66 五月女、怒る
テーブルを中心にして座る俺と五月女、そして垂水と玉木。
まずは玉木が口を開いた。燦々とした笑顔と共に。
「じゃあ改めて自己紹介します! 僕は玉木です。一年生ですけどミカジとは高校からの付き合いで親友でズッ友です!」
「よ、よろしくです。五月女と言います」
玉木の元気溢れるエネルギッシュな挨拶に対し、五月女は少し引きつった笑顔で返す。
ごめんね、こいつアホなんだ。
「で、こっちは僕と同じ学科の二年生で……ほら垂水、挨拶しようよ」
「……っ、ぁ、その、た、垂水です……」
「垂水君ですね。よろしくです」
「うす……」
ハイテンションな玉木とは対照的に垂水の声はボソボソだった。顔を俯かせて五月女と目を合わせようとしない。
あ、五月女が困っている。ごめんね、こいつはウブなの。
やはり垂水は女子と話せないらしい。普段あれだけ偉そうに語っているのに実際は何も出来ないという典型的な口だけ野郎だ。
悲しいな。これならアホの玉木の方がマシ、
「見てください、僕は鼻からビールが飲めるんですよゲボゲボゴパァ!?」
マシじゃない。
咽せて涙とビールをこぼすアホの頭を叩いてタオルを押しつける。何ちょっと張り切ってるんだよ、そんな特技したことないだろっ。
「すまんな五月女、こいつアホなんだ」
「あ、あはは。別に大丈夫っすよ。自分もたまに咽せるっす」
「え、五月女先輩も鼻からビール飲むんですか!?」
「お前は黙って床を拭け。いいか、とりあえず黙ろう!」
五月女が鼻からビール飲むわけないだろ。五月女は普通に飲んで咽せるんだよ。何それ余計にタチ悪い?
「み、三日尻……」
「あ?」
「ちょっと……」
垂水が俺の耳元へ口を近づけて囁いてくる。
うん、うん…………五月女さんと話したいからサポートしてくれ、だってさ。懇願する目で俺を見てくる。
いつも威張っているくせに……ったくしょうがないな。
「五月女、垂水の頭を見てみろよ。カッコイイ金髪だろ?」
「あ、うん、そうっすね」
「五月女も金っぽい色だし、あれれ、お前らお似合いなんじゃねー?」
俺も随分とサービスしたものだ。さあ、あとはお前次第だぞ垂水。
垂水は顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
「? 垂水君どうしたの?」
頑張れ垂水。五月女が問いかけているぞ。ちゃんと目を合わせて喋れ。あと少しだ。
「あ、その……ぁ……っ、三日尻は俺の子分なんだぜっ!」
うおぉい何言ってんのおぉ? 話の流れぶった切ったし俺はお前の子分じゃねえぇ。何言ってんの? 馬鹿なの?
「三日尻は俺がいないと駄目な奴でな~、いっつも俺に泣きついてくるんだよ。全く困った奴だぜっ」
困った奴はお前だ。さっき泣きついてきたのもお前だ!
……あ、こいつ、俺をダシにして五月女への印象を良くしようと画策してやがる。
一度嘘を話したら止まらなくなったのか、垂水は饒舌にペラペラ語り出した。
「三日尻はホント駄目野郎さ。根暗で引きこもりでコミュ障。服はダサイし見た目もパッとしない。自分のうんこを食べることだってある」
おいちょっと待て最後のはおかしいだろ。俺はウサギかよ。食糞しねーよ!
語るにつれて調子が上がってきたのか、垂水の俺ディスりは勢いを増す。
「五月女さんは三日尻と仲良いの? やめときなよ、こいつアホで馬鹿でクソだよ。何の取り柄のない駄目人間さ」
俺がおとなしいのを良いことに、遂に垂水は俺へ攻撃を始めた。俺の評価を下げて自分を相対的に上げる作戦か。こ、こいつ本当にクズ野郎だな……。
「三日尻と遊ぶと五月女さんの価値が下がっちゃうよ。こーんなどうしようもない奴といたら駄目だって」
さすがに言い過ぎだ。俺も我慢の限界を迎えた。
おい垂水、いい加減に、
「いい加減にしてください」
「「へ?」」
五月女が机を叩く。衝撃で空のビール缶がテーブルから落ちる。
五月女は……怒っていた。
「三日尻君のこと悪く言わないでください。三日尻君はとても良い人です。優しくて面倒見が良くて、私にとって大切な人です!」
さらにもう一度テーブルを叩いた五月女はギロッと垂水を睨む。凄まじい眼力に垂水は小さく悲鳴を上げた。
「垂水君、でしたね。友達か親分か知りませんが三日尻君の悪口はやめてください」
「あ、ぃゃ、ぁ、ぁ、う……」
普段から女子と話せないのに、今は女子から睨まれている。何か言う度胸があるはずもなく、垂水は口ごもって先程以上に俯いてしまう。
しかしそれで許すほど五月女は優しくないらしい。目が鷹よりも鋭くなる。
「なんで俯くの」
「へ、いや、あ、ひぃ……」
「ちゃんと目を見て謝ってください」
「ぅ、うぅ、ぐすっ、ご、ごご、ごめんなさい」
「なんで私の方を見るんですか。三日尻君に謝らないと意味ないですよ」
「三日尻、ごめんなさい……っ、ひっく」
垂水は泣いて謝ってきた。号泣だ……。
話すきっかけを作れと頼んだ奴のことをディスって、挙句に怒られて泣いちゃったよ。お前どこまで哀れになれるんだ……。
「うおぉぉ拭きまくりマックス!」
床に落ちていく涙を玉木が綺麗に拭いていく。お前ずっと床を拭いていたんだねホント頭おかしいね。
ま、やり過ぎたって反省しているならいいよ。俺は垂水を許してやることにした。
「み、三日尻ぃ~!」
「泣くな馬鹿」
「ふふっ、ほら三日尻君は優しいっす!」




