姉とメイキングは最大の関門
お初の方は初めまして、別作品から来た方はお久しぶりです。
VRMMOが書きたいと私の中の何かが暴れてました。
モチベーションによって更新頻度が変わりますのでご了承ください。
用語を後書きにまとめましたので、わからない用語があれば是非。
※他作品に影響されて書いたので、主人公の性格など、所々他作品と似通うかもしれませんのでご注意を。
本編と用語説明で猶予フレーム違ってたことに気付かなかった作者がいるってマジ?
「あっつ⋯⋯」
思わず虚空へ愚痴ってしまうが許して欲しい。
なんせ今日は今年の最高気温を更新しているのだ。
それにしてもなぜ俺は夏のこんなに陽が照っているような日に外へ出てしまったのだろうか。
いくら暇になったからといって、何もこんな日に新しいゲームを買いに行かなくてもいいだろう。と出かける準備をしていた数時間前の俺に説教してやりたい。
自分で言うのもなんだが、俺はゲーマーだ。
勿論学校をサボって遊ぶ程ではないが、それでも常人よりはゲームをしていると自負している。
そして今は学生大好き夏休み。もう31日だけどな。
当然の如く俺は手持ちのゲームに勤しんでいた。
しかしだ、ボリュームがあり長く遊べていたゲームをつい先程クリアしてしまった。
手持ち無沙汰になった俺は、大きな達成感と少々の喪失感に浸りながら、ネットを開いた。
そこで見つけたのが、今流行りのVRMMOゲーム。
既に発売から半年も経っているというのに、未だに新規ユーザーは途絶えない程の人気っぷりだという。
これは買うしかないと家を出たのが運の尽き。
流石の人気で売り切ればかり、この炎天下の中4件も店を回ることになってしまった。
しかも危ないことに、最後の店舗に売られていたのは残り1本。
おまけに俺と同時にソフトを掴む奴までいた始末だ。
相手とお互いの顔を見た瞬間何故か「ひっ」と呟いて中年男が逃げていったのだが、一体なんだったのだろうか?
俺は別にそこまで強面じゃないと思うのだが⋯⋯。
ちょっと傷ついただろうが。
◇◆◇
───フルダイブ型VR。
その技術が世に普及したのはいつだっただろうか。
数年前、ゲームといえば平面。その常識が日本はおろか、世界でも当たり前の認識だった頃。
突如誰も聞いたことのない無名の会社が、フルダイブ型VR技術という特大爆弾を抱えて台頭してきたのだ。
当然無名の会社だけあって、最初は批判的な声が大きかった。
マスコミはやれ安全性だの、知能発達の妨げになるだのと騒ぎ立てた。
しかしそんな声も、ひと月経つ頃にはほとんど消えていた。
会社が製造法以外のほぼ全てを公開したのだ。
結果的に安全性に問題はなく、懸念されていた事項の全ては杞憂に終わった。
加えて、技術を公開したことにより様々な分野でVR技術が使われるようになった。
医療や学校、会議などにも使われていき、その最たるものがゲームだ。
公開された技術を元に、有名なゲーム会社が次々とソフトを開発、発売していった。
技術は独占されず平等に公開されたため、その後小さな企業でもソフトを開発出来るようになり、時はVR黎明期へと移り変わっていった。
いつしかビデオゲームや携帯型ゲーム機などはレトロゲームと呼ばれるようになった。
そんな折、またしても世間に1つの爆弾が落とされた。
その内容は、VRゲーム初のMMORPGというものだった。
それまでも様々な会社が苦心し、漸くオンラインでは1対1の対戦格闘ゲームが実現したというのに、いくつもの段階を飛ばしていきなりVRMMORPGである。
大量の人間のデータを1つの仮想現実に収めるというのは、普通に考えて不可能であった。
それを成し遂げたのはまたしても同会社であり、最早同業者も苦笑するほかなかったようだ。
◇◆◇
漸く家に着いた⋯⋯。冷房の効いた家が心地いい。
今の俺ならなんでも出来そ「アイス買ってきて」うだ⋯⋯。
⋯⋯何か今不協和音が聞こえた気がしたけど気のせ「早くして」はい。
姉には勝てなかったよ⋯⋯。
おっと、お姉様の要望に応えねば。早くしないと追加注文されてしまう。
さて、漸くゲームで遊べるぞ。
え? 俺の分のアイス?
