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95 貧困

「三日尻、なんだこれは」


「晩飯だ」


「……鍋に豆腐しか入ってないが?」


「湯豆腐という料理なんだぜっ」


「いやドヤ顔で言われても困る」


 今日の晩飯、湯豆腐のみ。沸沸と煮えたぎる鍋の中にドンと座る真っ白な豆腐。美味しそうだね。


「飯たかりに来た身分だがこれはあまりにお粗末じゃないか……?」


「おそ松だな。豆腐と腐女子、どっちも腐っている」


「上手いこと言おうとしてるのは伝わるが正直微妙だぞ!?」


「そろそろ煮えたな。ポン酢で食べようぜ」


「三日尻、金がないのか?」


 その通りだ垂水くーん。年末は何かと飲み会が多く、こうして食費を切り詰めなくちゃならない。


「玉木に三日尻の家でピザ食べたって聞いて来たのに……期待外れだ」


「嫌なら食べるな」


「……いただきます」


 俺と垂水は豆腐を食す。食べて、暖まって、終わり。一分にも満たない晩餐だった。


「美味かったな」


「え、終了?」


「終わりだ。もうこの部屋に食料はない」


「三日尻終わってんな」


 おいおい、まさか垂水から憐れみの目で見られる日がくるとは思わなかったよ。仕方ないだろ、食費を削らないと金が足りないんだよ。


「何か食えただけ十分だろ。俺は満足だ」


「……三日尻、今までで一番ヤバイ時はどんな感じだった?」


「水道水と六枚切り食パンで三日過ごした時かな」


「引くわー……」


 おいおい、まさか垂水から引かれる日がくるとは思わなかったよ。いやー、あの時は死を感じたよ。よく餓死しなかったなと今でも思う。


「垂水こそ金なくて食に困ったことないのか」


 お前は太っているからかなり食べそうだし頻繁に髪を染めるから生活費大変そうなんだが。


「俺はバイトしてるから平気だ。それに一日三食は食べないと餓死する」


「ふざけんな。餃子一つでご飯一合を食べる生活を十二日間続けた俺に謝れ」


「お前すごいな!?」


「あの時も人間やめかけてたなぁ」


「いつか死ぬぞ……。まっ、俺は今からコンビニでガッツリ買ってくるわ」


 垂水は立ち上がると帰り支度をする。俺は即座に垂水の肩を掴む。渾身の力を込めて掴む。


「俺も連れてけ。そして奢れ」


「な、なんでだよ」


「俺は晩飯を振る舞った。ならば次はお前が奢る番だろ」


「湯豆腐一つで恩を売る気か!」


「Lチキピザまん黄金チキン和風ツナマヨおにぎりプレミアムロールケーキ奢ってくれ」


「どう考えても湯豆腐と対価じゃない!?」

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