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やっと行けたと思ったら、もう終盤で、サブっておいこら!

 ヒューっと落ちていた。


 いや、落ちているのか、昇っているのか、それとも、止まっているのか。周りが闇の為か、定かではない。


 しかし、よくこうも平静でいられるものだと、自分自身で考える。


(俺は、何処に行くのだ?)


 今日の事を思い出す。


☆☆☆


 トーンっと軽くジャンプする。

 軽くジャンプしただけで、電柱の上まで来る。

 そのまま、電柱、屋根、ビルの壁、と蹴り続け、移動をする。


(あそこだな)


 目的地はもう目の前だ。そこに居る。

 俺の倒すべき敵が。


 既に彼女も居る。俺のパートナー。

 周りから羨ましがられる程の美人。


 あの敵を倒す。彼女と共に。苦戦するかもれない。しかし俺には力がある。

 他の誰も持たないような、特殊な力が。

 そして最後には、その敵を倒し、その後、その子と――


 -バッコーン!!-


 頭を叩かれていた。教科書で。

 上を見ると、パツンが居た。


 ”パツン”

 生徒達が勝手にそう呼んでいる教師。前髪がいつも真っ直ぐカットしている事から、そう呼んでいた。

 パッツン前髪。もう、白髪も多い、中年の男の教師。


「おい、樽金、今の公式の問いは?」

「ん、あ、ぬ……わ、分かりません……」


 周りから、クスクスと笑い声がする。


「目を開けたまま寝とったのか?」

「あ、いや……」


 普段は、授業中ではあまりしないようにしていたが、遂、授業の内容も難しく、つまらなかったので、妄想していた。


 樽金一典。

 これで”たるかね、いってん”と呼ぶんだ。なんでそんな名前にしたのか、されたのか。


 樽金一典は、ごく普通の高校生。いや、平凡な、と言った方がしっくりくる。

 特に秀でた事も無く、学校の成績は、中の下と言った所か。どちらかと言うと、下から数えると早い。

 身体能力に優れているわけでもない。どちらかと言えば、にぶい。

 他の科目もそんなものだ。

 他に何かあるのか? と言われても、特に無い。

 そして部活もやっていない。帰宅部。そんな部活は無いが、分類するならそれだ。


 この、一典の学校生活も、まあ、普通だ。

 普通に、友人は居る。学校の成績はどれも良くは無いが、全然駄目という訳でもない。彼女は居ない。

 バイトをしている訳でもない。家も裕福でも無いが、普通に生活は出来る。両親も健在。


 そんな一典の趣味は、ゲーム、アニメ、漫画、後、映画と小説。

 そう言う物を見る事。やる事。そして、妄想する事。


 一典は、常々思っていた。


 俺は、本来はこうじゃない。実は、秘められた力がある、いや、もしかしたら本当は異世界の住人かもしれないのだ。それを今は忘れているだけなのだ。

 そして、いつも自分が、そんな空想の世界に居る事を考えていた。

 俺は英雄で、超美人のガールフレンドが居て、いや、主人公でなくとも良い。

 人気がある、あの登場人物や、美味しいシーンを取っていくような、美味しい役回り。

 俺の能力はチート過ぎるから、主人公ではつまらんだろう。


 まあ、こんな事をよく考えている男だ。


 しかし、そんな平凡で、妄想癖のある、この一典に、神の奇跡か、それとも嫌がらせか、実際に起こった。


 一典がいつものように、帰宅し、ゲームをし、飯を食べ、そして、ベッドで、漫画を読んでいた時にそれが起こった。


 突然、一典を中心に、黒い穴が出来た。一典は、それに飲み込まれた。落ちた、と言ってもいい。


 そして、今その中に飲み込まれ、どれぐらい経ったのか。一典は考えていた。


(ここから、本当の俺の世界に行くのだな。本当の俺がようやく戻る時が来たようだ…………しかし、まだなのか? 長すぎやしないか?)


 普通なら、慌てふためき、人が人なら、泣き叫んでいる事だろう。真っ暗な中。何も無い。地面も無い。出口があるのか、そもそも、存在するのか。

 そんな中に突然、訳も分からず、自分が居る。

 どうしたらいいのか、どうも出来ないのか、一体何故、どうして自分が。そんな状況のはずだ。


 だが、こういう点が、この一典は違った。

 常日頃から、自分の本来の状態はこうでは無い、本来なら異世界の住人かもしれない、そんな事を考えていた男なのだ。


 だが、それと同時に、ある程度、現実を理解している男でもある。今は今、現実は現実、空想は空想、普段は、別々に考えている。


 今は、残念だが、これが俺なのだろう、実際は違うがな。


 そういう思考回路。その為か、その現状を、冷静に考えていた。冷静に、自分の本来の世界へ戻るのだと……


(遅いな……普通ならもう、出口とかの場面じゃないのか?)


