プロローグ
誰かに恋することは、幸せなことだろうか。
誰かを愛することは、幸福足り得るだろうか。
これらの問に対して、簡単に肯定できる者もいるだろう。
何の迷いもなく。
何の躊躇もなく。
「はい」と答えられる人間もいるだろう。
誰からも愛され。
誰でも愛し。
失恋などしたことの無い。
そんな幸せな人間もいるだろう。
だが、そんな“幸せな奴”ばかりでは無いはずだ。
恋愛で不幸になった奴等はいる筈だ。
――彼女に振られた。
――彼氏に浮気された。
――好きな人が引っ越した。
――好きな人に好きな人がいた。
そんな経験をしたことのある奴はいる筈だ。
そんな―不幸な経験をした“不幸な奴”がいる筈だ。
―もちろん。
恋愛の形。
人の恋愛観。
それらは十人十色、様々だ。
恋愛など些末なことと考える人には、どんな不幸な恋愛も不幸足り得ない。
恋愛に対して前向きな見方しかしない人には、破局であろうと死別であろうと不幸にはならない。
更に言えば、幸せと不幸せの価値観も人それぞれだ。
だから、決して一概に、私的な目線で“不幸”を決定できない。
――しかし、それでも一つだけ言えることがある。
叶わない恋は「悲恋」である。
無論、悲恋とは「悲しい結末の恋」である。
故に、単に振られた。
浮気された。
会えなくなった。
そんなものは「悲恋」とは言えないのかもしれない。
――しかし。
どれだけ本人が気にしていなくとも。
どれだけ当人が前向きに捉えていようと。
それらの「恋愛」は――
叶わなかった恋であり、報われなかった愛なのだ
故に、これから小話をするにあたり。
叶わぬ恋や報われぬ恋のことを――
便宜上、「悲恋」と扱わせてもらおうと思う。
つまり、これは――
恋に夢見る少年少女達の、「悲恋」の物語集だ。