91 三日尻争奪バトル
このアパートに住んで二年目、こんなにも居心地が悪くて気まずいと思ったのは今日が初めてです。
「……」
「……」
俺の両隣には五月女と安土さん。二人は黙ったまま互いに睨み合っている。
時計を見れば沈黙してから三分しか経っていなかった。体感では一時間は過ぎたと思ったんですがねー、あははー……はぁ。
「安土さんは三日尻君の良いところを知っているのですか?」
俺の良いところってなんだろう。自分では思いつかない。
「知っています。三日尻君はほっぺたが柔らかいです」
いやそれ良いところか?
「ど、どうしてそれを知っているの……!?」
マジかよ正解かよ。俺の良さ頬だけ? 頬しか良いポイントないの?
げんなりする俺の真横にやってきた五月女。こちらを向いて不満げに見つめてきた。
「もしかして安土さんに触らせたんすか!」
「え、何を」
「ほっぺっす!」
「あー、いや、あー……うん、そうだったかも」
「自分以外には触らせちゃ駄目って言ったじゃないすか! 三日尻君の馬鹿ー! っす!」
五月女はぷりぷり怒りながら俺の頬をつついてくる。なぜ頬をつつく。お前はオニスズメか。
「うん、やっぱりぷにぷにっす」
「そですか……」
「あ、ズルイです。私も」
五月女に右頬をつつかれ、反対の左頬をつついてくる安土さん。
ぷにぷにぷにぷに、ぷにぷにぷにぷにぷにぷに……え、えぇ……?
「安土さん勝手に触らないで」
「その台詞そのまま五月女さんに返しますゲラチュラガルルボム」
「そのままじゃないじゃん。変な呪文やめてもらえる?」
「ワンワンミラキュルバチコーン」
「ファイブムーンレディ」
二人は俺の頬を触りながら呪文をかけ合い始めた。頬をぷにぷに、呪文が飛び交う。なんとシュールな光景なんだ。
「三日尻君の馬鹿っ、どうして他の人にほっぺ触らせたんすか!」
「三日尻君は悪くないです。私がお礼としてしたんですから」
「お礼って何よ」
「…………ちゅー」
「「え?」」
安土さんの思いがけない言葉に俺と五月女は同時に声を出す。
「え、やっぱあの時のアレって……」
「は、はい。ちゅー、です……!」
そうか、そうだったのか。やはりあの時俺の頬に触れたのは安土さんの唇だった。
昨年度ミスコン優勝者、ファンクラブも存在するアイドル級の美人、そんな安土桃香さんが俺の頬に……ちゅーしたのか!? 俺、誰かに殺されそう。
「な、なななななっ……!?」
「さ、五月女?」
「ううぅ~……三日尻君の馬鹿!」
「いや俺のせい?」
「三日尻君の馬鹿! 何やってるの!」
なぜか五月女が怒っている。リスみたいに膨らんだ頬、恨めしげで怒り狂う瞳、もののけ姫を彷彿とさせる逆立った亜麻色の髪、これは相当怒っている。その原因は全く分からない……えぇー?
「つーか安土さん、あの時そんなことしたのかよ……」
「え、えへへ」
何笑っているんだよ。あー、もっと堪能しておくべきだった。いやでも一瞬だったし、いや一瞬でも頬に触れた瑞々しくぷにっとした感触は忘れられない。
「それじゃあ一緒に新しい武器を買いに行きましょう」
安土さんは俺の腕を掴むと玄関へ向かおうとする。体が引っ張られていき、中腰の姿勢になったところで俺の体は止まる。
なぜなら反対の腕を五月女が掴んでいるから。
「だ、駄目っす。三日尻君は忙しいの」
「むぅ。五月女さんには関係ないと思いますっ」
「関係あるもん! とにかく三日尻君を連れて行っちゃ駄目なの!」
「む~、嫌です」
「それが嫌です!」
安土さんが引っ張り、五月女も引っ張る。右腕と左腕が引っ張られて俺の体が、があぁぁ!?
「痛い痛い! ちぎれるから!?」
「五月女さん離してください」
「そっちこそ離してよ」
「どっちも離してくれ体が裂けるうぅぅ!?」




