85 雪
カーテンを開けてベランダに出る。いつも見る光景とは違い、一面が真っ白だった。闇夜から降りてくる粉雪は、まるで白い光を放つホタルのように神秘的で美しくて、
「オラー! 飲むぞー!」
「すんません人がしんみりしてるの邪魔しないでください」
金谷先輩は日本酒を片手にズカズカと部屋に入ってきた。
儚げな目で空を見上げていたのが台無しだよ、などという俺の意見はこの人からすれば全くもって眼中にないんでしょうね。
「はあ~コタツあったかい。風寒っ、おい三日尻窓閉めろ馬鹿ドアホ。さっさと閉めろ何やってんだカスうんこ」
「お邪魔した立場の人がお邪魔してから十秒で家主に対してここまでの罵倒をしますかね」
「ツッコミがくどい。いいからさっさと熱燗作れ」
「はい」
相変わらず金谷先輩には頭が上がらない俺ですこと。大人しく熱燗の準備を始める。その間、金谷先輩はカルパスを肴にビールを飲んでいる。分かる、カルパス超美味いですよね。
「そういや雪は大丈夫でした?」
「あぁ。彼氏に車で近くまで送ってもらったから大丈夫だ」
しれっと言ってるけど、とんでもないことですからね。他の男の家にまで彼氏に送らせる。こう聞くと悪女にしか思えないが、金谷先輩なので許される。許されるのかよ。
「はい、どうぞ」
「サンキュー店員さん」
「店員じゃないです」
「うまー」
コタツでくつろぐ金谷先輩は熱燗を飲む。その顔はほっこりしており、ぬくぬくと幸せそうな表情をしていた。
「雪降ってるな」
「そうですね」
「まるで白い光を放つホタルのようだとか思ってるんだろ?」
人の心を読み取らないでください。その通りだったから普通に焦りましたよ。金谷先輩はケラケラ笑って酒を飲む。いつもの光景、でも少し違う。
「今日はペース遅いですね」
いつもはビールや日本酒を浴びるように飲む金谷先輩が今は熱燗をちびちび飲んでいる。 こんなこと言うのも失礼だが、この人らしくない。
「たまにはのんびり飲みたいのさ。情緒があって良いじゃないか」
そう言う金谷先輩の視線の先は窓。風に乗ってふわふわ降る粉雪の光景はやはり綺麗だ。なるほど、雪を眺めながらコタツで熱燗を飲む。趣深いですね。
「俺も熱燗いただきます」
一口飲めば喉から広がる熱。瞬く間に全身を暖めてくれる。そして外を眺めてまた一杯。あぁ、やはり俺はこういったのんびりする時間が好きだ。
「もっと雪見たいな。おい三日尻、窓開けてこいさっさとしろカス馬鹿童貞」
「やっぱりアンタいつも通りじゃないか!」
グビグビ飲もうがちびちび飲もうが金谷先輩の人使いの荒さは変わらなかった。




