48 雨2
一時間後、部屋の前に戻ってきた。鍵は開いており、これはつまり入っても大丈夫ってことのはずだ。
そうだよな? 大丈夫だよな? これで開けたら丁度安土さんがシャワー浴びて出てくるところからそんなラノベ展開が起きるわけないよな信じるからな!?
ずぶ濡れの男がドアノブ持ってブツブツ呟く姿はキモく見えるだろうが俺は真剣だ。
落ち着け、大丈夫。俺はどこにでもいるごく平凡な大学生。上条さんやリトさんみたいなトラブルは起きない。ええい南無三っ!
「あ、おかえりなさい」
安土さんは服を着ていた。お、おおぅ、良かった。……なんでちょっとガッカリしてんの俺ぇ!?
「シャワーありがとうございました」
「あ、あぁ別に構わないっす」
語尾が五月女になってしまった。でも仕方ない。
なぜなら安土さんが俺のジャージを着ているから。当然サイズは合っておらず、ダボダボのジャージを着た安土さんの姿はなんかすごく可愛らしい。袖からちょこっと指を出しているのとか、ヤバイ。
「ぐおおぉぉ……!?」
なんだこの気持ちは。これが、彼氏の服を着た彼女がめちゃくちゃ可愛く見える現象ってやつか!? ハートのキュンキュンが鳴り止まないっ!
「三日尻君?」
「ふわふわキュートスター貸して」
「? はい、どうぞ」
安土さんからプラスチックのバットを借りて、俺は自分自身の頭を思いきり叩く! ……ふーっ、冷静になれ三日尻光一。理性を、保て!
「み、三日尻君?」
「もう大丈夫」
「三日尻君ずぶ濡れですよ?」
「これくらいへっちゃら」
「頭から血が溢れているよ?」
「あぁこれ血なのか。雨かと思ったぜahahaha~」
俺は頭をタオルで巻く。そして爽やかに冷蔵庫からミルクコーヒーを取り出して安土さんに差し出す。
「ありがとうございます」
「いいってことさahahaha」
おれはしょうきにもどった。学校一の美女が俺のジャージを着ていようが、シャワーを浴びたばかりで色気ムンムンだろうが、もう大丈夫。
「うふふ。この服、三日尻君の匂いがする」
「がああぁぁ!?」
テーブルに、頭を、叩きつける。それはもう、全力で。
「三日尻君?」
「オッケーオッケー、意識良好オールグリーン」
「三日尻君、顔が血で真っ赤ですよ?」
「オッケーオッケー、オールレッド」
不意打ちを食らってしまった。今の笑顔は反則だろ。なんだこの子は、油断したら好きになってしまいそうだ!
「雨が止んだら帰れよ」
「うん。でも、あの」
「これ以上は譲れない。ジャージはまた今度返してくれたらいいから」
これ以上一緒にいるとマジで惚れてしまう。俺の理性がいつまで持つか分からない。安土さんには悪いがさっさと帰ってくれ。
「そうじゃなくてですね」
「なんだよ?」
「私の服……洗濯機で洗っている最中です」
今さらだが聞こえてくる洗濯機のヴォンヴォン音。
「勝手に使ってごめんなさい」
「お、オッケー。雨に濡れたから仕方ないよな。じゃあ服はまた後日返すからさ」
「服じゃなくて、その……し、下着も……」
下着。下着も洗濯している。つまり安土さん。安土さんは今、着ているのはジャージだけでその下には何もつけていない。つけていない。
無言。無言。無言の後、俺はベッドの上に立つ。大きく反動をつけ、天井スレスレまで飛び上がり、頭の方から落下していき、
「がああああぁぁぁぁ!」
テーブルに、頭を、叩きつけた!!




