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78 酔っぱらい

 バニラアイスにきな粉をかけてポッキーやクッキーを添える。三日尻流スイーツの完成だ。アイスときな粉って意外と合うんだよね~。


「いただきまー」


 言い終える前にピンポーンとインターホンが鳴る。むむっ、俺のスイーツタイムを邪魔する奴は誰だ。


 垂水もしくは玉木なら殴る。

 五月女だったら許す。

 金谷先輩は……諦める。


 さあ誰だ?


「こんばんわぁ三日尻君~」


「安土さん?」


 予想外の人が来た。やけに伸びた、なまめかしい声で部屋の中に入ってきたのは安土さん。


「なんで来たの。てゆーか、酔ってる?」


 安土さんの顔はほんのり赤みがさしており、にへらぁと口が緩んでいる。普段のお淑やかな微笑み方とは違うどこかだらしない緩み方を見ればこの人が酔っているのは明白であった。


「うふふ、酔ってないれすよ」


「酔ってるね」


 ちゃんと喋れていないのは酔った証。なんで俺の知り合いの女子は酔うと口調に表れやすいんだ。あ、金谷のアネゴはノーカンです。


「三日尻君手ぇ」


「うお危ねぇ」


 フラフラ~と倒れそうになる安土さんの手を取る。壁に頭打ちつけるところだったぞ。あ、手が熱くて柔らかい。


「よく途中で襲われなかったな」


「うふふ~」


 暗い夜道で美女が一人酔って歩いている。襲われる可能性の方が高い。

 え、無事……だよな? ざっと全身を見るが衣服に乱れはないし汚れていない。ロングスカート似合いますね。


「タクシーで来たので大丈夫れふっ」


「いやタクシーで自分の家に帰れよ!」


 なんで俺の部屋に来たんだっ。タクシー乗ったなら寄り道せず帰宅すれば良かったやん……。

 と、ともあれタクシーで来たから誰にも襲われずに済んだのか。そこはナイス判断。


「なんで来たの?」


「だからタクシーれす」


「いや違くて。来た理由は何? 何か用ですか?」


「私ミルクコーヒー飲みたいれす」


 話を聞きましょ~よ~!? 思わずハスキーボイスでツッコミを入れてしまった。心の中でだけど。

 安土さんは勝手に冷蔵庫を開けてミルクコーヒーを飲む。両手でペットボトルを持ってコク、コク、と飲む。ぷはぁとペットボトルを離す唇の瑞々しさと艶やかさは色気が漂う。なんかエロイ。


「あー、聞き方を変えるわ。今日は何があったの?」


「今日は部活の打ち上げがありゅましたー」


 ありゅました? 何それ可愛い。あ、きゃわいい。


「お酒を飲みゅまして、楽しかったれす」


 飲みゅまして? 何それ超きゃわいい。あ、俺メロメロになりかけている。気持ちをしっかり持て。


「飲み会帰りってことね」


「はいっ。みんなは二次会に行ってましたけど私は帰りましたー」


「なんで二次会に行かず俺の家に来たの?」


「男の人達が送る送るしつこかったのでタクシーで逃げましゅた~」


 逃げましゅた? うわぁそれ激きゃわいい。じゃなくて! この子ちょいちょい質問を無視するんですが。しかも肝心な質問に対してのみ!


「しつこかったれす。三日尻君が彼氏のフリしてくれたらなぁ」


「うぐっ、だ、だからそれは無理だってば……」


 そこを突かれると返す言葉がありません。え、やっぱ俺が悪いのか。でも実際付き合っていないしやはりそこは誠実にちゃんとしてだな……俺は誰に言い訳してるの?

 ゴホンゴホン! とにもかくにも安土さんが自分で自分の身を守っているので良かった。


「あー、休んだら帰れよ。送っていくから」


「あ、これアイスですか?」


「マイペースにも程があるよね。あなたシーマンよりマイペースだよ」


「シーマンあーん」


「俺はシーマンじゃない……って、あーん?」


 見れば安土さんがスプーンですくったアイスを俺に差し出していた。俗に言う、あーんってやつだ。


「何してるの……」


「三日尻君あーんっ」


「……あーん!」


 んぐっ、美味い。さすが俺のお手製スイーツ。さすが安土さんによるあーん。


 ……はあぁぁ、心臓が持たない。ただでさえ酔った安土さんの色気にメロメロ寸前だってのに……。

 この子は自分のやっていることに自覚があるのだろうか。彼氏のフリを頼んだり人の家でシャワーを浴びたり、俺じゃなければ完全に襲っているぞ。これ五月女にも言ったなぁ。俺の周りの女子は俺に対してガードが甘いと思う。あ、金谷先輩はノーカンでーす。


「うふふ、美味しいれすか?」


「美味しいですよ」


「私も食べりゅ~」


「どうぞ」


「あーんしてくらさい」


「……」


「あーん」


 これ五月女の時も思ったけど、安土さんにもあまりお酒を飲ませたら駄目だなぁ。俺のこと男として見てない気がするよ……はぁ。

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