74 高校時代
五月女と垂水が来た昨日、俺はらしくなかった。思い返すと、俺は垂水に五月女と話す時間を奪われたのが気に食わなかったのだ。子供かよ。男の嫉妬ほど見苦しいものはない。
それなのに……あぁ情けない。そして恥ずかしい。思い出したらベッドでのたうち回りたくなる!
実は今日も五月女の他にもう一人来ている。昨日みたいに拗ねたりしない、クールに振る舞おう。そう考えていたが、その心配は必要なかった。
「五月女先輩見てください。鼻からビールを飲むことに成功しましゴホゴホゲボボォ!?」
もう一人とは玉木麦平。アホ全開のノリでビール缶をひっくり返している。こいつに嫉妬は、うんしないね間違いない。
「あはは……玉木君は面白いね」
「面白いですか? じゃあ特別に僕のとっておきのモノマネをお見せしまーす!」
五月女がパチパチと拍手して玉木が立ち上がる。咳払い一つして玉木は、
「揚げたてのホットスナックを紹介する大学前のコンビニ店員さんのモノマネ! ……ただいやLチキ揚がりやしたおひとついかがっしょか~」
「似てる~!」
「あざます!」
五月女に褒められて喜ぶ玉木は次のモノマネを披露している。改めて考えると、五月女に玉木の相手をしてもらっているのだから俺は自分のことが出来る。レポートを書くのに必要なデータをまとめておくか。
「双方動くな! 動けば王蟲の殻より削りだしたこの剣がセラミック装甲も貫くぞ!」
「わぁユパ様だ。似てるねっ」
「あざます!」
「そういえば玉木君って三日尻君と高校の同級生なんだよね?」
「はい、ミカジのことはなんでも知っています!」
「ふむふむ。高校時代の三日尻君について教えてもらえる?」
「了解ラジャー!」
ここでピタッと手が止まる。了解とラジャーで意味が重複していることが気になったのではない。玉木が今から何を言うつもりなのか気になった。
おい玉木、余計なことを言うなよ。そんな思いで睨むが玉木に通じるはずがなかった。
「ミカジは学校が終わるとすぐに帰っていました」
「三日尻君は昔からグータラ君だったんすね」
五月女が俺を見てクスクスと笑う。その小馬鹿にした目やめろめろ。
玉木が変なこと言ったら反論してやろうと思っていたが……クソ、全くもってその通りだ。俺って当時から自分の部屋に帰りたがっていたんだよなぁ。
「……でも、それは三日尻なりの決別だったんだ」
突如、玉木の口調が変わった。真剣な眼差し、下唇を噛んでどこか悲痛げな表情を浮かべる。それにつられて五月女も声を落とす。
「どういうこと?」
「ミカジは野球をしていました。中学の頃から名の知れ渡った、将来有望の投手でした」
……。
「強豪校から声がかかり、ミカジは全国大会常連の高校への推薦が決まりました。けど入学式前に肩を怪我して……っ、ミカジは二度と野球が出来なくなった……」
「え……み、三日尻君……?」
「野球を見ていると体が疼く、心が渇望する、もう一度マウンドに立ちたいと。その思いを抑える為にミカジは練習が始まる前に帰って野球から距離を置いたんです」
……玉木。
「間近で見ていると大好きな野球が嫌いになってしまう。ミカジなりの、決別だったんです」
「三日尻君にそんな過去が……。三日尻君……そうだったんすね、だからいつも部屋にこもって……」
玉木が鼻をすすり、五月女が涙で目を腫らす。空気が沈んでお通夜のようだ。
俺から言えることは一つ。玉木、お前……
「俺野球やったことねーよ」
「……へ?」
五月女の間の抜けた声。目をパチクリさせて玉木と俺を交互に見ている。
「何そのエピソード、野球漫画のパクリかよ」
「え、え、三日尻君、肩に怪我は……?」
「ないよ。生まれてこの方大きな怪我をしたことがない。だってずっと帰宅部だったから」
「……う、嘘だったんすか」
徐々に目を見開いていく五月女の横で玉木が舌をちょっと出す。テヘペロってやつね。
「むぅ~……!」
あらら、五月女が唸っている。玉木、五月女を怒らせたら怖いぞ~。嘘話でも悲しい内容はしちゃ駄目だろ。さぁ今から五月女が怒って肩パンや腹パンを、
「三日尻君の嘘つきーっす!」
「なんで俺殴るの!?」
五月女の痛烈な拳が俺の肩や腹にヒットする。いやなんで俺なん!? 玉木を殴れよ。俺全然悪くないって!
「心配して損したっす。涙を返しやがれーっす!」
「痛い! た、玉木お前のせいだぞ」
「ポイントカードお持ちっしょかー」
「玉木ぃ!」




