42 トランプタワー
息を止め、指先に全神経を集中させ、二枚のトランプをゆっくり頂上へと運ぶ。
「……っ、よしっ! 完成だ!」
テーブルに堂々と君臨するトランプタワー。なんと五段だ。我ながら惚れ惚れする。SNSに投稿したいぐらい。
「気持ち良い~! ……で、これをどうするの?」
暇つぶしに作ったわけではない。隣に座る女子に頼まれてトランプタワーを積み上げたのだ。その女子とは、安土さん。
「わぁすごいですねっ」
安土さんは嬉しそうに微笑むと鞄からプラスチック製のバットを取り出した。嫌な予感しかしない。
「魔法のステッキ、ふわふわキュートスターですっ」
「待って、待ってください。何するか分かったから察したから。せめて写真だけでも撮らせてください少しでいいから待ってください!」
「熾獄夜叉烈斬!」
「ステッキの名前と技名の世界観が違い過ぎるがああぁぁ!?」
安土さんの容赦ないフルスイングはトランプタワーを完全に破壊した。俺の頑張りが、やっと完成した大作が……っ!
「ふぅ……あ、思いつきました。新しい呪文できました~」
「……」
「インスピレーション爆発です、って……三日尻君?」
「っ、うあぁ……」
トランプタワーと同様に俺もその場に崩れ落ちた。体に力が入らない。
そりゃ安土さんのことだから何かするとは思っていたさ。けど完成直後に壊すのはあんまりじゃないか。悔しさのあまり涙が出てきた。
「……三日尻君」
「ぐすっ、ごめん、子供みたいに泣いてキモイよな……」
「ごめんなさい」
「え?」
涙を拭った視界に映る、安土さんが深く頭を下げた姿。黒の長髪が耳元からサラサラと流れ落ちる。
「三日尻君が頑張ったのに、ふざけ半分で壊してしまって……今のはやりすぎました。本当にごめんなさい」
まさかの反応に悲しみは吹き飛んだ。安土さんが謝罪。この子はただの変人ではなかったらしい。
「いや、まぁ、分かってくれたならそれで良いよ」
「お詫びに何かさせてください。私が出来ることなら何でもします」
顔を上げ、涙目でこちらを見つめる安土さん。美しい一輪の花に水滴がついた、瑞々しくて煽情そそる表情。そして……な、何でも……!?
こ、これはもしや……大チャンスなのでは? 相手は安土桃香さん。頭のネジは吹き飛んでいるが外見は文句なしの美女。誰もが見惚れる学校一の美女が、何でも、何でも! 何でもしてくれるってよ。あれこれ妄想が膨らんで生唾が溢れる。
「じ、じゃあ……」
どんな願いでも安土さんは叶えてくれる。神龍が言うよりも遥かに嬉しい。い、いくぜ。はぁはぁ……!
「じゃあさ、完成した呪文を俺にかけてくれよ」
「え?」
「反省してくれただけで十分だ。申し訳なさそうな顔するなよ。いつも通り、のんびりくつろごうぜ」
俺はニッコリと笑いかけた。ニッコリ、笑いかけて、笑い…………な、何をやっているんだぁ!?
馬鹿、俺の馬鹿っ。千載一遇のチャンスだったのに、安土さんにエロイお願い出来たのに! やってしまったうがああぁ。
「? 三日尻君?」
「ああ、いや、なんでもない」
何をドヤ顔してカッコイイこと言ってるんだ。安土さんを無茶苦茶にできたかもしれないってのに……ぐぅ。トランプタワー崩されたのより悔しい。神龍、数分前に時間を戻しておくれーっ。
「……うふふ」
安土さんは微笑む。こんな美人を……あーあ、もったいないことした。
「キューキューピーチパフューム」
「あ、呪文?」
「効果は内緒です。三日尻君、バイバイっ」
呪文をかけ終えた安土さんは帰っていった。最後の方、なんとなく嬉しそうに笑っていたのはなんだったのだろうか?
けど凡人の俺が考えたところで奇人の安土さんの考えは分からない。終わったことだし気持ち切り替えよう。……もう一回作るか。




