53 人生ゲーム
ドアを開けてください、と声が聞こえたので玄関へ向かえば両手に大きなダンボールを抱えた安土さんがいた。
「何それ?」
「人生ゲームですよっ」
元気良く返事をした安土さんはとてとて、と可愛らしく歩いて部屋の中に入ってテーブルの上にダンボールを置く。置く瞬間にドゴォン!と音が響いた。何キロですか?
「これ私が作ったんです」
安土さんお手製の人生ゲーム。瞬間、額に汗がにじむ。知り合ってまだ短いが分かることはある。このダンボールの中身、とんでもない物が入っているのは間違いない……!
「持ってきたってことは今からするつもり?」
「やりましょう!」
安土さんの満面の笑みで言われたら大抵の男子は即イエスだ。ですけど俺は安土さんのヤバさを知っているから……少し悩んだ後に了承する。結局イエスなんかい!
安土さんがダンボールの封を開けている間に俺はキッチンへと向かう。重たい荷物を抱えて遊びに来てくれたのだからおもてなしはしなくちゃ。
「お茶とミルクコーヒーどっちが良……えぇー……?」
リビングに戻ってきた俺は自分の目を疑った。テーブルに広がる巨大なマップ。その中央にはクルクル回るルーレット。既製品か?と見間違う程の超クオリティの人生ゲームがそこにあった。
「全部一人で作ったの?」
「そうですよ。あ、私もミルクコーヒーが飲みたいです」
目がくらんだ。安土さんと会う度に脳が疲れる。本当、謎が深まっていくばかりだこの人。
ニコニコと笑ってミルクコーヒーを飲む安土さんを見て、俺は大きく息を吸い込む。落ち着け光一、気にしたら負けだ。安土さんはよく分からん人、その認識だけで十分。息を吐き、気持ちを立て直す。
「んじゃあ始めようぜ。ルールは普通の人生ゲームと同じ?」
「はい。あ、三日尻君のコマはこれです」
安土さんが渡してきたのは王子様のコマ。触った感触から、これは消しゴムを削って作ったものだと分かった。綺麗に色が塗られてこれまた完成度が高い。
気になる点は一つ、王子様が口から緑色の液体を吐いている。グロくね?
「なんでこの人嘔吐してるの?」
「私はお姫様のコマを使います」
ナチュラルに無視された俺は何も言わずスタート地点にコマを置く。うん、些細な点は聞かないでおこう。キリがないし返事がくるわけでもないし。
ともあれ安土さんと二人でゲーム開始。まずは俺がルーレットを回す。
「3ですね」
三つ先ね。俺は嘔吐王子を動かす。トン、トン、トン……たどり着いたマスには『全滅した』と記されていた。何これ。
「あ、全滅ですね」
「スタート地点からやり直しってこと?」
「いいえ。教会のマスにとまるまで棺桶に入ってもらいます」
安土さんはどこからか小さな棺桶を取り出して俺のコマを中に入れた。おいおい1ターン目から棺桶ぶち込まれるってどういうことだよ。俺はこれから棺桶をコマにしなくちゃいけないのか。つーか棺桶のクオリティも高いなおい!
「じゃあ次は私ですね」
駄目だ、早速ツッコミが追いつかない。頭抱える俺をよそに、安土さんはルーレットを回してお姫様を歩かせる。このお姫様のコマも素晴らしい完成度だ。ドレスの細かいヒラヒラとかどうやって作ったの? あなた才能あるよ。
「えーっと、『ヒッチハイクに成功。40マス進む』だ。やったぁ」
「めちゃくちゃ進んでるけども!?」
どれだけ遠い距離を送ってもらったんだよ! 実際に例えるなら東京から九州まで送ってもらったぐらいの距離を移動したぞ!?
「はい、三日尻君の番だよ」
2ターン目が始まる。安土さんは遥か先のエリアにいて、俺はほぼスタート地点で棺桶状態だ。既に敗北濃厚なんですけど。い、いや、まだ大丈夫。きっと何か大逆転できるマスがあるはず。諦めずルーレットを回せ~!
『いちいちレベル上げなんて面倒だ、バグ技を使おう。レベルが99になった』
ほらきた良いマスを当てた! ……当てたのか? レベルがカンストしたけど人生ゲームにおいてのメリットが思いつかない。レベル99でも棺桶に入ったままだし。
「じゃあ私の番です……わぁ、やった10だ!」
ルーレットの数字では最大の10を引いた安土さんはさらに爆進する。俺との差が広がっていく。
「『宝クジが当選。二億ゴールドを手に入れた』のマスだー」
俺との差がどんどん広がっていくよ!? 安土さんはダンボールの中から紙幣を取り出し、自分の膝の上に大量の札束を置く。
「忘れていました。これ最初の所持金、十万ゴールドです」
安土さんからお札をもらう。お札には子猫のイラストが描かれてある。可愛いねー。すごいねー。……やっぱこれ負け決定だろ。
「ふふっ、楽しいですねっ」
どこが!? クソっ、自分が作ったゲームだからって調子乗ってるな。ペガサスかよ。トゥーンワールドに引きこもってろ!
こうなったら意地でも逆転してやる。絶対に勝つぞと意気込んで回したルーレットが示すは5。五つ進んだ先にあったのは教会だった。
「やった。やった!? え、これで復活できる!?」
まさかの教会マスだ。棺桶に慣れかけていたが中に王子様いるんだよね。復活すればレベル99の王子が出てくる。なんだか勝てる気がしてきたぞ。
「復活するにはお金が必要ですよ」
「へぇー、どれくらい?」
ん、と言って安土さんが指で差す先は教会マス。よく見ると『復活するには十万ゴールド×レベル数のお金が必要』の説明文が書かれてあり……えっ?
「てことは俺レベル99だから……九百九十万ゴールド?」
「そうですね」
「俺の所持金は?」
「十万ゴールドですね」
……もうやめたい。




