御主人様、ダイエットでござる。
えッ?
知らないの?
ダイエットアプリっ!
『御主人様、ダイエットでござる。』
有名なのに。
そっか。
オタクじゃないの?
色白で、ぽっちゃり、メガネ・・・
ネルシャツ、リックだったら、完璧なオタクのに。
でも、おススメよ、このアプリ。
一時は全世界100万にのオタクが利用してたの。
でも、最近・・・利用者が・・・減って。
でも、勘違いしないで。
ダイエットの成果は上がってるわ。
でもね、ちょっとカッコよくなると、
オタクを卒業しちゃって。
料理もできるようになるし。
うん、そうなの。
ダイエットメニューを自分で作るの。
大丈夫、料理したこと無くても。
動画のメイドさんが教えてくれるの。
大丈夫、大丈夫。
遅くても。
『愛』ちゃんは待ってくれる。
『愛』ちゃん?
ベタだけど、AI、人工知能の『あい』。
ちゃんとカメラで見て、あなたのペースに合わせてくれるよ。
凄いでしょう。
・・・お買い求めありがとうございます。
ぽっちゃり男はパソコンのアプリを起動した。
スマホでもできるが、モニタが大きい方がベター。
彼は、アプリ備え付けの手袋のようなモノを左手に付け、
『愛』が言う通り、料理を始めた。
3時間後、食事を終えた彼は満足げだった。
初めて作ったポテトサラダも美味しかった。
彼はさっそく、SNSに投稿した。
こうして、『愛』ちゃんと虜がまた増えていった。
「緊急企画、『御主人様、ダイエットでござる。』に切り込む」、
ワイドショー番組で取り上げられた。
オタク世界に広がっているこの現象を解説しようと言うのだ。
コメンテーターの大御所俳優は胡散臭さそうな目をした。
まあ、これはしょうがない。
番組プロデューサーの要望、
彼の演技力を持ってすれば簡単のこと。
「まず、これはいいですね。
いきなり血糖値を上げない」
医学博士が頷いた。
『あ~んして。
つまみ食いしちゃお。
トマトをどうぞ』
モニタの中の美少女キャラクター『愛』はトマトを箸でつかみ、差し出す。
それをぽっちゃり男が口に差し出す。
『今度は、茹でたてのポテト』
ぽっちゃり男は、モニタを見ながら、
モグモグモグモグモグ・・・。
「これは彼の左手に付けられた装置と連動しています。
ヴァーチャルリアリティの技術です」
今度はIT技術者が解説した。
『まず、ジャガイモの皮を剥いて』
『愛』が囁きかける。
男はどうすればいいか分からず、躊躇していると・・・
『こうするの』
モニターの中で『愛』がピーラーで皮むきの見本を見せる。
「これはパソコンのカメラで、彼の様子を取り込み、
人工知能が、彼が行き詰まっていることを認識し、
見本を見せたのです。
そして、私も驚いたのですが、
ピーラーを使って見本を見せました。
彼のキッチンにピーラーがあることまで把握していたのです。
つまり、これは、彼の料理の実力、持っている道具、用意した材料を
すべて把握して、彼に料理を作らせるのです」
ぽっちゃり男は約1時間半かけて、料理を完成させた。
合間でつまみ食いをしながら。
『あ~して』
モニタの『愛』が一つ、一つ料理をつまみ、食べさせてくれる。
本当は彼自身が箸でつまんでいるのだが。
『モグモグして』
『ダメっ』
『まだ、飲み込んじゃ』
『モグモグモグモグモグ・・・
30回ね』
「素晴らしいですね。
よく噛むことで、満足感が得られます。
また、食事がゆっくりになり、血糖値の急激な上昇も抑えられます」
医学博士は何度も頷く。
『凄いわね。
そんなことがあったの。
この前の失敗を取り返したのね!』
食事中、『愛』とぽっちゃり男が会話する。
「驚くべきAIですね。
『愛』ちゃんは。
以前の会話も記憶しています。
人物の性格に合わせて、会話できるようです」
IT技術者は驚いた顔をする。
「食事に時間をかけることが見事に工夫されています。
30回噛むこと、それに左手で食事すること。
ですから、血糖値の急激の上昇が抑えられ、
食事量も少なくて満足感が得られるので、
摂取カロリーも少なくて済みます。
それに食事中の会話も良いですね。
ストレスによって過食ぎみになったりします。
『愛』ちゃんとの会話でストレスを和らげられます。
あと、利き手の反対の左手を使うことで、脳が活性化するかもしれません。
これは、定かではありませんが」
医学博士はそう締めくくった。
『御主人様、ダイエットでござる。』
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