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第十一話 人間性回帰のための暴力革命

 食事を終えてカフェを立つ。プラテスが周りの眼を気にしてから、そっと告げる。

「今から、君を同志たちがいるアジトに連れて行く」


 怪しいと思った、プラテスが更に怪しくなった。いきなり見知らぬ人間をアジトに連れていくなんて、普通は言わない。


 ユウタはここで別の可能性に気が付いた。


『そうか、プラテスは嘘を()いている。プラテスは製薬企業の手先で実験体になるような人間を探している。甘い言葉に乗るカモが必要だったんだ。そうに違いない』


 根拠のない確信であり、真相は不明だった。

『強欲読心』を捨てた今、真相を知りたいなら、プラテスに従いていかないとわからない。


 逃げたほうがいい、とユウタと考えた。だが、次の瞬間には逆のことを考えていた。


「逆か? 従いていったほうが面白いか。僕のレベルは四。一般的な人間になら、負けない。どうしてそこまで人が欲望に走るのかに興味がある。プラテスを突き動かす狂気にも似た衝動は、どこから来るのかを知りたい」


 正常な心理状態なら従いていかなかった。今のユウタには、他人が踏み越えた先の一線に興味が尽きなかった。ユウタは自分の持つ異常性の自覚には皆無だった。


 プラテスの後を従いて行く。


 危険な場所に向かっている。これから身に危険が迫ると、わかりきっている。なのに、ユウタの心は、ときめいた。他人の欲と悪徳がユウタを次のステージに押し上げてくる気がしてならなかった。


 僕は今、非常に馬鹿げた行いをしている。だけど、わくわくが停まらんのは、なぜだ?


「狂っている」の一言では、片付けてほしくなかった。異常ともいえる他人の心の動きを知ることこそが世の真理にいたる道に見えた。世は悪徳と狂気に満ちてこそ美しい。


 ユウタはプラテスの導きに従って、すえた悪臭のする汚れた道を進んでいた。だが、向かっている先には、美しい園が広がっている気がしてならなかった。


 気分よく先頭を歩くプラテスの後ろを従いていく。誰かが背後から尾行してきているのにユウタは気が付いた。相手の正体が不明なので無視した。


 プラテスは街の南側にある閉鎖された大きな建物に到着した。建物は幅が百五十mほどで、奥行きもそれなりにありそうだった。窓にほぼ全て、板が張ってあった。建物の周りには人気(ひとけ)がない。


 ユウタの心は異常に華やいだ。麻薬常習者すらいない廃墟か。この中には世の真理がある。


 プラテスが真剣な顔で説明する。

「この廃墟は表向きには麻薬中毒を治療する病院だった。実情は違った。狂った者を隔離しておくだけの施設だ」


 ユウタは憤って発言する。


「狂った人間を閉じ込めて隔離するなんて、何て陰湿な施設なんだ。人間は自然の一部であり、狂気の一面もまた人間の真実なのに。許せない」


 プラテスが凛々しい顔で告げる。

「全く、ユウタの言うとおりだ。今は違う。かつて負の象徴の病院こそが、街を開放する革命者の家なのだ」


「悪しき体制を破壊する革命、何て甘美な言葉だ。この行いは尊い」


 プラテスは病院正門の鍵を開ける。ユウタを病院内の敷地に入れると、内側から門に施錠する。壊れかけた病院玄関から中に入る。病院の中は暗い。


「ザルプス」とプラテスが唱える。直径三十㎝ほどの浮遊する魔法の光が現れる。


 プラテスは機嫌よく告げる。

「この病院の地下に同志たちはいる。ここにユウタを迎え入れよう」


 病院の暗い通路を進む。病院の中からは、消毒液に混じった腐肉の強い匂いがしていた。だが、ユウタは気にならなかった。ユウタの心は燃えていた。


「死だ。この病院には、死の匂いが満ちている。この香こそ、無知で、貪欲で、卑しい者の悪行を打ち壊す。この死の香こそ、優美なる混沌(こんとん)の革命へと繋がる匂いだ」


 プラテスが大きな幅四m鉄の扉の前に来る。鍵を使い扉を開けた。扉はよく油が差されているのか、静かに開いた。扉の先には、地下への続く二十六段の階段があった。


 プラテスが励ますように大きな声で告げる。

「この地下に、同志たちはいる。ここから先へ進めば引き返せないがいいか?」


「行きましょう、プラテスさん、街の輝かしい未来のために」

 階段を下りていく、いたるところに血の染みがあるが、気にしない。


 この街では血の染みなんて問題ではない。血は粛清(しゅくせい)の証だ。ユウタの気分は高揚していた。宗教の集会や怪しい個人セミナーで謎の液体を飲んだような状態だった。


