99 クリスマス2
折り紙で作った輪っかのやつが壁につけられ、単三電池の力によってキラキラと光るツリー、テーブルにはピザやチキンやシャンパンがズラリと。
「クリスマスっすねー!」
「お前元気だな」
朝六時からハイテンションの五月女は午後七時を過ぎても変わらず絶好調。某野球ゲームならスタミナSだと思う。ノゴロー君かな?
「三日尻君グラスを持つっす」
「はいはい」
「それでは聖夜の夜に、かんぱー」
と、ここでインターホンが鳴った。乾杯しかけた二つのグラスは宙で止まる。
「やっほー! 遊びに来たぜぇ」
入ってきたのは垂水だった。サンタの衣装を身に纏って髪の毛は銀色で顔は満足げ。
「おっ、準備良いじゃ~ん。ちょっと待ってな、俺もグラス用意するから」
垂水は勝手に食器棚を漁りだす。バイト終わりでクタクタだぜぇ、と一人喋っている。
「いや何当然のように参加してんの。お前呼んだ覚えねーよ?」
「バッカお前、三日尻の馬鹿野郎この野郎~。この俺がサプライズで来てやったんだよ。ささっ、早く乾杯して騒ごうや」
「垂水君」
五月女が立つ。今までの上機嫌は消えた、冷たく低い声で垂水の名を呼んで、
「今日は帰ってください」
凍えるような一言を放った。グラスを持ったサンタ垂水、固まる。
「え……あ、あの?」
「今日は三日尻君と二人で過ごすと決めたので垂水君はお帰りください」
「あ、ちょ……そ、そんな冷たいこと言わないでよ~。俺も仲間に入れてよーん。ほら差し入れのケーキも」
「帰ってください」
「ひゃ、ひゃい」
五月女の凄まじい剣幕に圧された垂水は涙目で部屋から出ていった。滞在時間は一分にも満たない。
「さっ、乾杯しましょうっす~」
「お、おう」
五月女はケロッと明るい笑顔。
あぁ、垂水は今頃どんな気分なのだろう。たぶんこの日の為に染めた銀髪も大してイジられず追い出されて帰り道はより寒いんだろうな……。
「今日はとことん盛り上がりましょうっす。ではかんぱー」
「メリクリ~! 僕は誰でしょう? そう!」
部屋に突撃してきてテーブルの前で一回転。間をおいて叫ぶのは、
「イエス! 玉木イエス~!」
玉木だ。トナカイの着ぐるみを着て鼻にミニトマトをつけたアホの玉木だ。とんでもなくテンションが高い。
「うほぉチキンの良い匂い~。チキン食べたい! チキン食べたい!」
「玉木君」
「チキン食べたい! チキン食べた」
「玉木君? 黙って、帰って、ください」
「い……へ、へ?」
バタン。扉が閉まって部屋には俺と五月女の二人。玉木よ、安らかに。
「あ、あいつらも寂しいんだよ。あんまし邪険に扱わないでやってくれ」
「そうっすね。違う日はそうしますっす」
五月女は頬を膨らませてグラスを手に持つ。なんか怒ってね? 乾杯の音頭を邪魔されたのがそんなに嫌だったのか?
「えー、ゴホン、邪魔者も追い払ったことですし改めて……かんぱーいっす!」
「「かんぱーい」」
あれ、今声が重なってたような……って、
「ぶはー、シャンパンも美味いなぁおい!」
「金谷先輩!?」
サラッと金谷先輩が部屋の中にいた。いつの間に入ってき、てゆーか飲み干すの早いなおい!
「あ、三日尻お代わりくれ」
「いやいや何を当然のように座っているんですか。謎を散らかさないでください」
「クリスマスだから飲む、以上!」
理由になってねーよ! 煙突もなく入ってくるとかサンタもビックリだわ。
って、ヤバイ五月女が……
「この人、誰っすか……?」
これはマズイっ。今日の五月女は様子が変だ。いつもは最低限優しく接しているアホ二人を突き放したし、またも乾杯を邪魔された。今度こそキレるかもしれん!