 いい加減、その状況に飽きてきていた。


(ん? 待てよ? 明日は確かあのゲームの発売日だった。今戻ったら、もうそれは出来なくな――)


 と、別の事を考え始めた瞬間、一典は落ちた。



 -バッシャーーーーン!!-



「――むも、モガッ、ブ」


気がつけば水の中。


「ブボッ! ング!」


(こ、これは、水!? お、おぼれる! う、上!!!)


 ようやく水の中だと気付き、水面を確かめる。うっすら、水面が見える。一典はようやく、それを確認し、水面へ上がる。

 残念だが、この一典、普通に泳げる。


「ブッ! ハッ! ゴフッ! ブホッ!」


少し水を飲んでしまっていた。少し咳き込んでから、周りを見る。


(池……か? ……くそ、少し飲んでしまった……)


 水面から、周りを確認する。すぐに近くに地面がある所を発見する。一典は、そこに泳いでたどり着いた。


「はあ、はあ……ゴホッ!」


 まだ咳き込みながらも、周りを確認する。


(……森? ……林?)


 そして、空を見る。見慣れた夜空だった。残念だが、月が二つ有ったりしない。


(くそ、なんで水……いや……まぁいいか。ならこれから、イベントが始まるのか?)


 現状、ゲームか何かの思考の一典。しかし、周りをよく確認していくと、見慣れた物を発見する。


(あれは……電灯……ゴミ箱? ……っく! 自販機までありやがる……!)


 そこは、普通の公園。ちょっと大きな。しかも来た事がある、知っている所だった。

 だが、こんな事が突然起きたのだ。何か、違う事になるはずだ、と一典は考える。しかし、待てども待てども、何も起きない、起こらない。


(くそ……冷えてきた……ここからだと……家までは15分くらいか……)


 10月中旬。夜は肌寒い。濡れていては、そりゃ冷える。


(く、くそ……イベント……)


 そんな事を考えていた一典の元に、灯りが見えた。よく見る、あれは、自転車の光だろう。そして、その自転車に乗った人が、一典に気付きやって来る。


「君、何をやってるんだ? 制服のままで……」


 おまわりさんだった。


「い、いや、イベント……いや、そこの池に……」

「もう10月だぞ? と言うか、そこは遊泳禁止だ。君、どこの学校だ? 年は? 名前は?」


 そんな有り触れた事を聞かれながら、一典は考える。


(……どういうことだ? なんで、普通に警察に尋問されている? ……普通なら……イベントだろ? 誰か、可愛い女の子が登場してもいいだろうが)


「おい、君、聞いているのか?」

「……あ…………え?」

「学生証を持っているか、と聞いたんだ」


 服は、学校から帰ったまま、制服のままだった。


(確か、持っていたはず………………あれ? 無いぞ?)


「持ってないのか? まあいい、とりあえず、来なさい。そのままだと風邪引くぞ」


 そのまま、一典は交番に連れて行かれ始める。そして、その寒さと、その状況で、ようやく現実的な考えを始める。


(……寒い……いや……これから交番? じゃあ、これから、親とか学校にも連絡されてしまうのか?)


 そこで、時が止まった。全ての時が止まった。一典を残して。

 自転車を押し、横を歩いていた警察も、吹いていた風も、見えていた車も、静止画のように止まった。

さすがの一典も、これには少し驚く。


(……な? ん? だ……? ……あれ? 何故、止まってる?)


 その瞬間に、上から何かが落ちてきた。


 -ドスン-


 静寂の中に、その音だけが聞こえた。そして、そのまま言われる。


「おい、一典! 何やってた! もう向かわんと間に合わなくなるぞ!?」


 ごついおっさんだった。筋肉もりもり。


「……え……?」

「え? じゃない! もうカリヤ達は行っている! 俺たちも早く行くんだよ!」


 よく見ると、そのおじさんの着ている服が、普通の服ではない。いや、この一典から見ると、普通かもしれない。

 そう、よく見る、ファンタジーの人物が着ているような。その上、左手に武器らしき大きな物を持っている。


(よ、ようやくイベント! が、なんでこんなおっさんなんだよ!)


