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「こんにちはー」


「う、うす」


 昨日に続いて今日もやって来た安土さん。昨日と変わらず可憐で端麗な微笑み。俺は落ち着かない。安土さんの美しさに動揺しているわけではなく、いやまぁそれもあるけど……やっぱり、昨日のあれが気になる。


「これクッキーです。バイト先で店長さんからもらいました」


「うす、どうも」


 安土さんはお礼と言って俺の頬に何かした。何をしたのか、何が触れたのか、あの未知の感触は一体……あ、これ美味い。


「今日もお店は大繁盛していました。すごく忙しくて大変でした」


「うす、お疲れ様っす」


 さっきから俺は「うす」ばかり言っている。俺は垂水か。いや樺地か。

 それとお店が忙しいのはあなたがいるからですよ。あなた目当てで男共が来店するんです。巷ではUSJに匹敵すると言われている。すげぇ。


「客からナンパされたりするだろ?」


「一分に一回は話しかけられます」


「毎分!?」


 仮に三時間の勤務なら単純計算で合計百八十回も声をかけられることになる。メイド喫茶の比じゃないぞ。

 それを聞いて一つ疑問が浮く。それだけ声をかけられて話をして、この子の残念な頭は露呈しないのだろうか?


「どんな話をしてるん?」


「今度一緒にご飯行きましょう、アドレス教えてください、付き合ってください、とかです」


「あ、うーん……うす」


 なんとなく店内の様子が想像できた。満席の店内で一分に一回のペース、どいつもこいつも安土さんとお近づきになるべく、雑談は省いてお誘いだけしているのだろう。会話をすれば安土さんの異様さはすぐ分かるというのに。


「毎回断るのもしんどいです。中には強引な人もいます」


「え、大丈夫なの?」


「しつこい人は常連さんが懲らしめてくれます。なんだろ、私の名前を書いたハチマキをした方がたくさんいます」


 これまた想像容易い。安土桃香ファンクラブだ。一般の大学生にファンクラブができること自体すごいね。きっと彼らは安土さんを誘いたいとかでなく、安土さんが快適に過ごせるよう尽力する団体なのだろう。マジでアイドルみたい。


「おかげさまで変なことはされません。でもいい加減鬱陶しいので何か対策したいです」


 この子たまに毒吐くよね。別に普通なんだけど、いつも上品で言葉遣い丁寧な安土さんが言うからギャップで毒に感じる。ギャップ萌えならぬギャップ毒。


「対策出来るならすればいいと思うよ」


「はいっ。彼氏がいるってことにすればお誘いも減ると思います」


「なるほど」


 というか安土さん彼氏いないんだね。もしいたらなんで俺の部屋に来るの!?とシャウトするところでした。


「ですから三日尻君。よろしくお願いします」


「え、何が?」


「彼氏のフリしてください」


 突然のことに俺はシャウトしそうになった。

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