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やっと行けたと思ったら、今度は格闘漫画かよ! しかもモブって!


 あれから一ヶ月は経っただろうか。一典は、その事は、既に夢だったと考えていた。


 今日は、ゲームの新作の発売日。小遣いのほとんどをそういう事に費やしている一典。買ってきた、新作のゲームを始めようとして、また起きた。


 夢だったはずのあの、黒い何か。それに、吸い込まれてしまった、一典。


 その中で、またもや、どれぐらい経ったのか。一典は考えていた。


(前のアレは……何かの間違えだったのだ。……だから、すぐに終わった。……では今度は、うむ……今度こそ、本来の俺の世界に行くのだ)

 

真っ暗な中、そんな事を考えていた一典。そして思い出す。


(……む! そう言えば……前は突然、池に落とされた。こ、今回は、違うはずだ!)


 しばらく待つ一典。そしてようやく出口に放り出される。


(水か!?)


 -ドスン-

 どうやら今回は、水の中ではない。


「ぐふぅ!」


(いてえ! ……水…………ではないか)


 周りを見渡す。通路か。なにやら歓声が聞こえている。

 周りの状況を確認しようとした一典の背中を、強い力で平手打ちされる。


 -パッチーン!-


「いっでえええ!」

「ようし! 気合は入ったようだな!」

「先輩! うちの門下の力を見せてやって下さい!!」


 見るとそこには、丸坊主の、爺さん。そして、同じく丸坊主の青年。二人とも、胴着に、袴を着ている。


「……え?」

「さあ! もう出番だ!」

「先輩! 先輩ならあんな相手一捻りですよ!!」


 状況を確認する。何故か、自分は上は服を着ていない。


(短パン? ……俺は……制服を着ていたはずだが……?)


そして、聞こえる。誰かが、マイクで話している。


『おーーっと! これで試合終了か!? あーっと! 審判が下ったーー!』


 ギャーギャー、キャーキャー、煩い歓声が聞こえる。


「いよいよ……だな」

「先輩! 楽勝ですよ!!」


 よく分からない状況。一典は、ファンタジーの世界に来たと思っていたのに、意外に現実的である。

 そして、前の通路から、ぼろぼろの格闘選手か誰かが、担架で運ばれてきている。


「い、いかん! 肋骨が折れて肺に刺さっている! すぐに手術だ!!」


 付き添っていた誰かが言う。その後にすぐ聞こえる。


『次の試合! 東より来るは! 赤いドラコンの異名を持つ! あの男だーーー!!』


 そして、歓声が聞こえている。更に聞こえる。


『そして! 西より来るは! あの男! 樽金一典!』


「よし! 行くぞ!」

「先輩! 楽勝です!!」

「む! え! ちょ! ま!」


 一典は無理やり通路を押し出されていく。通路を出された先に見えた物。いや、会場。


(こ、これは……知っているぞ! あの漫画だ! あの格闘――)


 と思った先には、ムッキムキのあからさまに強そうな男。一典を睨んでいる。


<キャー! いってんーーーー!>

<やっちまえーーーー! いってんーーー!>


 歓声が聞こえる。しかも一典の名前で。


(ちょ! 待て!! それなら俺は――)


 そして自分の体を見る。いつもの自分。鍛えているわけではない、どちらかと言えばひょろひょろの体。で、相手を見る。

 むっきむき。尋常じゃ無い筋肉。顔つきも半端なく恐ろしい。睨まれている。


(い、いや! 待て! あの漫画なら知っている! が、待て! こんなキャラが居たか!?)


 いつの間にか来ていた、審判なのかレフェリーなのか。その男がルールを説明し終えていた。


「――ルールは以上、始めて下さい」

「ちょ! ま! え!?」


 その男はすぐに観客席に戻っていった。そのまま解説者か誰かが言う。


『さー! 開始の合図がなるぞ! 東の赤いドラゴンか! はたまた、西の黄金の男か!!』


(お、黄金の男!? そ、それは昔、馬鹿にされた俺のあだ名――)


 -ゴーン!-


 それが合図だったのか、相手がにじり寄って来ていた。


「キサマは強い! 認めよう! だが、いいのか? この俺を相手に、そのような無防備で!」


(お、俺が強い……だと!? ……い、いや、そうだ。こんな所に突然呼び出されたのだ……俺は! きっと強くなっている!)


 そして、その気になった一典が言う。


「お前ごとき……これで十分! ………………のはず」


「ほう、さすがは一典! この俺が認めた男よ……だが! 悲しいかな! 前の試合! 俺は全力を見せていない!」


 自分は強くなっている。こんな世界に突然呼ばれたのだから。


(――だが、前の試合とは何の事だ? で、お前ダレダヨ?)


 そんな事を考えている一典。そもそも、言ったはいいが、どうしたらいいのかさっぱり分からない。


 この一典、実は結構、喧嘩が強い。が、それは小学生の時の事。中学以降、喧嘩をしていない。そして、格闘技や武術などやっていない。


「ふ……お前からは来ぬか! ならば!!」


 と言って、相手が消えた。と言うか、気がついたら一典は倒れていた。


『おおおおっと! 滅の恐ろしい攻撃が! 早くも一典に直撃したーーー!』


「ぶ…………ぼ…………」


(いってえええええええええ! 何されたんだよ! 見えねえよ! いてえよ! 俺強くなったんじゃないのかよ!?)