 その人を見た事がない。


(いや、どうだったか? どこか見た事はあるような……)


「いくぞ! おい!」


 そのごっついおっさんを見ていた一典腕を、おっさんが鷲掴みして、ドーンと跳躍する。


「いた! いててててて! いてーーーー!」


 怪力で鷲掴みされた挙句、空中にいきなり飛ばれてしまったので、重力に引かれた一典の体が悲鳴を上げていた。


「何やってる! 早くお前も魔重力場を出せよ! もう時も止められん!!」


 そうは言われるが、この一典、何の事か分からない。そのおっさんは、どうやら、かなり上空まで飛んだようだった。そのまま遠くを見てから言う。


「い、いかん! もう出ていやがる! 仕方ねえ!!」


 そう言って、そのおっさんは何やら左手の武器みたいな大きな物を振った。


「おりゃあああああああ!!!」

「ぶっぽぉぉぉーーーーーーーー!!!」


 そして、恐ろしい速度で、空中を進み始めた。一典は完全に振り回されている上に、右手で掴まれている、自分の腕がちぎれそうだと感じる。

 そんな状態のまま、一典は気がついた。


(い、いてええ! ぐ! そ、そういえば! なんかそういう名前のある漫画があった――)


 -ピタッ-

 空中で突然おじさんが止まる。一典は、その遠心力で、飛び続けそうになったが、おじさんはが、怪力で、一典の腕をそのまま握っていたので、それで止まった。というか振り回された。


「っく! もう侵食が終わっていやがる!!」


 一典は既にそれだけでフラフラになっていた。空中で、おっさんに強く腕を握られたまま……


「遅い!! もう進化始まったわ! このままじゃ、あそこのカリヤ達が……」


 見ると、そこにも空中を飛んでいる、女性。一典はその女性を見て、がっくりとうな垂れる。

 かなりイケイケな格好をしているが、その女性は、自分の母親と同じか、それ以上の歳か。この一典には、そういう趣味は無い。

 二人とも、下を凝視している。


 見ると、この女性の下に丸い、魔法陣が光って見えている。つまり、飛んでいる訳でなく、そこに立っている。


(なんか、こういうのがあったな……確か…………ん!? あれだ! もうすぐ新刊が出る――)


 一典のよく知っている漫画だった。


(あれは、確か、魔法を使っていた。……確か、敵が黒い魔法で、小さな虫や動物を侵食して、大きな化け物にして、それで主人公達が、白い魔法で対向し、戦う。そんな漫画だったな……)


 おっさんに鷲掴みされたまま、一典は思い出していた。


(……あ、そうだ、あれには確か、こういうムッキムキのおっさんと、イケイケのおばさんが出ていたな……あと……)


 と思い出し始めた、一典の腕を鷲掴みしていた、おじさんの力が更に入る。


「こ、こんな大きさになるとは……!」

「このままでは!」


 下を凝視している、おっさんとおばさん。

 その二人が見ている先を、一典も見る。小さいながらも、見える。

 大きな、何か気色の悪いネチョネチョしたスライムのような黒い何か。その側に、人が居る。

 二人。男性と女性。


(……戦っているのか……?)


 と、その男性が光る。ピカッと光ってから、なにやら変わる。ついでにその女性と手を繋いでいる。


「まさか! ……カリヤ……ここで……こんな……ようやく、覚醒したわ……」

「ああ……すごい力だ……」


 そこで一典は思い出していた。


(ああ、あの漫画、主人公が”カリヤ”だったな。で、ヒロインが……すっげえ可愛いんだよな……けど、あれはめっちゃ、味方も敵も死んでくから、その二人以外の初期の登場人物が途中から居ないんだよな……)


 そんな事を思い出していた一典。だが、次の瞬間握りつぶされるかと思うほどの力で、おっさんに腕を握られる。


「い! いかん! まだ力が安定していないのか!?」

「いえ! 更にあいつが進化しているわ!!」

「いてーっ! いてえ! 痛い!!」


 もはやその痛みで、涙目になりかけている、一典。しかし二人は何も気にしていない、というより、下の出来事に集中している。


「……く……カリヤ…………覚醒したばかりで、これでは……」

「……ええ…………でも……手は、在るわ。」

「…………いいのか、おまえら、それで……」

「…………ええ……でも……一典……残念だわ……」


 何か感傷に浸っている二人。そして一典はようやく気がつき始めた。


(い、いてえ! ……た、確か、あったぞ! こんな場面……で、このおばさんと昔付き合ってたとか言う……なんとかっておっさん…………もう忘れた…………もう一人が、その昔からの親友の、ムッキムキのおっさん…………)


