59 のろけ
「酒を持ってこい!」
テーブルを叩く金谷先輩。いつもにも増して酒を飲んで荒れに荒れている。今日は機嫌が悪いみたいだ。
「ああぁムカつく。レンガで三日尻の頭を叩きつけたい。おい三日尻、レンガ持ってこい」
「叩きつけられるのに持ってくるわけないでしょ」
「じゃあブロック持ってこい」
「凶器度増してるし……」
「ちっ、どいつもこいつも!」
「何かあったんですか?」
酒を注いでそっと話しかける。これ以上暴れられても困る。話をしてもらってストレスを解消させよう作戦だ。
「ふんっ、別になんでもない」
「彼氏ですか」
「む……君は勘が良いな」
そりゃどーも。で、何かあったんでしょ。
「あいつメールを返さないんだよ」
「忙しいんじゃないですか?」
「それでも丸一日無視はおかしいと思わないか!?」
コップの底がテーブルにダーン! そのコップお気に入りなので壊さないでくださいよ……。
怒る原因は分かった。一つ言えるとしたら、金谷先輩も人の子だったんだね。彼氏のメールで不機嫌になるなんて可愛らしい一面だよ。
「あっちが悪いよな!?」
「まぁ何か一言でも返信するべきですよね」
「だよなぁ!」
金谷先輩を肯定しなければテーブルやコップ、果ては俺の身まで危ない。ひたすらイエスマンに徹しよう。
「忙しいってなんだよ。ずっと忙しいわけがない。うんこしている時にでも返信するべきじゃないか!」
「そうだそうだ」
「料理を作って待っている私の身にもなってほしいものだ。それなのにあいつは……!」
「そうだそうだー」
「でも、あいつも頑張っているんだよな」
「そうだそ……ん?」
「一生懸命頑張って、忙しいけど私との時間も大切にしてくれるんだ」
あれー? 話の流れ変わったぞー?
「あいつといると面白くて楽しいんだ。あいつと一緒にいる時間は少なくても、それを大切にしないとな」
「そうだそうだー……」
「この前もな、一緒に買い物行ったんだ。あいつファッションに疎いから私が見繕ってあげないといけないんだ~」
「……」
「あ、他にもな~」
その後も、勝手に機嫌が良くなった金谷先輩による彼氏自慢は続いた。おれはイエスマン。どんなに甘ったるい惚気話でもひたすら肯定して、頷いて、砂糖吐きそうになった…… 。