「ほう……わざと受けたか……」


 とかなんとか、言われつつも、訳の分からない一典。


「いってーーーん! 立ち上げれ! まだそんなもんじゃないはずだ!!」

「そうです! 先輩! わざと受けたんですよね!!」


(……ああ……あれって、俺の師匠と、後輩……って事なのかよ……)


<もう終わりかよーーー!?>

<いってーーん! 早く立ち上がってくれよーーー!!>


(くそ! 勝手な事ばかり言いやがって…………めっちゃ痛いぞ……これ……)


 つい、自分は今、ここの主人公なのだ、と言う考えと、本来の俺は強くなっているはず、という考えから、ヨロヨロと一典は立ち上がっていた。

 はっきり言って、普通なら無理だ。だが、一典は、ちょっと打たれ強い。確かに、ちょっぴり、喧嘩も強い。しかし、それは、普通の感覚の事である。


「ふ……様子見……という事か」


 そんな一典に対して、ムッキムキの相手が言う。フラフラしながら思い出す一典。


(た、確か……そんなキャラがいたような…………だが…………かなりのモブキャラ…………強そうに見せかけておいて…………主人公の…………そいつに…………あっさり……やられる……………………かませ犬)


「俺は……お前を倒し! この先の相手と戦う! ……そして勝つ!」


「ぶ……ぼ……ぞ……れ……」


 フラフラの一典。なんで立ち上がった。

 お前には、そんな力は無いから……

 そんな一典が思う事。


(……お前……多分……次……あっさり……負けるぞ……?)


「フン! 破!!」

「ブッボーーーーー!」


『ああああっと! これは……決まったか!? 決まったーーーー! 審判が駆け寄っていく! 西の黄金が! ここで遂に敗れる! 東の赤いドラゴンの勝利だーーーー!!』


「いってーーーん!」

「せんぱーーーい!」

「ぼっへーーーーー……」


(い、いてえよ! めっちゃいてええ! なんだよこれ!)


「残念だ、一典……いつの間にか……この俺が……お前の上を行っていたようだ」


(いてええええ! ……でも! ……おまえ! 次に! あっさりやられるからっ! いてええよ!!)


 そんな一典に、師匠らしき人の声が飛ぶ。


「何をやっとる! あやつが強いのは先刻承知のはず! 何故! あの奥義を使わなんだ!?」


 そして後輩らしき人物。


「っく……! せ、先輩の敵は……このボクが……い、いつか!」

「……ぶ…………い…………て………………も……お……わ……」


 そんな事を言われつつも、担架に乗せられる一典。


「こりゃー、いかん! すぐに手術が必要だ!」


 医師らしきじいさんに言われる。


「…………しゅ……じゅ…………?」


 一典は考える。


(……も、もう……俺の……出番……終わったろうが……もう……帰らせろ…………)


 恐ろしい程の痛みが、一典を襲っている。


(……ま、まえ……すぐに……終わった……な、なげえよ…………いてえ…………)


 息も絶え絶えの一典。哀れ。しかし、残念だが、まだ終わらない。


「先生! 治りますか!? 治せますか!?」

「……うむ……死ぬほどの、苦痛はあるかもしれん…………だが、オペが上手くいけば…………」


(…………もう…………いいから…………戻せ! …………俺を…………)


「よし! オペの準備が出来たか!? すぐに始めるぞ!!」


 そのまま、ドラマか何かで見たような、手術室。担架から、そこに乗せられる、一典。


(…………ま……て…………まさか……今から…………手術?)


「一典……すぐに……戻って来い! また、修行のやり直しだ!」

「先輩……待っています! それまでには……僕も!」


 熱い言葉をかけられるが、そんな事はもうどうでもいい、一典。


(……もう……痛いのは……やめてくれ…………)


「では、手術を始めます」

「麻酔がちと痛いが、まぁ、格闘技者だ。問題なかろう」

「…………………………は?」


 そして、死ぬほど痛い麻酔をかけられ続けた。


(……いてえ……もう…………無……理…………)


 麻酔の痛みか、それとも麻酔が効いたのか。一典の目の前は、真っ暗になった。



☆☆☆



「いってええええええええええええええええええ!」


 気がつくと、そこは、自分の部屋。大声を上げていた。ついでにそのゲームもゲームオーバーしていた。


(………………ここは)


 体を触ってみる。もう、あの痛みは無い。


(………………痛すぎだよ……)


 しばらくそのままの状態だった、一典だが、少し気になり、思い当たっていた、あの漫画を取り出す。


(あれは……あのキャラは――)


 中々、その場面が出てこない。やっと探し当てた所。読めば、そいつ、一ページにも満たないくらいで出番が終わっていた。しかも、その自分であるであろうキャラ。外国人である。


(…………なんで……そこだけ変わった?)


 師匠も外国人、その弟子、そのキャラの後輩も外国人。袴など着用していない。少し読むが、そのキャラが、「くっ、次こそ……」とかなんとか言う台詞で、担架に運ばれて終わっていた。


(……手術のシーン…………無いじゃねえか!)


 またもや、不思議な事が起こった一典。しかし、痛い思いしかない。キャラ的にもただのモブ。それなのに、一典はこう考える。


(……あれは……本来の俺では無い。…………本来なら……あっさりと相手を倒している。……そして、主人公の最強の敵とかになるんだよ……)


 しかし、こうも考える。


(…………だが…………格闘物は…………もういやだ…………)



 本を投げ捨て、一典は、ベッドに寝転がる。痛すぎ。もはやそれしか覚えが無い。


 だが、一典よ。これで、終わると思うなよ。





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