「一典……あなたに……最後に……これを」


 そう言って、そのおばさんが何やら、小さな黒い焦げた木を、一転制服の胸ポケットに入れる。


「ありがとう……私の為に泣いてくれて……」

「一典…………」


 そうは言われるが、そんな記憶はさっぱり無い。そしてそれが何なのかさっぱり覚えていない。

それぐらいのチョイ役の登場人物。そして、一典は、ただ痛くて涙目なだけである。


(で、最後は……ってちょっと待て! いてえ! 俺は! おっさん力、強えええ! そんな年じゃねえ! って握り締めんな! こら! ムキムキ!!)


「……すまない、二人とも!!」


(ムッキムキのおっさんも涙してやがる!)


「ぐ! いっ! ……ま! ……おれ! ちが!!」

「もう、時間が無いわ」

「ああ、俺たちも、長く生きた。次は未来に賭ける番だ!」

「ま! ちょ! いっ! ぞえ!」


(いてえ! いや! まて! それは死亡フラグ――)


「ああ! いくぞ!」

「ええ!」

「いてええええ! まてええええ!!」


 そのまま、三人で急降下した。そのおっさんが、その敵に突っ込みながら、「カリヤ!!いまだ!!」とか言っていた。


 -チュドーーーーーーン-


 で、そのカリヤなる主人公は、涙しつつ、「み、みんあ!!!くっ!うわあああああ!!」とか言いながら、敵倒していた。

 そして、そのヒロイン。


「たるかねさーーーーん! ああ……!」


 最後に、そんな事を言っていた。

 目の前が消えながら、一典は思う。


(……俺は、そんな役ではない…………そもそも……その役のやつは、もっと、おっさんだったろうが。………………なんで………………主人公にならんのだよ………………)


☆☆☆☆☆


 真っ暗になり、はっと気がつく。

 ベッドに横たわっていた。


(……………………最後、めちゃくちゃ痛かったぞ……夢とは言え、なんであんな痛い目に合わなきゃいかん)


 おっさんの力が強かった事、そして最後に、敵に突っ込んで、めちゃくちゃ痛い思いをした事。少しそれを思い出しつつ、一典はベッドを出る。


(夢なら、夢で、もっといい夢を見させてくれよ……)


 そう思いながら、一典は、本棚を見る。ほとんど漫画の大量の本棚。


(確か、この辺りに…………ああ、これだ)


 大量の本棚から、それを探し出す。思い出しつつ、その辺りの場面を見る。やはり、その登場人物は、途中突然出てきて、主人公たちの為に、命を捧げていた。

 その先ほどのムッキムキの人物と、イケイケの女性。そして、あの場には居なかった、割と格好良いおじさん。


(確かに、現実になるとああいう感じにはなるかもしれないが……)


 その場面は、確かにそんな場面だった。確か、読み進めていた先では、もう出番はない。回想で、少し出てくるくらい。あの場面も、回想で、少し出ているだけ。

 そこで、一典はその漫画を閉じて、本棚に仕舞う。


(あれは、本来の自分ではない。だが夢にしても、ひどい役回りだ…………)


 そうして、ふと気がつく。

 制服の胸ポケットには、おばさんから渡された、黒い小さな板が入っている。しかし、後付けなのか、正直、どうでもいい設定のよく分からない板。それを見ながら思う。


(…………あれは……夢だったはず……何故……これがある?)


 あまりの痛みを感じていたはず。しかし、それも夢だったはず。

 それなのに、あのおばさんから渡された、黒い板のような物がある。


(あの登場人物……名前…………忘れた。だが……俺はそんな歳じゃない………………)


 漫画は知っているが、そんなチョイ役の名前まで、覚えていない。いや、その漫画では、ほとんどその主役達の場面で、そいつらの場面などほとんど無い。

 もう一度、怪訝な顔で黒い板を見て、一典は、それをゴミ箱に捨てた。


 そしてもう一度ベッドに横たわり考える。


(あれは夢だった、あれは夢だった。本来の俺の役回りは、あんなもんじゃない。大体……なんで最後の方でそれになるんだ……そのキャラの終盤だろうが……本来の俺は……違うはずだ………………)


 結局、一典は、その黒い板は何かの間違えか、誰かのいたずらだと考え。今回の事は夢だと考え、そして、眠りには入っていった。



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