「し、紹介が遅れたな。この人は金谷さん。三年生だ」
「どもー、三日尻のアネゴやってまーす」
OLやってまーすみたいな言い方しなくていいから。
「金谷先輩、こっちは五月女です。ほ、ほら挨拶しろよ」
挨拶しろよ、ちゃんとだぞ! お願いだから辛辣な言葉はやめてこの人はこの人でキレるとめんどいから!
「……初めまして。五月女乙葉です」
あれ? 思ったより、というか普通だ。怒りもせず五月女はおずおずと頭を下げる。先輩相手だからなのか、丁重に挨拶している。
「うーい。私は金谷由衣だ。今日は楽しもうな~」
「ちょいちょい? そこはまだ話終わってねーですよ。なんでウチに来ているんですか!」
「冷たいこと言うなよ。帰りが遅い彼氏待つの暇だからさ」
「飲んで待ってなさいよ」
「一人で飲んで楽しいのかテメェ!」
うわぁうるさい、もううるさいっ。シャンパン三杯目だし、飲むの早いっ。
「で、ですが」
「んだよ三日尻ノリ悪いな。あ、もしかしてお前ら付き合っているの?」
「っ」
「付き合ってはないですけど」
「じゃあいいじゃん。三人で楽しく飲もうぜい」
そう言って金谷先輩はビールの瓶を開ける。手際良いなこの人。はぁ、この先輩は全く……仕方ない、付き合ってやるか。
「三日尻君、その……」
「どした五月女」
「……なんでもない、っす」
五月女は正座して顔を俯かせる。その横ではゲラゲラ笑う先輩。……。
この人だから仕方ない、いつもならそうしていた。けど、今日は違う。
「おい三日尻もっと飲めよ~」
「金谷先輩、今日はお引き取りください」
「……んあ?」
朝の六時から準備した。五月女と二人で。あれだけ笑っていた五月女が、楽しみにしていた五月女が、今は黙っている。俺だって、これは違うなと思う。
「今日は五月女と二人で過ごしたいんですよ。申し訳ないですがさっさと帰って一日で飲んでろやカス、です」
「……三日尻君」
「ほほぉ、テメェ三日尻言ってくれるじゃねーかあぁん?」
金谷先輩はグラスをテーブルに叩きつける。ガタンッ、と揺れて俺の体も揺れる、金谷先輩に胸ぐらを掴まれて。
「あ、そ、その……」
ヤバイ、言い過ぎた。ヤバイ、殺される!?
「……まっ、私が悪かったわ」
「へ?」
「乱入して悪かったと言っているんだ。邪魔してごめんな、五月女ちゃん」
「わ、私は……その……」
「気にすんなよ。今日は三日尻を譲ってやる」
金谷先輩はビール瓶を持つとそのまま口へ。ゴッキュゴッキュと喉が鳴る音が響いて……う、嘘だろ。
「ぶへぇー! 美味かった、ご馳走さん!」
信じられん、全部飲みやがった。び、ビール瓶を一気、つーか俺のビールが!?
「邪魔したな。帰るわ」
「あ、ちょ!」
帰ろうとする先輩の後を追うと、玄関先で金谷先輩はこちらを向いてちょっとだけ頬を緩めた。
「三日尻、お前も隅に置けないな。あんな可愛い友達いたのかよ」
「あー、えっと、なんかすいません」
「気にするな。邪魔したのは本当に悪かった、反省してる」
またも信じられない。あの金谷先輩が頭を下げている。マジか、これマジか!
「お詫びと飲み代ってことでこれをあげるから許してくれ」
「?」
手に渡されたのは……薄いアレだった。
「何を渡しているんですか!?」
「これからお楽しみだろー? ちゃんと着けろよ~」
最後にはいつも通り大声で笑って金谷先輩は帰っていった。嵐みてーな時間だったな……。
にしても、あの金谷先輩が大人しく帰るとは。クリスマスの奇跡を見た気がする。奇跡レベルなのかよっ。
「あー、五月女」
「な、なんす?」
「……乾杯しようぜ」
「! う、うんっ」
何度も邪魔されたが今度こそ。電飾がキラキラ光ってキャンドルがユラユラと揺れる部屋で、俺と五月女はグラスを高らかに掲げて、
「「かんぱーい!」」
互いのグラスを軽く合わせた。




