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83 花嫁修業2

 料理が壊滅的なのは分かった。そして料理スキルを一日やそこらで改善するのは骨が折れる。良きお嫁さんとして、他に長所はないか探そう。


「自分の部屋はマメに掃除してるか?」


「週に一回は掃除機かけてるっす!」


 どうやら掃除はちゃんとしているみたい。とりあえず一安心。


「洗濯は出来るか?」


「当たり前っす。衣服を突っ込んでボタンをピッっす!」


 服の素材や洗濯表示を把握して洗い方を変えているか聞きたかったんだけど。今の返事じゃ、衣服は全て洗濯機で入れているのか。いやでも下着類とか、あ、やめとこう。これ聞いたら殴られる。俺ちょっと学んだ。


「ゴホン。んじゃ、裁縫は得意か?」


「三日尻君、シャツのボタンが取れかけてるっす」


 五月女が指差すのは俺の右手。見れば手元のボタンが取れかけていた。あらまぁだらしない。


「丁度良いっす。自分の腕前を見せるっす~」


 裁縫道具借りますね、と言って五月女はテキパキと針に糸を通して玉結びを作る。おお、女子っぽくなってきた。やっと女子力スカウターが反応してきたよ。


「ちょっと待ってな、シャツ脱ぐから」


「ん、大丈夫っすよ」


「マジ?」


 五月女は俺の腕を取るとボタンを縫い合わせ始めた。服を着ている状態でするとは女子力が高い。これはかなりグッと来ますよ~。うんうんっ。


「う、こ、このっ」


「ホントに大丈夫?」


「大丈夫っす!」


 意気揚々と始めたはいいが、急に五月女の手つきがおぼつかなくなってきた。糸通しや玉結びは上手かったのに?


「ぐっ、人が着ている状態でやるのは初めてでやりにくいっす」


「初めてなのかよ」


「少し調子に乗りましたっす」


 素直でよろしい。五月女はボタンをつけるのに苦戦しながらも懸命に頑張っている。


 ……この時、密かにとんでもない事態が起きていた。それはもう、とんでもないことが。


「むっ、こうっすか?」


 独り言を呟きながら裁縫を続ける五月女は、俺の手を自分の方へとグイグイ引っ張っていく。やりやすい角度を探しているのだろう。


 そのおかげで、今……俺の手は五月女の胸に押しつけられている。むにゅむにゅ、と手の甲に当たる柔らかな感触。なんという事態。


「む、難しいっすね」


 五月女自身はボタンに夢中で気づいていない。そのせいか、さらに俺の手を腕ごと引き寄せてくる。ふにょ、ぐにゅ、と手の甲が五月女の胸に沈み込んでいく。

 ヤバイ、なんかヤバイ。色々とヤバイ! うほほぉ柔らけぇ……っ。服のさらりとした布の下に広がる感触が、あぁん。


「? 三日尻君どうしたんすか?」


「なんでもない」


 俺はキリッとした表情に切り替えて答える。

 あぶねぇ、あと少しで爆発していた。さっきも言ったが俺も少しは学んだ。ここでニヤニヤしていたら五月女に気づかれて殴られていただろう。そんなオチにはさせない、そんなもったいないことはしない。もっとこの幸せな感触を味わいたいから!


「ボタンはついたか?」


「ん、あと少しっす」


「そうか」


「むむ~」


 ……今のままでも最高だが、あれだ。手の甲ばかりに良い思いをさせるのは些か不公平じゃないかな? うんそうだ。ここはフェアに、て、手の平にも幸せを与えたい。手の平で触りたい。触りたい!


 ゴクリと唾を飲む。五月女はまだボタンに夢中だ。今なら気づかれないはず。そっと、ゆっくりと、手の方向を変えて……手の平を、五月女の胸へ……!


「な、何してるんす……!?」


「え?」


 あと少しで方向転換が完了するところだった。五月女が自分自身の胸元へ目線を落としている。そこには五月女の胸に沈む俺の手の甲。あ、れ……バレ、た?


「な、ななな何触ってるんすか!?」


「待て、落ち着け。きっかけは俺じゃない。お前が勝手に」


「三日尻の変態ー! っす!」


「ぎゃあぁ針がぁ!?」


 花嫁修業は一転して血の流れる惨劇へと化した。

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