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82 花嫁修業

「花嫁修業したいっす」


 まーた五月女が何か言っている。俺が実家から持ってきた漫画も読み飽きたのか、暇を持て余しているらしい。一応聞いてみるか。


「なんで花嫁修業したいん?」


「自分は働かずに専業主婦になりたいっす。あまり家事はせず、奥様方と高級ランチを食べてブランド品を買い漁りたいっす」


 うんそれ専業主婦じゃないよね。その名を被っているだけだ。花嫁修業より玉の輿を狙うって言った方が正しい。


「その為に花嫁修業をして女を磨くっす。女子力を高めるっす~」


「……あぁ、そですか」


「早速やるっす。まずは何をしたらいいっす?」


「あ、俺も協力する流れなのね。花嫁修業……まずは料理とか?」


「料理は自分得意っす!」


 と言われて五月女が出したのはピラフ。ホクホクで小さな具がたっぷりだ。うんピラフだね。これ、冷凍ピラフだよね。


「電子レンジで温めただけだよな」


「むふふ、自信作っす」


「何が? どこに自信持てる要素あるん? これ料理とは呼ばないからね」


 やはり五月女の中で料理の概念が間違っている。よく一人暮らし出来ているよな……。

 このままでは専業主婦どころか生きていけるかさえ怪しい。指導してやるか。五月女を連れてキッチンへと向かう。


「五月女、味噌汁を作ってみろ」


 主婦にとって基礎中の基礎だ。これは出来るはず。……そうだよな? 不安げに五月女を見ると彼女は得意げに鼻を鳴らしていた。


「任せるっす。まずはお湯を沸かすっす」


「うん」


「次にお椀を用意するっす」


「ん? うん」


「お椀にインスタントの具と味噌を入れてお湯を」


「待て待て。お前何してんの」


「何って、味噌汁ですっすよ。三日尻君は何を言ってるんすか」


 どうしてお前が呆れた顔しているんだ。こっちが呆れたいわ!


「いやこれインスタント味噌汁だから」


「え、これってインスタントなんす?」


「さっき自分でインスタントって言っただろ!」


 あぁ、二十歳の女の子がドヤ顔で作った味噌汁がインスタント。呆れを通り越して哀れに思える。


「五月女、得意料理は何?」


「唐揚げと春巻きっす! 最近の冷凍食品は美味しいっすよ」


「だから自分で言ってるじゃん!? 冷凍食品って言ってるじゃん? 料理じゃないじゃん!」


「じゃんじゃんうるさいっす」


「そうっすか。……ご飯は炊けるよな?」


 さすがにそれは出来るよね。それ出来ないと一人暮らしする資格ないよ。

 すると五月女は少しむっとした表情で見つめてきた。あ、馬鹿にし過ぎたかな……?


「ふざけないでくださいっす。ご飯は作れるっす」


「わ、悪かった」


「電子レンジでチンして一発っす」


「だと思ったよバーカ!」

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