はっはっは、買ってきたんだが気付いたら何故かなくなっていたよ。
あれ? 余りの暑さに目から汗が。
とまあそんな事はどうでもいい。
肝心のゲームだが⋯⋯、流石の俺でもVRでMMORPGは初めてだ。
まあこのソフトが世界で初のVRMMORPGなのだから当たり前なのだが。
タイトルは『World of Freedom』、通称『WoF』だ。
名前の通り、自由度が恐ろしく高いことで知られている。
メイキングからスキル、世界そのものに至るまで自由自在だ。
というかぶっちゃけ現代の技術じゃ不可能だと思うんだけど。
開発元は3世紀くらい先から来たわけじゃないよね?
プレイするこの筐体も最早一家に一台と言われるほど普及している。
たかが数万でフルダイブ型VRを体験出来るのだからそれもそうだろう。
俺の家にも俺用と姉用で2台ある。
姉が何のゲームをやっているのかは知らないが、どうせイケメンとイチャコラするゲームだろう。
そんなんだからいつまで経っても彼氏が出来な──ヒッ!
何かとてつもない寒気が⋯⋯。
俺は行き遅れた何かから逃げるようにしてゲームを起動した。
◇◆◇
数瞬の内に意識を取り戻すと、白い空間にタッチパネルという、ゲームスタートお馴染みの場所に立っていた。
もうこの空間にも慣れたものだ。
目の前のパネルを触り、馴れた手つきでIDとパスワードを打ち込みログインする。
このオンラインアカウントは全ゲーム共通なので、複数のタイトルを遊んでいれば嫌でも打ち馴れる。
なおVRはID登録と共に身体の登録もされるため、アカウントを複数作ることなどは出来ない。
次のステップへ進むとキャラメイキングへと移り変わる。
2メートルほど先に俺の姿がホログラムで映しだされた。
キャラメイキングの出来るゲームは、大抵どれもこのようなホログラムを第三者視点で見てパーツを弄る。
とりあえず名前はいつも通り本名を文字ったクイナでいいだろう。
どうやらこのゲームは身長と性別以外は、かなり細かくメイキングが出来るようだ。
性別は兎も角として、身長は現実と±10cmまでとなっている。
どうも差を大きくし過ぎると、現実世界と仮想世界での乖離に違和感を憶えてしまうらしい。
まあ俺は特に身長にコンプレックスがある訳でも無いので、体型などはそのままでいいだろう。
さて、本格的なキャラメイキングに入るわけだが⋯⋯。
ぶっちゃけ色を変えるだけで構わないだろう。
リアル割れしたところで誰が一介の高校生に近づくというのだ。
というのは建前で、本音は面倒くさかった。
だってこれ意図的に操作しない限り被ることがないくらい種類が多いんだよ!
結局俺は髪の色を少しだけ赤っぽく、目の色を青くしただけでメイキングを終えた。
次は職業決めやステータス振りのようだ。
これもなかなか種類が多い。
上からスクロールしていくが、なかなか下まで辿り着かない。
というか商人や鍛冶師まで職業に入っているのか。
ロールプレイしたい人はゲームを始めるだけで数時間は持っていかれそうだな。
だいぶ下まできた時、気になる職業が目に入った。
なになに⋯⋯『殺人鬼』!?
