57 ほっぺ
『この美肌クリームを使えばあなたのお肌はピチピチ。気になる男子もイチコロです!』
「ふむふむ」
『さらに今なら化粧水もセットでお値段そのまま。今すぐ電話を~!』
「買うっす~」
「それ俺の携帯」
五月女から携帯を奪い返して視線をテレビ画面へ。よくあるショッピング番組だ。
「もっと考えて購入を決めなさい」
「えー。自分はちゃんと考えたっす。三日尻君の名義で買えばタダで手に入ると」
「そういうことじゃない。悪だくみは考えるな!」
大体なんだこれは。美肌クリームって市販のクリームとどう違うんだよ。画面の右下に小さな文字で『※効果は個人差があります』と書いてあるし。
「こんなもん買うな」
「ぶー、乙女はお肌に敏感なんすよ」
頬を膨らませて怒る五月女。その頬を見るに、美肌クリームなんて必要ないと思うけどな。
「十分に綺麗な肌してるだろ。ほらこんなに」
頬に触ろうとしたら五月女が大きく仰け反る。そしてさらに頬をぷく~とさせる。
「か、勝手に女の子の体に触ろうとしないでっす。慰謝料一億円請求するっす」
「馬鹿な女の子か。もしくはアメリカか」
でも今のは俺が悪いね。五月女とは仲が良いが付き合っているわけじゃない。過度なボディタッチは駄目です。俺ってば紳士~。違う言い方すればヘタレ。
「ねぇクリーム買ってもいいっす?」
「買いたいなら買えばいい。ただしお前の名義で買え」
「三日尻君買ってっす~」
「嫌だよ。なんで俺が」
「ほら、三日尻君も使ってそのガサガサな肌に潤いを……」
そう言って五月女は俺の頬を指でつつく。貴様、自分が嫌がったくせに俺の頬は触るのか。女尊男卑を垣間見た気がする。
それに俺はノゾミール推奨の化粧水で十分だ。希ちゃんマジ可愛い、ってどうした?
「……」
ぷにぷに、ぷにぷにぷに。五月女は黙ったまま俺の頬をつつく。何度も何度も、執拗に触ってくる。
「な、なんだよ」
「……柔らかい」
「え?」
「な、なんすかこのほっぺ。ぷにぷにで柔らかくてモチモチで……本当に三日尻君のほっぺなんすか!?」
え、何。もっとガサガサで脂っこい肌を想像していたの? 失礼な奴だな。
さっきも言ったが俺はノゾミールがオススメする化粧水を使っている。いつかノゾミールに会った時に「いつもあなたの使っています!」と言うために、っ、ちょ、お前いつまで触ってるの?
「う、うおぉ。これはすごいっす……!」
「おいそろそろやめろ」
「無理っす。こんなにもモチモチのほっぺ……」
五月女は全くやめる気配がない。一心不乱、無我夢中で俺の頬をひたすらつつきまくる。そ、そんなに?
「これは中毒性があるっすね……うおぉ」
「自分では分からないけどな」
「……まだ誰も知らないんすね?」
「んー、たぶんな」
「三日尻君はこれから誰にもほっぺを触らせちゃ駄目っす。特に女の子」
「なぜに?」
「……だって知られたら三日尻君モテるもん」
「え、なんだって?」
ボソボソと独り言のように呟く五月女の声は聞き取れなさった。いや今のはマジで聞こえなかった。決して難聴系主人公じゃない。
「と、とにかく駄目っす。いいっすね?」
「とか言ってお前はまだ触ってるけど?」
「自分はいいんす! 自分だけはオッケーなんす」
「はぁ、そうすか」
「そうっす」
それからも五月女に頬を触られまくった。




