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73 拗ねる

「それで俺は言ったわけよ。君達、食堂の中華風サラダドレッシングはみんなの物だよ、ってな」


「そうなんだねっ」


 垂水の謎な話を聞いてあげている五月女。そんな二人を見ながら俺は少し離れたところで小テストの勉強中。

 今日、五月女が遊びに来てからしばらくすると垂水がやって来た。最初は全く話せないでいた垂水だが、俺がフォローして五月女が優しく接したおかげで今は普段通りの饒舌っぷりを発揮している。


「やっぱこう、なんて言うのかな。食堂を気持ち良く使ってほしい俺の優しさが響いたって感じかな」


「垂水君すごいねっ」


「まぁな」


 五月女もよくあんな意味不明な話を聞いてあげているものだ。食堂の話みたいだが、垂水は食堂使わないだろ。ボッチのお前が食堂で過ごせるわけがない。


「ほら俺って結構食堂利用するんだよね。食堂のおばちゃんから顔を覚えられてさ、俺が行くと毎回サービスしてくれるんだ」


「それは垂水君がおばちゃんにも丁寧に挨拶しているから?」


「ザッツライト五月女さーん」


 完全に調子乗ってる……。五月女が優しく聞いてくれると分かった途端にこれだ。きっかけを作ってやった俺のことなんて見向きもしないで垂水は五月女に夢中だ。なんかムカつく。


「今度からは食堂で垂水君を探してみますねっ」


「うっ、ま、まぁ、あれだよ? あまり探さなくてもいいよ。見つけるの大変だろうし」


 ちょっと焦ってるじゃんか。でも垂水は楽しそうだ。大学生活で初めての女友達。きっと嬉しくて仕方ないのだろう。


 ……なーんか面白くない。垂水はどうでもいいけど、五月女がずっと垂水と話している。それも笑顔で。つーか垂水近い。あまり五月女に近づくな。なんかムカつく。なんかね。


「五月女さん、こ、今度の土曜日は暇かな?」


「スケジュール見ないと分からないけど、たぶん大丈夫かも」


「あー! こんなところに偶然映画のチケットがあるぞー!? あ、よ、良かったら一緒に映画でも観に行かない?」


 わざとらしい。何その大根役者っぷり。大根過ぎておでんの具にしてやりたいわ。例えが分かりにくい俺。


「んー、どうしようかな」


 ……五月女もなんざらでもない様子だ。へーへー、二人で映画でも食堂でも勝手に行ってろ。俺は部屋で一人グータラ過ごしますから。あー小テストの勉強大変だなー。ふん……。


「ねぇ三日尻君も行こうっす!」


 俺の肩をたたく五月女。パッチリとした瞳がこちらを見つめる。その向こうでは焦った様子の垂水の姿。


「あ、だ、駄目なんだよ。チケットは二枚しかなくてね~、ごめんな三日尻~」


 あぁ? 五月女を誘う為にずっと財布の中にチケット潜ませていたのを俺は知っているからな。


「俺行かねーからいいよ。二人で行ってこい」


「あらら~、三日尻ごめんな~」


「つーか帰れよ二人共。俺勉強で忙しいから」


「……三日尻君?」


 あ? なんで五月女は俺の顔を覗き込んでくるんだ。俺は五月女を押しのけて教科書に顔をうずめる。あー忙しい。


「五月女さん、三日尻は忙しいみたいだし放っておこうよ。もう日も落ちたし帰ろうか。あ、お、俺が送っていくよ」


「そーだ帰れ帰れ」


「……」


 垂水は立ち上がって帰り支度をする。チラチラと五月女を見て、チケットの一枚を差し出してきた。


「は、はい。じゃあ来週の土曜日に!」


「……んー、ごめんなさい垂水君。やっぱり土曜日は用事があった」


「えっ……あ、あぁそうか残念。じゃあ一緒に帰ろっか」


「私今からバイトなの。それまで三日尻君の部屋で待たせてもらうから」


 五月女、何を言っているんだ……?


「じ、じゃあ俺も残ろうかな」


「垂水君は帰った方が良いと思うよ。暗くなる前に、ね?」


「え、そ、そう……? あ、じゃあ、また、あ」


 釈然としない面持ちの垂水の背中を、五月女はグイグイと押して玄関の方へ押しやっていく。困惑する垂水の体が完全に外へ出ると、五月女は「じゃあね」と言ってドアを閉めた。


「さて、と」


 パッとこちらを向く五月女。俺は再び教科書へ視線を落とす。スタスタと歩く音が近づいて、五月女は俺の隣に座った。


「三日尻くーん」


「お前も帰れよ」


「んー、自分バイトあるっす。バイト先ここから近いんすよ」


「……お前、バイトやっていないだろ」


 五月女がバイトをしていると聞いたことがない。さっき垂水に言ったのは嘘だ。


「あ、そうだったっす。自分バイトしてないっす」


 なんでそんな嘘ついたんだよ。あと土曜日だって暇だろ? なんで垂水の誘いを断った? なんで垂水を追い出した?


「んふふー、三日尻くーん」


「んだよ……」


「えへへー」


 五月女が俺の肩に頭を乗せる。良い香りが鼻をくすぐった。


「重たいから離れろ」


「女の子に重たいって言っちゃ駄目っす。三日尻君減点っすー」


 さらに体を寄せてきた五月女は、俺の腕に頬をすりすりさせる。何がしたいんだ。


 それに……どうして五月女は嬉しそうな顔をしているんだろうか?


「何が目的だ」


「目的とかないっすー。たまにはいいじゃないすかー。それとも、三日尻君は嫌っす?」


「嫌だ。勉強しにくい。離れろ」


「それが嫌っすー。えへへ」


「……じゃあそうしてろ」


「はーい、っす」


 五月女とピッタリくっついて、俺は小テストの勉強を続ける。当然、内容なんて一つも入ってこなかった。

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