なぜそんなものを職業にしているのかわからないが、詳細を見てみるとなかなかに面白い職業だった。
STRとDEXに補正がかかる代わりに、大半のNPCから忌み嫌われるというものだった。
というのも、このWoFに住むNPCのAIは如何な技術を使っているのか、実際の人間と遜色ないのだ。
故に好感度は勿論、戦闘能力も有しているし、何よりリスポーンしない。
そんなゲームの大部分を担うNPCのほぼ全てから忌避されるのだ。
なかなかにハードな職業だと言える。
こんな職業を選択するマゾなどいるのだろうか?
見てみたいものだ。
漸く決めたぞ。
まさか職業選びだけで1時間弱もかかるとは⋯⋯。
後はステータス振りだけだな。
初期で割り振れるステータスポイントは100で固定のようだ。
ふむ⋯⋯。
STRに80とAGIに20だな!
まあ待て、極端過ぎだと言いたいのだろう?
確かにVITに振らないのは不味いだろう。
しかしだ、このゲームにはジャストガードやジャストパリィという素晴らしいシステムがあるのだ。
読んで字のごとく、完璧にタイミングを合わせてガードやパリィをすると、完全にノーダメージで抑えられるのだ。
尤も、ノーダメージという破格の性能だけに、そのタイミングは6フレーム──0.1秒──という極小時間らしい。
まあ大丈夫だろう。
慣れればできるできる。多分。きっと。めいびー。
そんなことよりもう初期設定は終わりかな? 終わりだね。
ゲーム開始っと。
◇◆◇
さて、遂にWoFの世界へと降り立ったわけだが、どうやらスタート地点は今いる街で固定らしい。
何故かって?
周りに同じ服をきた人が大量にいるからだ。
明らかに手抜きな布の服だ。
そう、まるで青いプルプルしたヤツがトレードマークの某国民的RPGのような⋯⋯。
いや枝と小学生の小遣いを渡されて冒険するよりはマシか。
にしてもこれ下手したら酔いそうだな。
人波に酔う人はご愁傷様だ。
とりあえずこの集団から離れないと、落ち着くものも落ち着かないな。
見渡せば少し進んだ先に細い道がある。そこまで退避するとしよう。
群衆舐めてました⋯⋯。
前へ進もうとすると後ろへ流されたり、横へ移動しようとすると前へ行ったりと密集度合いが酷かった。
まあ何にせよ落ち着ける場所まで来たんだ。
色々と試してみようじゃないか。
確かメニューの開き方は音声認識だったか。
「メニュー」
突如として目の前に現れた半透明なパネルがメニュー画面だろう。
メニューには昔のRPGと変わらず、持ち物やステータス、装備、オプションなどの基本的なことが載っていた。
一応確認としてステータスを開く。
─────────────────
クイナ 男 殺人鬼 Lv.0
HP :100/100
MP :20/20
STM:100/100
STR:90(+27)
VIT:10
AGI:30
INT:10
DEX:10(+3)
LUC:5
スキル:
称号 :
残りステータスポイント:0
─────────────────
まぁ待て、言いたいことはわかる。
俺も最初は殺人鬼なんか選ぶ気はなかったんだ。
だがな? STRの補正が一番高いのが殺人鬼だったんだよ。
力こそパワー(?)なのだ。
そこ脳筋とか言わない。
他にピンとくるものも無かったし、これでいいかなって⋯⋯。
ほら、たまにはサイコチックなプレイも楽しそうだし。
反省も後悔もしてないぞ。
しかしこの値を見る限り、どちらにも元の30%補正がかかってるっぽいな。
流石デメリットが大きいだけに、補正値も大きいな。
おっと、考え込んでいる内に結構奥まで来てしまったが⋯⋯明らかに怯えているよなぁ。
目の前にいる浮浪者らしきNPCがこちらを見ながら後退っているのだ。
一縷の望みにかけて後ろを振り向くが、誰もいない。
やはり俺に怯えているのか⋯⋯。
殺人鬼の補正なのだろうが、これは思っていたより厳しいやもしれない。
ちょっとしたゲーム用語の解説みたいなもの。
飛ばしてもモーマンタイよ。
・VRMMO⋯⋯ヴァーチャルリアリティなゲーム。MMOはMassively Multiplayer Onlineの略。つまりヴァーチャルな大規模オンラインゲーム。
・RPG⋯⋯Role Playing Gameの略称。主人公を操作して物語を進めていく体感型ゲーム。
・フルダイブ型VR⋯⋯自分の体から意識だけを切り離し、仮想世界で自身の体の代わりにキャラクターを動かす最新技術。夢みたいなもの。詳細は不明。
・仮想世界⋯⋯自身の精神だけが入り込んだもう1つの世界。それただの妄想では?
