90 五月女乙葉VS安土桃香
空気が重たい。身を圧迫する緊張感に加え、ピリピリと肌襲う鋭さに全身が萎縮する。なぜこんなにも辛いのだろうか……。
「ど、どうぞ。ミルクコーヒーです」
「……」
「……」
テーブルを囲む、俺と五月女と安土さん。二人が会ってから室温が低くなったのは気のせいじゃない。
「し、紹介しておこうか。二人は会ったことないんだよなー、あははー」
「……」
「……」
五月女と安土さんは喋らない。二人とも無言で俺を見ている。何、何この、俺が悪い奴みたいな空気。俺のせい!?
「こ、こっちは五月女。で、こちらは安土さん」
「知ってるっす。有名人っす」
いつもの喋り方だが、なぜか辛辣で冷たい声の五月女。俺の精神ポイントにダメージ。
「あ、あぁそうだよなー、あへへー……っ。えっと、安土さんは」
「三日尻君」
「は、はい」
うぐぅ安土さんも怒ってる……。
「どうして私のふわふわキュートスターは折れているのですか?」
あ、そっち? そっちが気になる系? 今この状況でなぜ?
アホ二人と戦ってバットは折れてしまった。空気読めないアホ玉木の全力フライパンには敵わなかったよ。
「ご、ごめん」
「いいよ、新しいのを買います。あ、買いに行くの付き合ってくださいっ」
「ちょっと待つっす」
五月女が口を挟み、安土さんを睨む目が怖い……。対して安土さんは落ち着いている。
「安土さん、あなたは三日尻君とどういった関係ですか」
「私? 三日尻君とは……えへへ」
「は?」
「落ち着け五月女、フライパンを構えるな」
どうしたマジで。五月女が不機嫌だ。サスケやクラピカみたいな目をしているぞ。いや赤くはないんだけどさ。
「わぁ、カッコイイ武器ですねっ」
安土さんはニコニコと微笑む。良かった、安土さんはいつも通りだ。まぁこの人はある意味大丈夫だよな。
「そちらこそ、三日尻君とはどんな関係なのですか?」
「わ、私は……っ、その……い、一緒にクリスマスを過ごすくらいには仲良い関係ですけど?」
へ? 何を言っ、五月女がこちらを見て唸っている! 肯定しろと促している!?
「そ、そう、だな」
「ふふんっ」
俺が頷くと五月女はなぜかドヤ顔を浮かべる。なぜか。なぜだ?
「一緒にケーキ食べて夜遅くまで一緒です。七面鳥を丸々一匹焼いて五メートルのツリーに飾り付けします」
七面鳥一匹も五メートル級クリスマスツリーも無理だよ。俺のキャパ超えてるわ。
「それはもう楽しい二人きりの聖夜を過ごします」
「いやそこまでは」
「そうっすよね!」
「は、はい」
分かったからその緋の目で睨むのやめて! マジでビビるからっ。
「……」
「あ、安土さんどした?」
「ゲラチュラガルルボム」
安土さんが五月女を見て呪文を唱えた。
……空気がより一層重くなった気がする。
「は? 今のなんですか」
「なんでもありません」
「いや絶対何かあるでしょ。私に嫉妬しているのですか?」
「パッキルプッカリウキー」
「ほらまた言った。何なの?」
「ちょいちょいタイム! 一旦落ち着こう、な、な!」
二人の間に入って仲裁を試みる。が、五月女は苛立ったままだし、穏やかだった安土さんも今は不機嫌な顔をしているではないか。
二人は睨み合って火花を散らす。間の俺、火花が当たって痛い……。火花ヤベェ、それ以上にこの空気ヤバイ。
「五月女さん、でしたね。三日尻君と付き合っているんですか?」
「っ、つ、つつつ付き合っては……その、ないですけど? そういう安土さんも三日尻君の彼女ってわけじゃないですよね」
「三日尻君と私は……うふふっ」
「はあ? さっきからそれなんですか」
うおぉい五月女さん落ち着いて! あなた今にも『絶対時間(エンペラータイム)』を発動させそうな瞳の色してますよ!? 安土さんも煽るのやめてっ。
「……でも安土さん、三日尻君のこと……でしょ?」
「っ……」
あれ、安土さん顔が赤いけど?
「そう言う五月女さんだって」
「うっ……っ」
あれ、五月女も顔が赤い。二人してどうしたん? 暖房強いなら下げるけど?
「むむっ……」
「むぅ~……!」
火花がバチバチと散る。なんですか、この修羅場みたいな空気……。自分の部屋なのに……居づらいっす。