 人はユウタの心情を狂気と呼ぶ。狂っているユウタにあるのは、ひどく真っ当な高揚感だった。階段の下にある大扉を開けると、部屋の中は真っ黒だった。だが、百を超える何かが蠢く気配がした。


 プラテスが満を持して、ユウタに先を促す。

「入ってくれ。この中に同志はいる」


 常人なら逃げ出すところだが、ユウタはプラテスの言葉に従った。逃げようと思わなかった。この何かが蠢く暗闇の部屋の中には何か素晴らしいものが待っている。


 ユウタは暗闇の中、期待を胸に十mほど進む。

 パチン、と音がして、部屋の中に魔法の明かりが点いた。部屋は幅二十mほどの部屋だった。


 二十mほど進んだところで、鉄格子があった。鉄格子の向こうには、大量の腐った人間のゾンビがいた。

ユウタの中で何かが閃いた。『ポイズン・ゾンビ』だ。毒で人間を殺して、仲間を増やすモンスターだ。閃くまで『ポイズン・ゾンビ』の単語を知らなかった。だが、閃いたら、能力と危険度がわかった。


 プラテスがどうやって街を改革しようとしているのかも、理解した。プラテスはここで大量に増やした『ポイズン・ゾンビ』を解き放つ。街をゾンビだらけにして、薬物汚染から解放しようとしている。


 プラテスが入口に掛かっていた斧を手に取って、熱狂的に叫ぶ。

「聞け同志たちよ。今ここに街を(うれ)う新たな革命者が来た。この革命者を仲間に入れたいが、どうだ?」


 ここまでのこのこ従いてきた人間をプラテスは殺してポイズン・ゾンビにしている。病院の廊下にあった途中の血の染みも、逃げ切れなかった人間の末路だ。


「わあああああ」と人肉を欲するゾンビたちが声を上げる。


 後悔はなかった。とても残念ではあった。

「プラテスは俺を『ポイズン・ゾンビ』にする気か。それはお断りだ。『ポイズン・ゾンビ』のレベルは三。レベルダウンは悪だ」


 ユウタはプラテスを見て、悲しい気持ちになった。


「残念だよ。せっかく、面白い理想を持った人間と出遭ったと思ったら、殺し合わねばならないなんて。何て神は残酷なんだろう。でも、これは試練だ。僕は試練を潜り抜けねばならない」  


 プラテスの武器は片手斧。プラテスの武器の問題ではない。問題は百を超える『ポイズン・ゾンビ』だった。


 ユウタの心は不思議と冷静だった。死ぬと思っていなかった。ユウタには今この場に神が下りてきて、何か素晴らしいものを与えてくれる予感すらあった。ユウタが半身に構えると、プラテスが目を爛々と光らせて笑う。


「同志ユウタよ。そう構えないでくれ。まだ、入会の儀式が終わっていない」


 プラテスは壁を斧で指し示す。斧が示す先には縦六十㎝、横四十㎝、厚さ八㎝、の古びた革の本があった。


 プラテスが笑顔で、愉快そうな顔で語る。

「あれこそ我らが聖典『マジピム・ロジデン』だ」


 一見すると単なる古い書。だが、ユウタには聖典の意味が理解できた。

「あれは唯の書ではない。何か崇高なる書物だ。人間を導く真理の欠片だ」


 ユウタは『マジピム・ロジデン』の神々しさに息を飲んだ。

「美しい! 何て美しい書なんだ!」


 ユウタの脳髄を電撃が打ち抜いたような衝撃を襲う。ユウタの脳内に情報が流れ込む。


『マジピム・ロジデン』、『狂人』たちをさらなる高見へ導いてくれる魔法の書。『狂人』たちを呼び寄せ、願いを叶える。狂気を伝播させると伝説の書。ただし、正常なる人間には単なるゴミ。


「馬鹿な! あれが単なるゴミだと、どうして、あの素晴らしさを人は理解しないのだ」


 ユウタは『マジピム・ロジデン』にふらふらと近づき、跪いてからキスをした。途端に立っていられないほどのふらつきを覚えた。ユウタは思わず、へたり込んだ。視界が暗くなる。

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