・キャラメイキング⋯⋯自分の操作するキャラクターの設定を弄ること。
・ステータス⋯⋯ゲーム内での自身の能力値。
・職業⋯⋯自身の役割。このゲームでは職業によってステータスに補正がかかったり、手に入るスキルが変わる。スキルは後述。
・ロールプレイ⋯⋯自分の作った、もしくは既存のキャラクターの雰囲気になりきってゲームをプレイすること。
・NPC⋯⋯Non Player Characterの略称。つまり人の操作していない、電子世界で作られた存在。WoFでは完全自律思考型AIが採用されている。
・ガード⋯⋯相手の攻撃から身を守る技術。衝撃などでダメージが貫通してくることもある。
・パリィ⋯⋯装備で敵の攻撃を弾く技術。衝撃などでダメージが貫通してくることもある。
・ジャストガード/パリィ⋯⋯敵の攻撃が当たる瞬間のタイミングに合わせてガード/パリィをすると発動するシステム。ダメージを完全に無効化し、確率で怯ませる。受け付け猶予が6フレームしかないため、相当な技術が必要。
・フレーム⋯⋯時間の単位。1秒=60フレーム。0.1秒=6フレーム。
・メニュー画面⋯⋯ほぼ全てのゲームにあると言っても過言ではない。ゲームでの様々な要素を選択する為の画面。
・Lv.⋯⋯Levelの略称。キャラクターの根幹に関わる基礎的かつ重要なポイント。
・HP⋯⋯Hit Pointの略称。攻撃などをされると減少する。これが0になると死亡する。
・MP⋯⋯Magic Pointの略称。他にも様々な名称があるが、当世界ではこれで統一されている。主にスキルや魔法を発動する時に減少する。
・STM……Staminaの略称。走る、跳ぶ、泳ぐ、戦う、激しい動きをするなど、日常生活ではまずすることがないであろう行動全般はSTMを消費する。これが0になると一定時間行動不能になる。
・STR⋯⋯Strengthの略称。攻撃力。
・VIT⋯⋯Vitalityの略称。耐久力(防御力)。HPの上限値もここが関わる。
・AGI⋯⋯Agilityの略称。素早さ。
・INT⋯⋯Intelligenceの略称。賢さ(魔力)。MPの上限値もここが関わる。
・DEX⋯⋯Dexterityの略称。器用さ(会心率)。
・LUC⋯⋯Luckの略称。運勢。主にドロップ率や成功判定スキルなど、運が絡む要素がここ。会心率もちょっと関わる。
・クリティカル(会心)……攻撃した際の位置や角度、強さが一定以上の評価を獲得すると自動で発動するマスクデータ。ダメージに1.5倍〜の補正が乗り、確率で怯ませる。DEXを上げると評価基準が下がり、LUCを上げると稀に一定評価に達していない項目が成功判定になる。怯ませる確率も上がる。
・スキル⋯⋯成長すると手に入る、様々な効果がある技術。攻撃や支援、回復出来るものまでと幅広い。STMやMPを消費して発動する。発動したスキルによって参照されるステータスは変わる。何をどうすれば発動出来るのかという内容が直接脳内に刷り込まれるので、特に練習などしていない初心者でもすぐに発動できる。怖くない?
・魔法⋯⋯人智を超えたファンタジーな能力。こちらもスキルと同じく用途の幅は広いが、STMは消費せずMPの消費と決まった呪句の詠唱で発動する。基本的にはINTの数値が参照される。