56 妄想
部屋で寝そべる俺と玉木。暇を持て余す哀れな男二人です。
「ミカジ、一緒に妄想しない?」
「じゃあ玉木がシチュエーション考えて」
「んーと、教室にテロリストが襲ってきたけど体育教師が筋肉解放して撃退するとか」
「完結してるじゃねーか妄想広がらねーよ」
妄想とは男子なら大抵の奴が通る道。自分が思い描く夢物語を妄想するのは楽しい。のはずが、玉木の妄想はイマイチ盛り上がらない。
「体育教師しか活躍してないじゃん。何が面白いんだよ」
「筋肉解放のところかな?」
「だったらラピュタかケンシロウ観てろ」
仕方ねぇな。俺がお手本を見せてやる。
「ゾンビが発生してキャンパス内がパニックになるけど俺は部屋に引きこもっているから無事でした」
「ミカジのも完結しているよ?」
本当だ。あれ? 俺って玉木と同レベル? それは心底嫌だ。付け加えよう。
「しかし部屋のすぐ近くまでゾンビが迫ってきてドアを開けられそうになるんだ」
「そこへ体育教師がやって来てゾンビを吹き飛ばすんだね」
「なんでまた体育教師出てきた。おかしいだろ」
「あ、そうだね。筋肉解放をした体育教師がゾンビを」
「そこじゃない! 筋肉解放していなかったことに懸念があったわけじゃないから!」
「マッスルリリース体育教師」
「英語にしたから何!? ザ・それがどうした!」
あぁもう妄想関係ないしっ。もっと胸踊る妄想がしたいんだよ。分かる!?
「あとはほら、あれだ。突然異世界に召喚されて勇者として戦う妄想とか」
「それいいね。僕は魔法剣士になりたい」
「そうそうそんな感じ。俺はそうだなぁ……」
「ミカジは英語教師になるんだね」
「なんで英語教師? 異世界に来てまで公務員になるかよ」
「英語教師になったミカジは仮定法過去完了解放を使い世界を救う」
「仮定法過去完了が使えるから何なの!? 異世界で何の役に立つ! ラノベならタイトルは『俺が異世界に英語教師として召喚されたけど仮定法過去完了しか教えられない件について』か!?」
「ミカジうるさい。被害妄想がひどいよ」
「うるせーよ!」




