92 拗ねる2
俺の腕が粘土人形よろしくもげそうになったが、安土さんが手を離してくれた。部活の練習があるらしく、安土さんは名残惜しそうに帰っていった。なぜ名残惜しそうにしていたのかは不明。そんなに俺をもぎたかったのかな?
「なぁ五月女」
「……」
体が裂けなくて良かっためでたしめでたし、とはならない。五月女の様子がおかしいからだ。
「……」
今はベッドで毛布にくるまって俺の方をじぃーと見つめてくる。毛布の中から覗かせる不機嫌なジト目。
安土さんと波長が合わなかったらしく、いくら俺が安土さんは良い人だと言っても聞く耳を持たない。それどころか、
「三日尻君の馬鹿っす」
と言って顔をしかめる。なんでそんなに不機嫌なんだよ。
「あー、ほら、ミルクコーヒーあるぞ」
しかし五月女は動かない。体に毛布を巻いて小さく唸る。それ俺の毛布なんだけど。
「安土さんは頭おかしいけど良い子だって。仲良くしてやろうぜ」
「安土さん安土さん……安土さんばっかっす」
「安土さんばっかってなんだよ。安土さんが影分身でもしたのか」
「また安土さんって言ったっす!」
三日尻君の馬鹿!と付け加えて毛布の中に深く潜り込んでしまった。
「何にキレてるのか知らんがそろそろ帰れよ」
「……帰らないっす」
「家まで送っていくからさ」
「泊まるっす」
頑なに帰ろうとしない五月女。いやいや女の子が簡単に泊まるとか言っちゃ駄目ですよ。大学生において泊まるってのは襲われてもいいって意味と捉えられるんだぞ。まさにワンチャン。
「帰れ」
「絶対に嫌っす」
「ったく……着替えジャージしかねーぞ」
「ジャージでいいっす。ジャージがいいっす」
その声は少しだけテンション上がっていた。チラッと見れば毛布から体を半分出していた。警戒を解き始めた猫みたいで可愛い。
「三日尻君シャワー浴びたいっす」
「はいはい勝手にどうぞ」
「あとお腹減ったっす。ピザ注文するっす」
「サイドメニューのナゲットも頼む」
「安土さんと仲良いんすか……?」
最後は声音が変わった。沈んだ声でボソボソと言った。
「安土さんと? うーん……よく分からん」
「……なんすかそれ」
いやだってなー。遊び行ったり部屋でのんびり過ごすけど基本的にあの人はやること言うことが常人の域を遥かに超えているんだよ。距離感が未だに掴めない感はある。
「……安土さんのこと、好きなんす?」
「好きって……いや、まぁ、すげー美人だなと思う」
「好きなんす?」
「……好きか嫌いなら、まぁ、好き、かな」
「……ふーん」
「なんだよ」
「別に!」
大きな声を出して五月女は再び毛布にくるまってしまった。えぇ……? お前はお前でよく分からん奴だな。
……なんだろ、やっぱ俺が悪いのかな。そんな気がしてきたよ……なぜだ?




