49 闇鍋
グツグツ、煮える。ゴポゴポ、吹き立つ。真っ暗な部屋に灯る明かりはガスコンロの火のみ。
「煮えた?」
「煮えた?」
「煮えたね」
俺、垂水、玉木。それぞれが箸を持つ微かな音を合図に俺らは一斉に鍋の中に箸を突っ込む。
「食べる?」
「食べるだろ」
「食べなきゃね」
暗くてよく見えないが俺は確かに掴んだ。これが何なのか、果たして食べられる物なのか、答えは口に入れるまで分からない。
「……いただきます」
「いただくぜ」
「いっただきまーす!」
恐怖を打ち払い、勇気を振り絞って口に放り込む。ぐにぃ、と歯に食い込む食感。柔らかいようで固く、いくら噛んでも味がしない。俺はそれを吐き出し、手で触り……これが何なのか分かった。
「消しゴム入れたの誰だ殺すぞ」
「はいはーい僕ですっ」
「玉木! 最低限食べられる物を入れるって決まりだろうが!」
俺は消しゴムを玉木の方へ投げる。痛っ!と返ってきたのは垂水の声。投げる方向間違っちゃった。
「ふざけんなよ消しゴム食えねーから」
「え、でも匂いつき消しゴムだよ?」
「だから何!? 匂いある物が食せる基準? だったらお前はバニラエッセンス一気飲みしてろ!」
鍋の中に消しゴムが入っているイレギュラーさ。こんなことが平然と起きるのが闇鍋だ。俺ら三人は闇鍋をすることになり、食材は各自で買って何を用意したかは内緒。部屋の電気を消して鍋に投入して暗闇の中で食べるルールだ。
「ったく。それでお前らはどうだった?」
俺は消しゴムを食った。垂水と玉木は何を食べたのか気になる。まず声を出したのは垂水。
「それがな、これ全然噛み切れないんだ。薄くてグニグニしている」
「俺はそんなの入れた覚えはないな」
「僕もないねー」
てことは垂水本人が入れたやつか。すると垂水は「あ!」と合点がいったような声を出す。続けざまにペッと吐き出す音も聞こえた。
「どうした垂水」
「……これゴムだわ」
ゴムって、消しゴムじゃなくて……ゴム? 噛み切れない弾力、薄くて、ゴム。……まさか、
「自分の入れたやつ引くとか最悪だわ……」
「最悪なのはお前だろぉ!? お前もか、お前も食べられない物を入れたんかい。しかもゴムって……本当に最悪だな!」
「あはは、使う機会がないからってそれは酷いよー」
「玉木、お前後で殺すからな」
垂水の苛立った殺意ある声が俺の方へ。違う違う俺三日尻。暗いからお互いの位置分かってないよ。
「んじゃあ次は玉木か。何食った?」
「俺は自分ので三日尻は玉木のだった。確率的には三日尻の入れた食ざ、物体だろうな」
言い直すのかよ。大丈夫だって、俺はちゃんと食べられる物を入れたから。本当だよ? うんマジマジ。
「うーん、美味しかったんだけどこれ何だったかな……」
「名前が出てこないのか?」
「うん。ほら、何々のアレって呼ばれてるやつ。何だったかな……海のおちんぽミルク?」
「普通に海のミルクな。お前はこれをR指定にするつもりか」
つーか正解にたどり着いているだろ。なぜいらない言葉を加えたし!
にしても、玉木が引いたか。へぇ~……。
「海のミルクって牡蠣か。うおぉ玉木やったじゃん、それは当たりだわ」
「柿? 柿ピー美味しいよね」
「うんお前アホだったね。俺は牡蠣だなんてまともな食材を入れてないから、三日尻か」
「まぁな」
「牡蠣とか中々買えるものじゃないだろ。気前良いなー」
「まぁな。スーパーでめちゃくちゃ安かった。そりゃもうヤバイ価格で」
「……ヤバイ?」
むしゃむしゃ、と玉木の咀嚼音が止まる。さすがにアホの玉木でも不吉な予感を感じたのかなー? 垂水に至っては完全に沈黙しているし。
そうさ、スーパーで売っている激安の牡蠣ほどヤバイ物はない。下手したら、な?
「三日尻お前、友達をノロにするつもりか……!?」
「コンドーム入れた奴に言われたくねーよ。それにちゃんと煮込んだから問題はないだろ? まぁ絶対に安全とは言えないかもな~」
ちなみに俺が自分で引いた時はすぐに吐き出すつもりだった。お、どうした玉木君? 暗くてよく見えないが全身が震えているぞ~?
「良かったな玉木、それは当たりだ。牡蠣に当たって、な?」
「う、う……」
「玉木?」
「うおええぇぇ!」
「「ぎゃあぁ!?」」
玉木から聞こえる、嘔吐する音。こ、こいつ吐きやがった……! しかも鍋に向かって。べちゃべちゃ!と吐瀉物が液体に落ちていく。
「こ、これで大丈夫かな? あ、じゃあ二回目いってみようか」
「「絶対食わんわ!」」
玉木のゲロによって闇鍋はお開きになった。食べ物を粗末にしたら駄目なのだが後から鍋を見れば食材はほぼゼロだったのでセーフ。いやアウトか。




