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67 お礼

「ただいまです」


「あなたの家じゃないですけどね」


「パペロパペロニャンダーサイクル」


「首から長い毛が生えるのでやめて」


 家に帰ってきた俺の隣には安土さん。実はさっきまでデートをしていた。デート!

 と言っても普通に映画観て飯食って買い物しただけ。要は外でブラブラだ。でも俺はデートってことにしたい。デート!


「テキトーに座ってて。何飲む?」


「ミルクコーヒーをお願いします」


 安土さんってミルクコーヒー好きなのかな。最近はミルクコーヒーばかり飲んでいる。おかけで俺のストックしてあるミルクコーヒーの減りが早い。


「荷物持ってくれてありがとうございました」


「あれくらい平気だよ」


 なんてね。五月女の置いていった雑誌に載っていた『女子にモテる行動!』を実践したのさ。荷物を持つ男子はモテるらしいよ。本当にモテるなら大学へ登校する男子大学生の大半は両手に荷物を抱えているだろうよ。


「はいミルクコーヒー」


「ありがとうございます。お出かけとても楽しかったですね」


 ミルクコーヒーを飲んでニッコリ笑う安土さん。楽しんでいただけたなら何より。ただ俺は道行く男達に睨まれていたけどね。上映中でも睨まれた時はビビった。映画観ろよ。

 サラッと二人で遊んできたけど、これってすごいことなんだよな。安土さんとデート、垂水なら今年度の全単位を対価にしても欲しがるに違いない。まぁあいつはデートできても何一つ喋れないだろうが。


「あ」


「どうした?」


「忘れていました。クルックーフニュニヌ」


 安土さんは自らに呪文をかけ始めた。もう見慣れた光景だ。見慣れたのかよ俺。それどころか自然と質問できる。マジかよ俺。


「どんな効果?」


「今のは解除の呪文です。ポッポーギンギラギンウイッスは緊張をほぐす効果があるのですが時間制限までに解除しないと眼球が溶けてしまうの」


 あぁなるほど。ポッポーギンギラギンウイッスのデメリット効果を解除する為の呪文がクルックーフニュニヌってわけか。あれ、俺も頭のネジをどこかに落としたのかな?


「ん? 緊張をほぐすって緊張してたん?」


「……そうだ、買った洋服見なくちゃ」


 出ました安定の無視だー。これにも慣れた自分がいる。安土さんマイペースだからね。

 でも今のは変な間があったような……まぁいいか。


「えへへ、これ似合いますかー?」


 安土さんは服を広げて自分の体に合わせる。白を基調とした上品なコートは安土さんにとっても似合っている。


「プレゼント嬉しいです」


「そりゃどーも」


 このコートは俺が買ったものだ。雑誌には他にもモテるアクションが書かれてあり、女の子にプレゼントしたら良いんだってさ。それを鵜呑みに一万以上もするコートを買ったわけですが、今になってアホだなと後悔している。こうやって男は貢いでしまうんだろうね。


「大切に着ますね。うふふっ」


 ……ま、安土さん喜んでいるからいいか、ってこれが貢ぐ男の気分だ!? いかんいかんしっかりしろ三日尻光一、あまり金を使いすぎるとバイトをしなくちゃいけないんだぞ。それは嫌だぁ! よしオッケ!


「私まだお礼してないですよね」


「別にいーよ。俺が勝手にプレゼントしたんだし」


「でも何かしたいかも。……三日尻君、目をつぶってもらえますか?」


 ? あぁ、うん。俺は目を閉じる。

 ……漫画で見たことあるよこのシチュえーション。お、女の子が男の子の頬や唇に……そんなわけないよねー。あっはは。


「ふー……ポッポーギンギラギンウイッス」


 安土さんが小さく息を吐いて呪文を唱えた。確か今のって緊張をほぐす呪文、だっけ?


 などと思っていた脳は次の瞬間固まる。呼吸も、血流も、俺の体は動かなくなった。


 だって、だって……本当にそうだったから。

 俺の頬にあたる、柔らかい感触。柔らかくて、瑞々しく潤いあるものが触れた。


「……え?」


 慌てて目を開くと安土さんは既に俺から離れていた。

 い、今のって……い、いや、あれだよな? その、あの……あのぉ!? でも確信が持てない。だって経験がないから!


「い、今、何したの?」


「……」


「安土さん……?」


 安土さんはじっと俺を見つめる。俺というか、俺の頬。さっき何かが当たった頬を……頬をぉ! ホホヲォ!?


「三日尻君のほっぺた、柔らかい……」


「へ?」


「ぷにぷにだった」


 さ、さっきの感触の方が遥かに柔らかくてぷにぷにだったと思います自分。ねぇ、さっきの何? 確信が持てないからすっげー気になる。私気になります!


「な、なぁ俺に何をしたんだ。お礼って何したの!?」


「あ、クルックーフニュニヌ」


「それもういいからぁ!」

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