65 邂逅
「それでは、推薦入試で休講となった今日を祝して」
「おっぱーい」
「乾杯じゃないんかーい」
「「あっはっは!」」
人の家で勝手に宴を始める垂水と玉木。缶ビールを持って騒ぐ。
「ぷはー、昼間から飲む酒は美味いんじゃ~」
「大学生の特権ですわぁ」
お前ら楽しそうだな。盛り上がる二人をよそに俺は来週の小テストの勉強をする。こいつらテストやレポートはないのか?
「なんだ三日尻、勉強なんかしやがって」
「そうだそうだ、ミカジも飲もうよ!」
早くも酔っているのか、馬鹿二人は俺の口元に缶ビールを押しつけてくる。あーあ、今書いているノートがデスノートだったらなぁ。
「でもせっかくなら女子と飲みたいよね」
「言うな玉木。所詮俺らはモテない宿命を背負った悲しき男子さ」
金髪ツンツン頭の垂水は寂しげにビールをすすり、玉木もうんうんと頷く。
「ねぇミカジ、誰か女の子紹介してよ」
「おいおい、部屋にこもってばっかの三日尻にそんな人脈ねーよ」
「それもそうだね」
ゲラゲラと笑われた。垂水栗栖、玉木麦平。共に急性アルコール中毒により友人の部屋で死亡、と。
「まっ、この三人にもいつか彼女ができると願って」
「しんぱーい」
「乾杯でもおっぱいでもなく心配なんかーい」
「「あっはっは!」」
垂水と玉木が二本目のビールを開ける。
と、その時インターホンが鳴った。
「えへへ、三日尻っ。遊びに来たっす~」
顔を上げれば既に部屋の中に突撃してきた五月女の姿があった。
五月女は部屋を見渡し、固まる。
「え……っと、あれ?」
困惑するのも無理はない。知らない男が二人いる。
だが五月女以上に垂水と玉木は動揺していた。
「え……?」
「え、え、え、え?」
アストロン並みに固まった馬鹿二人。傾いた缶からビールがこぼれているのにさえ気づかない。
五月女は俺の方を見る。
「じ、自分お邪魔だったすか?」
「そんなことないぞ。あー、会うのは初めてだったか」
五月女と垂水玉木がはち合わせになることは偶然にも今までなかった。今回が初顔あわせだ。
「紹介するよ。金髪が垂水で、こっちが玉木って奴」
「は、初めまして。五月女乙葉と言います」
五月女は戸惑いながらも丁寧にお辞儀するとニコッと微笑む。
対する二人は、
「あ、あ、あ、あ、あ」
「あばばば」
奇声を上げていた。玉木は激しくどもり、垂水に至っては白目を剥いている。とってもキモイと思いました。
「三日尻ぃ!」
「ちょっとこっちに来なさぁい!」
垂水と玉木に胸ぐらを掴まれた俺は部屋の隅へと引きずられる。どうしたお前ら。
「だ、誰だあの子は!?」
「僕あの人知っているよ。経済学部で可愛いと評判の五月女先輩じゃないかっ」
二人は目を見開き、俺の耳元でぎゃあぎゃあと囁く。ぎゃあぎゃあと囁くって矛盾した表現だなぁ。
「ねぇ無視しないで! ど、どうしてあんな可愛い子がミカジの部屋に……ま、まさか付き合っているの?」
「いや付き合ってない」
「あぁん?」
垂水の顔がヤバイ。玉木も大概ヤバイ顔しているが垂水は比にならない。眉間にシワを寄せてこれでもかと目を大きく開く。
「付き合ってないのにぃ? えへへ、三日尻君っ。とか言ってもらえるのかよテメェ。あ?」
「お、落ち着けよ。何をそんなにキレているんだ」
「これがキレずにいられるか。俺が散々モテる為に努力してきたのに、その裏でお前はしれっと女子と仲良くしてやがったのか!」
今にも天照を放ちそうな目の開き方。血涙が出る寸前だ。眼球がギョロギョロと蠢いて俺を睨みつける。
「おまけによぉ……何あれ、めちゃくちゃ可愛いじゃん。ミスコン出たら優勝候補だろ」
「同じ空間にいるだけで胸が苦しいよぉ……!」
そう言われてチラッと五月女を見る。五月女はいつものように座っており、俺を見て申し訳なさげに照れ笑いを浮かべる。んー、まぁ確かにそうかもな。
「ぐおおぉ、三日尻のくせにちゃっかり美少女と……」
「それは後で問い詰めてミカジを殺すとして」
俺殺されるのかよ。
「今はこの状況をどうにかしよう。これはある意味チャンスだよ」
「な、なるほどな。三日尻を通してあの子とお近づきになれるのかっ」
「垂水」
「玉木」
「「決まりだな」」
何か意思の疎通があったのか、馬鹿二人は静かに握手を交わす。
そして俺の方を見て、ニタリと笑った。




