うと体が一気に硬化する。最初に使った時は全身に作用して動けなくなった。動けなくなると言葉も発せない、魔法も使えない。


 自力で解除できるが、解除まで数秒を要する。全身硬化だと解除中は動けない。

「全身硬化で相手の攻撃を防いでも、解除時の硬直を狙われると危険だな」


 少し練習すれば拳だけ、足だけの硬化も可能になってきた。部分硬化は解除した時に硬化していた部分の筋肉が硬直する。


 腕や脚の硬化時に関節のみを柔らかくする操作もできそうではあった。とても困難なのですぐにはできない。


「慣れないと戦闘では苦労するな。よほどの才能がないと無理だな」


 使い手であるがゆえに、スチルロンの弱点も見えた。


「戦闘でスチルロンを使う敵が現れたのなら、関節を狙えばいい。目を狙うのもありだ。眼球を硬化させると視界が制限されるから、眼球を硬化しては戦わない」


 戦闘で使いたいが、現状では動くことすらままならない。諦めを感じた時に、頭に閃きが走った。もしかしてと思って『天才力』を発動させる。困難と思えたが、スチルロン使用時の動作がぎこちないが可能となった。


「天才力って凄いな。多く練習が必要なところを短縮できる。あと何回か使えば、スチルロンを使用した状態でも普通に戦える」


『天才力』は一日二回までなのでもう一回使えるが止めた。『天才力』を使えば修得が一気に進むのは理解した。学習に際して連続使用した場合は効果が著しく落ちる。


「なぜ、わかったのか?」と問われれば「天才だから」と答えるしかない。スチルロンによる硬化状態でシャドー・ボクシングをしてもそれなりに動ける。グラップラー・デーモンのアイギルからの餞別のおかげでもある。


「哲学デーモンって魔法系だと思ったけど、格闘もいけるな。体を鋼鉄に変えて戦うのはロマンがある戦い方でもある。でも、主人公の敵がやりそうな戦闘方法でもあるんだよな」


 悪魔なので合っているかもしれないが、勇者を苦しめた『だけ』の存在に終わる未来も有る。戦えるようにはなった。街に戻ろうとすると、何かが近づいてくる音がした。


 音を消していないので獣ではない。気配を消してもいない。ユウタを敵と思っていないのか、敵ではないと腕に自信があるのかわからない。ユウタは逃げてもよかったが、逃げなかった。

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